第三話 ③
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「まず、会長サンはどうなりたいのデスか?」
「当然、一流だ」
「一流と言ってもいろいろデスよ?」
サンストーンさんの問いに対し、会長はむぅと唸って腕を組む。
「そうだな……全校生徒から尊敬されるような……そんな一流だ」
あいまいではあるが、それが会長の求める一流らしい。けれど……
「今でもじゅうぶん尊敬されていると思いますよ」
そう。会長は一流生徒会長として全校生徒から尊敬を集めている。現状に不満があるのだろうか?
「それは偶像の私に対する尊敬だ」
「偶像……?」
会長は頷くと、語り始める。
「たとえば、私が生徒会長に就任した際の選挙演説。あれを覚えているか?」
「はぁ」
覚えている。「一流」という言葉を多用した、シンプルながらもとても印象的な演説だった。あの演説のお蔭で生徒会長選挙は現会長の圧勝となったのだ。
「実はあの演説の台本は奏が書いたのだ」
奏とは副会長の下の名前だ。
副会長は俺たちのとなり困り笑を浮かべる。
「これが今流行のゴーストライター事件デスか……」
サンストーンさんが頷く。流行って、それどこぞの怪しげな作曲家だけだろ……
「さらに、私が小論文コンクールで全国一位になったとうい話を知っているか?」
続ける会長。
その話も当然知っている。というか、うちの学校で知らない人はいないだろう。
「あれも奏の書いた小論文だ」
これもかよ。
「なるほど。これが今流行の論文コピペ事件デスか……」
頷くサンストーンさん。流行っていうか、これもどこぞの怪しげな研究者だろ……
「あと、理事長が私に頭が上がらないという話を知っているか?」
これも当然知っている。また副会長が絡むのだろうか。
「実はこれも、奏が理事長のパソコンをハッキングしてエロゲのファイルを見つけたからなんだ……」
理事長エロゲーマーかよ……
「なるほど。これが流行のPC遠隔操作事件デスか……」
と、隣で呟くサンストーンさん。そろそろネタがやばいのでツッコまない。
「……つまり、私の功績と呼ばれるものは、全て私によるものではない」
「だから、偶像……」
君塚が静かに言う。
「ああ」
少し悲しげな生徒会長。
「……」
少しの沈黙。
しかし、君塚の一声が沈黙を破った。
「なら功績を上げましょう」
6
翌日の昼休み、俺たちは放送室に集まっていた。
君塚曰く、会長が現在の自分に満足できないのは、自分自身による功績がないかららしい。
まぁ、俺もそれは正しい考えだと思う。
「というワケで! 悩める乙女! 三谷サンを連れて来まシタよ~」
「ちょ、ちょっとサンストーンちゃん! これどーいうことよ!?」
サンストーンさんに腕を引かれ、強引に連れてこられた三谷は混乱しているようだ。
それもそうだろう。
なにせ……
「うむ。ではこれより、『どきどき☆生徒会長のお悩み相談室』の第一回放送を開始しよう」
ドヤ顔で腕を組み言う会長。
そう。生徒会長の職権を乱用し、お昼の放送をジャックしたのだ。
そして、その栄えある第一回のゲストに選ばれたのが三谷だった。
サンストーンさん曰く、乙女な悩みを持っている三谷が適任者らしい……俺にはなんのことやらさっぱりだが。
「聞いてないんだけど!」
声を上げる三谷。
そりゃ聞いてないだろう。アポなしでサンストーンさんが強引に連れてきたのだから。
「まぁまぁ。こちらにお掛け下さい」
にこにこ笑顔で副会長が三谷に椅子を勧める。
三谷もしぶしぶ腰を掛ける。
「では会長、頑張ってくださいね」
「……うむ」
こうして、『どきどき☆生徒会長のお悩み相談室』の放送が始まるのだった。
7
「この放送で三谷の悩みを見事解決できれば、それが成果にもなるし、会長が一流であることのアピールにもなる……ってことか」
「そうね」
君塚とサンストーンさん、そして副会長と共に放送室の前の部屋で待機している。
放送時間はもうすぐだ。
「会長……私がいなくて大丈夫でしょうか……」
がらにもなく副会長が少しうろたえている。
勝手なイメージだが、この人はいつも腹黒い笑みを浮かべているような印象がある。なので、こんな姿は少し新鮮だ。
「ちょっと気になったのデスが……どうして副会長サンが副会長サンなのデスか?」
遠慮がちにサンストーンさんが言う。
「というと、どういうことでしょうか?」
聞き返す副会長。
「だって、会長サンより副会長サンの方が会長向きと言いマスか……」
「……そうですね」
目を細めてほほ笑みながら言う副会長。
これに関しては俺もサンストーンさんと同意見だ。
何故、ぽんこつの会長が会長で、優秀な副会長が副会長をしているのか。
これは少し疑問に感じていた。
「会長は確かにどうしようもないぽんこつです。勉強も運動も、買い出しも満足にできないぽんこつです」
言葉では会長を貶めるようなことを言っているのに、どうしてだろうか、そこから会長への憎悪は一切感じない。
「ですが、会長は――」
その時、
……じゃかじゃかじゃか
やかましい音楽がスピーカーから鳴り始めた。
「あ、もう放送が開始しましたね。続きはまた後で」
副会長は笑顔でそれだけ言うと、少し心配そうな表情で放送に耳を傾けるのだった。




