第三話 ②
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「メールでサンストーンさんに生徒会室に来るように呼び出されたのだけれど……」
サンストーンさんに連れられて生徒会室の前に着くと、そこには先に君塚が来ていた。
「放課後、夕焼けの校舎、生徒会室に呼び出し……これってどう考えても告白よね?」
いや、放課後、夕焼けの校舎までは理解できるが、生徒会室に呼び出しってのはあまり聞いたことがない。
「サンストーンさん、気持ちは嬉しいのだけれど、私、百合は見る専なの。私自身はノーマルなのよ」
「イ、イエ……ワタシは……」
困り顔のサンストーンさん。
「ふふ。冗談よ」
「冗談でシタか……」
安堵の表情を浮かべるサンストーンさん。
「それで、私たちはどうして生徒会に呼び出されたのかしら?」
「実はデスね――」
がちゃり……
サンストーンさんが説明を始めるかと思った時、生徒会室の扉が静かに開かれた。
「須藤さん、サンストーンさん、君塚さんですね」
扉から出てきた人物は生徒会副会長、上地 奏だ。
通称、完璧超人副会長。
ふわりとした黒い髪、真っ赤なメガネ、いつもニコニコしているが落ち着きを感じる目をしている。いかにもできる女と言った雰囲気だ。
成績は常に学年主席、運動神経も抜群で200メートル走で県記録を持っているだとか、彼女が優秀であるという逸話は数多く存在する。
「ほら。どうぞ中にお入り下さい」
そう言って俺たちを生徒会室の中に招き入れる。
俺は副会長の独特な威圧感に気圧されながらも、中に入る。
「そこに座ってお待ちください」
俺たちにソファーを勧めると、副会長はもう一つ奥の部屋に消えた。
「……」
一瞬、生徒会室特有の緊張感からか、場の空気がしーんとする。
「なんか独特の雰囲気だよな。生徒会室って」
「ええ。例えるなら、ファーミンドルーブっぽいわよね」
「ファーミンド……なんだって?」
「あ! わかりマス! 特に、キラントマシラルの時期のファーミンドルーブっぽいデスよね!」
「え、え? キラント……これ何語?」
「流石サンストーンさんね。でも、フリミョインティアのトトキコにも近いと思わない?」
「あはははは! 確かにそうデスね! トトキコと言えば、どのミョイスがお好きデスか?」
「難しい質問ね……でも、メゴラックミョイスかしら」
「ほう……メゴラックミョイス派とは、なかなかの通デスね」
……などと俺を無視して意味不明な会話を続ける二人。
つか、これ本当になんの会話なんだよ……まったく意味がわからない。
俺が軽く頭を抱えていると……
バーーン!
奥の扉が勢いよく開いかれた。
「うむ。待たせたな」
そう言って扉から出てきたのは生徒会長こと、神山 栞だ。
長い黒髪、長身、そして美しい顔立ち。
間近で見るのは初めてだ。その圧倒的なオーラに少し威圧されてしまう。
彼女は超カリスマ『一流』生徒会長として知られている。
生徒会長選挙の際は他の候補者に一票も票が入らなかったとか、小論文コンクールで全国一位になったとか、学園の理事長でさえも頭が上がらないだとか……それはもう数々の噂が彼女のカリスマっぷりを証明している。
そして、彼女を語るうえで外せないのが『一流』という単語。
選挙演説の際にもこの言葉を多用していたことや、選挙ポスターにもデカデカと書かれていたことからわかるが、どうやら、彼女のキャッチコピーのようだ。
さらに前述の通り、『一流』と呼ぶに相応しい実績もある。
そのため、一般生徒からは『一流』生徒会長と言われているのだ。
「ふふ。一流の私に呼び出され恐縮しているのか? そんな必要はないぞ。気を楽にしたまえ」
そうは言っても、その圧倒的なオーラに対してやはり緊張を感じてしまう。
「ところで、今日、私たちはどうしてここに呼び出されたのでしょうか? もうすぐアイ○ツ! の放送時間なので、早く帰りたいのだけれど……」
少しダルそうに君塚が言った。この状況でアニメ見たさに帰宅したいとか良く言えるよな。流石は君塚。ブレを見せない。
「なぁに大した用ではない。この一流の私が――」
「それについては、私が説明しますね」
「む。そうか……」
説明を始めようとした生徒会長に対し、横槍を入れる副会長。生徒会長は少しむっとしたようだが、黙って頷いた。
「それはそうと……みなさんにお飲物をお出ししなくてはなりませんね」
柔らかい表情で言う。
「ですが、今、お茶を切らせていて……」
そう言って困り顔を浮かべた。
「あ、そうだ! 会長、ちょっと購買部でジュースでも買ってきてくださいな」
手をポンと叩いて言った。
「……私が、か?」
生徒会長をパシリに使って大丈夫なのか!?
生徒会長も怪訝な表情をしている。
そのピリピリした空気が耐え難い。ここは俺が買い出しを立候補するか。
「あ、でしたら俺が――」
「いいだろう。今こそ一流の名に恥じない買い出しを見せてやろう!」
俺の提案を押しのけ会長が言った。
買い出しに一流とかあるのだろうか。
「ふ。各自、飲みたい物を言いたまえ」
「私はオイスターソースで」
「ワタシもオイスターソースで!」
「あら、では私もオイスターソースでお願いしますね」
「じゃ、じゃあ俺も……」
「うむ。任せておけ」
そう言って堂々と生徒会室を出て行った。
その場の流れでオイスターソースにすると言ってしまったことに強い後悔を感じていると、副会長が言った。
「みなさんをここにお呼びしたのは会長のことです」
「生徒会長のこと……?」
生徒会長がいなくなったタイミングでこれを言うあたり、当人に聞かれるとまずいことなのだろうか。
「ええ……実は、会長は……」
含みを持たせた声で言う。
俺は固唾を飲む。
「……端的に申し上げますと、度を越したぽんこつなのです」
「…………はい?」
「ですから、会長はぽんこつなのです」
いや。聞こえている。けれど、意味がわからない。あの一流生徒会長がぽんこつ?
「まぁ……驚くのは無理もありません。一般生徒には隠していますので」
やれやれといった調子で副会長は言う。
「私はそれはそれでいいと思うのですが……会長はそこに強いコンプレックスがあるらしくて……」
ぼそぼそと呟くように言う副会長。
「それで、そのぽんこつ生徒会長の話をどうして私たちに?」
君塚がどこか不機嫌に言う。アニメの放送時間が近いのだろう。
「キングダム王国民の特典だと伺っておりましたが……?」
きょとんとした表情で逆に聞き返してくる副会長。
「それについてはワタシが!」
手を挙げて前に出てくるサンストーンさん。
「ある日、ワタシはいつものようにキングダム王国民の勧誘活動をしていまシタ」
どうやら事のあらましを話してくれるらしい。
「その日は第二パソコン部と、第六パソコン部と、第十二パソコン部を中心に勧誘をして回ったのデスが全滅でシタ……」
パソコン部分裂しすぎだろう……どんだけ部内でいざこざ起こせばここまで分裂するんだよ……
「そんな時デス! 勧誘ノルマが達成できそうになく、食堂でグラタンをやけ食いしているワタシを心配して、副会長サンが話しかけてくれたのデス!」
グラタンのやけ食いって地味にすごいな。あれかなり熱いのに……
「これはチャンスだと思い、副会長サンにも勧誘をしまシタ! ワタシも必至でシタ。だから、特典の話の際に、なんでもして欲しいことをする! と言ってしまったのデス……」
なるほど。なんとなくわかってきた。
「……つまり、王国民になる代わりに、会長のぽんこつを私達になんとかして欲しい、ということね?」
ため息を吐きながら言う君塚。
「でも、どうして俺たちなんだ? 言い方は悪いかもしれないけど、引き受けたのはサンストーンさんなんだろ?」
別に自分ひとりで解決しろ、俺たちは知らん。というワケではないのだが、純粋に気になるのだ。
「君塚サンと須藤サンは、ワタシを助けてくれた人だからデス!」
「助けた……?」
「ハイ! ずっと一人ぼっちで不安だったワタシを助けてくれまシタ! 今こうして元気に勧誘活動をできているのも、お二人のおかげなんデスよ?」
「そうか……」
その言葉を聞き、君塚を誘ってサンストーンさんの家に行ったことも、無理やりキングダム王国民にならされたことも、全て無駄ではなかったのだと思えた。
「それで、今度は私たちに副会長の手伝いを?」
「ハイ! 皆サンならきっとできマス! どうか引き受けて頂けまセンか?」
君塚は少し考えるような素振りを見せる。
一瞬腕時計を確認し、「はぁ」とため息を吐いた。アニメの時間がもう迫っているようだ。
けれど、やはり君塚は……
「……私たちに何が出来るかは分からないけれど、同じ王国民の頼みだものね。引き受けるわ。須藤君は、どうする?」
「ふふ……引き受けるよ。当たり前だろ」
少し可笑しくて笑みがこぼれてしまう。
「一緒に引き受けてくれのは有難いのだけれど……何が可笑しいのかしら?」
「いや、結局引き受けるんだなって」
アニメが見たいだの言って乗り気ではなかったのに、君塚はサンストーンさんの申し出を引き受けた。
「君塚って、本当にいいヤツだよな」
「なっ……何を言いだすかと思えば……!」
顔をそむけつつ言う君塚。もしかして照れてる?
「はい! いちゃいちゃタイムは終了ですよ。見ていてイライラしますので」
パン。と手を叩いて言う副会長。つか、いちゃいちゃタイムって……
「そ、それはそうと、まず会長がぽんこつだっていう話が信じられないのですが……」
「それはもうすぐその目で確かめることができますよ」
副会長の言葉に疑問を感じる。君塚とサンストーンさんの顔を見ても、同様のようだ。
その時……
「待たせたな!」
扉を開く大きな音と共に会長が生徒会室に入ってきた。
「会長、買い出しお疲れ様です。美味しいオイスターソースは買えましたか?」
どこか黒い笑顔で言う副会長。
「買い出し……あっ」
「忘れたのですね?」
「ち、違う! 途中までは覚えていたのだ! だが、中庭にキレイなちょうちょがいて……その……」
「蝶に気を取られて忘れたのですね? これは落第点ですね」
「違うぞ! 途中まで覚えていたのだから、テクニカルポイントを含めて72点くらいはあるハズだ!」
「いえ。さらに芸術点を加えたとしても、せいぜい43点です」
買い出しに得点を付けるのか? しかも採点基準がわからん。フィギュアスケート的なやつなのか?
「43点、だと……?」
がっくりと項垂れる会長。
そして会長がこちらを向く。目が合う。会長の顔が青ざめた。
どうやら、これまで忘れていた俺たちの存在を思い出したようだ。
「こ、後輩諸君! これは違うぞ! 普段の私は超一流なのだ! 今日はたまたま調子が悪かっただけで――」
「会長。会長のぽんこつに関しては、もう皆さんにお話ししました。ですので、誤魔化す必要などありませんよ」
必死に言い訳をする会長に対して、笑顔でそれを制止する副会長。
「な、なんだと!? 私が留守の間に話すなど……なんと姑息な……」
「大丈夫。ご安心ください。皆さんは会長のぽんこつを治すのに、協力してくださるのです」
「そ、そうなのか……?」
不安げな表情でこちらを向く会長。その姿は、これまでずっと超一流だと思っていた会長へのイメージをぶち壊すには十分だった。
「俺たちに何が出来るかわからないけど……出来るだけの協力はしますよ」
俺がそう言うと、君塚とサンストーンさんも隣で頷いた。




