第三話 ④
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『うむ。今週からスタート『どきどき☆生徒会長のお悩み相談室』の時間だ』
スピーカーから流れる会長の声。どこか緊張しているようにも聞こえる。
『ご存じ一流生徒会長こと神山栞と、今回の相談者の……』
『……え!? 私!? み、三谷牡丹です!』
いきなりチグハグだ。大丈夫だろうか。
『てゆーか、私、どうしてお昼の放送に参加させられてるんですか!?』
『この番組はな、悩みを持つ生徒のそれを私と話すことで解決するというものだ』
『は、はぁ……』
『君は悩みがあるらしいではないか』
『な、悩み……? そんなの別に……』
『なになに……資料によると、片思いのクラスメイト、須ど――』
『あーー! あーーー!!』
急に大声を発する三谷。耳が痛いほどきーーんと声が反響する。
「こ、これは放送事故デスね……」
隣でサンストーンさんが呟く。
『ちょっとなんなのよ! 危うく公開処刑される所だったじゃない!』
『す、すまない。個人情報であったな』
三谷の片思いの相手の名前を聞けなかったのは残念だが、どうやら恋愛相談らしい。
「須藤君。罪な男ね……」
横で君塚がぼそりと呟く。
『もうこんな放送付き合ってらんないわよ!』
『ま、待ってくれ!』
『誰が待つもんですか!』
これはまずい。完全に三谷はご立腹だ。
『どうしても待たないのか?』
『え、ええ。もう帰ってやるわよ!』
『出演特典を付ける!』
『はぁ?』
『生徒会長握手券と生徒会長ブロマイド、生徒会ドラマCD、生徒会長お風呂ポスターと生徒会イベント優先券さらに、あきたこまちも付けよう!』
それキングダム王国の特典内容パクッただろ絶対。
っていうか、この特典で三谷を引き留めることができるのか……?
『あきたこまち貰えるの……? な、ならちょっと話しするくらいならいいわよ……』
『良かった……』
三谷にとってあきたこまちがそこまで魅力的だったとは……
『うむ。では早速だが、君はもう彼に告白はしたのか?』
『こ、告白!? そ、それはまだだけど……』
『それはいけない。今から私と告白のシミュレーションをしてみないか?』
『シミュレーション?』
『うむ。私が相手の男役をするから、三谷は告白をしてみてくれ』
『まぁ、ちょっとくらいなら……』
『では始めるぞ! お前が私に告白するために呼び出したという設定だ』
生徒会長の一声と同時にデデーンとまるでコントの開始前のような効果音が流される。
『あっ! ちゃんと来てくれたんだ……』
三谷が言う。こいつ、なんやかんや文句言いながらもいきなりアドリブで演技とはなかなかノリがいいな。流石はリア充と言ったところか。
『遅れてすまない』
『たいして待ってないわよ』
『三日も遅刻したのにか?』
『三日も遅れた設定なの!? 何してたら三日も遅れるのよ!?』
『モンハン……』
ぼそりと呟く会長を無視して三谷は強引に続ける。
『今日は……ごめんね? 急にこんな所に呼び出して』
『うむ。私も驚いたぞ』
『はは……そうよね』
『ああ。まさか掃除道具箱の中に呼び出されるとはな』
『え!? じゃあ今二人で掃除道具箱の中にいる設定なの!?』
『いや……三人だ』
三谷は『あともう一人誰よ……』と舌打ちと共に言うが、スルーして続ける。
『今日は伝えたいことがあるの……聞いてくれる?』
『お前が中学生になるまで北海道と沖縄を逆に覚えていた話ならもう聞いたぞ?』
『そんなバカな中学生いるわけないでしょ!』
三谷が盛大なツッコミを入れる。
スピーカーから『え……勘違いしてたの私だけなのか……?』という小さい声が聞こえた気がしたが、ここはスルーしておこう。
『して、伝えたいこととは?』
『私、小さい時からずっと……!』
『……』
『あなたのことが好きでした! 付き合ってください!』
『……いいだろう。しかし、条件がある』
『条件?』
『恋人料金、一日につき二万円だ!』
『レンタル彼氏かっつの!!』
またも盛大なツッコミ。
『あんたこの状況わかってる? 今、モンハンやってたせいで遅れたあんたを、私はどこのどいつか分からない人と掃除道具箱の中で三日も共同生活をしながら待ってて、挙句の果てには恋人料金請求されてるのよ!?』
『い、いや……恋愛にはインパクトがあった方が良いと雑誌で……』
『これはインパクトと言うよりもはや狂気よ!!』
しかし、かまわず会長は続ける。
『さて、告白が成功したら次はデートだな』
『デート……』
『どんなデートが理想だ?』
『遊園地とか、夏祭りとか行きたいけど……まさかまたシミュレーションする気?』
『ああ。当然だ。夏祭りでやってみようか』
『えー……』
あからさまに嫌そうな声を出す三谷。
けれど、会長は全く気にしないという風にシミュレーションを開始する。
『やあ。お待たせ。すまないな。三日も待たせ――』
『遅刻癖ありすぎでしょ! てゆーか夏祭り終わっちゃう! 時間ちょうどの設定で!!』
会長が言い終わるのを待たずに間髪おかず三谷がツッコミを入れる。
『う、うむ。では、屋台を見て回ろうか』
『その前に! 普段と違う私の服装を見て感想とかないの!?』
『む……?』
三谷の中では浴衣を着ている設定なのだろう。
『その……よく似合っているぞ』
『そ、そう……?』
『ああ。お前ほど似合うやつはいないよ……ふなっしーのキグルミ……』
『ふなっしーのキグルミで夏祭り来るバカがいるか! 浴衣よ! 浴衣!』
『む……浴衣か。てっきりふなっしーかと……』
どんな勘違いしたらそうなるんだよ。
「会長……昨日見てたテレビにふなっしーが出ていて大喜びしてたから……」
と、俺の隣で副会長が言う。
ふなっしーに大喜びする高校三年生か……
『で、どの屋台から行くのよ?』
『うむ……腹が減ったから、たこ焼きでも食べるか』
『そうね。じゃあ、私はたこ焼き6個入りに青のりとマヨネーズをトッピングで――』
『な、なんだと!?』
『!? 急にどうしたのよ?』
『い、いや……マヨネーズをトッピングするなどお前……まさか富豪か?』
『富豪? そんなワケないでしょ。一般家庭よ。だいたいマヨネーズのトッピングなんて50円くらいでしょ?』
『え……マヨネーズのトッピングって999999円じゃないのか?』
『はぁ!? 何言ってんの? そんなワケないじゃん!』
呆れたように言う三谷。
会長は、『私の行きつけのたこ焼き屋では999999円なのだが……変なのか?』と呟く。
その店、宮部さんとこだろ……
『あ! もうすぐ打ち上げ花火が上がるらしいぞ』
『そうなんだ。じゃあ、どこかに座って見よっか』
『うむ』
ぱぁーーん!
スピーカーから花火の効果音が鳴る。
『お前の方がキレイだよ』
『は?』
『いや、忘れるといけないから先に言っておこうかと……』
『そーいうのは、私がキレイねぇって言ってから言うの!』
『そ、そうか……ではもう一度やってみようか』
『もーそんな気分じゃないからいいわよ!』
『す、すまない』
『ほんと、あんたってダメダメね! 一流とか言われてるけど、本当はちょっとおかしいんじゃないの!?』
『む。その言い方だとまるで私がおかしいみに聞こえるぞ』
『だからそう言ってんのよ!』
まずい。双方ともに非常にけんか腰だ。
「会長……大丈夫でしょうか……」
副会長もおろおろしてるし。
『もういいわよ! どうせ無理なのよ……』
『どうせ無理? どういうことだ?』
『あいつね。彼女がいるのよ。それも籍まで入れたのが二人も……』
『……』
『だから、こんな相談してもらっても無意味ってわけ。最初から無理だったのよ』
投げやりな口調で言う三谷。
『無理だと……?』
『そーそー。もう無理――』
『そんなことはない!』
『……!』
会長の大きな声はスピーカーごしにこだまする。
『で、でも……!』
『三谷。もう気が付いているかもしれんが、私は一流生徒会長などではない。ただのぽんこつだ』
『私も驚いたわよ。てゆーか、そんなの放送で言っていいわけ?』
『いいんだ。これまでずっと隠してきたが、それでは前進できんからな』
まさか会長がぽんこつを暴露するとは。
だいぶコンプレックスに思っていたようなのに。
『だから私は、三谷に空前絶後の解決方法を教授することとは、できない』
『……』
『けれどな! 共に頑張ってみないか!?』
『え?』
『私は確かに、勉強も運動も買い出しさえも満足にできん。けれどな、一流になることを諦めたことはない!』
『……』
『二人彼女がいるのなら、逆に考えれば当然三人目になれる可能性があるということだ!』
『三人目……?』
『ああ。そこから他の二人を押しのけて、自分が一番になれば良い! それだけの話だ』
『……』
『……』
少しの沈黙。
『……なにそれっ』
三谷がぷっと吹き出す。
『な!? 笑ったな! 人が精いっぱい……』
『あー、でもあんたのお蔭でなんか吹っ切れたわ』
『……え?』
『ええ。もう一度、頑張ってみようかなって、そう思えましたよ。会長』
『それは、良かった』
会長は安堵感と満足感に満ちた声でそう言った。
~~じゃららっら。
放送時間の終わりを告げる音楽が鳴り始めた。
『うむ。そろそろ時間か。お相手は一流生徒会長、神山栞と……』
『一流じゃないでしょ!』
『これからなるのだ!』
『ふふ。三谷牡丹でした』
そうして、第一回『どきどき☆生徒会長のお悩み相談室』は終わりを告げたのだった。
次も近いうちに!




