3話
それからマドカはまっすぐ家に帰った。午後一時頃インターホンを押す。
「はい……」
「ミル、私よ。ただいま」
「おかえり」と相手は嬉しそうに返事した。すぐにドアが開く。ミルと一緒にリビングへ行くと、
「おかえり」とジュッポン〈ソファーに座って。あっ、ミツは壁際に座っているね〉「物知りな先生に“脱皮するハンカチ”のこと聞きに行ったんでしょ? 何か分かった?」
「ただいま。ええ、全部分かった」
「全部!? すごいじゃない!」
「マドカさんおかえり。やったね」とミツ。
「ただいま。ええよかったよ」
「教えて!」とジュッポン「約束よ」
「ええもちろん。――ジュッポン、ミツ君、外で話さない?」
「えっ? 別にかまわないわよ」
「私も」
「ありがとう。ミル、悪いけど君はここにいて」
「ええ分かった」と彼女は素直に返事した。
「ありがとう」
で、家の前でマドカは説明した。
「なるほど、そういうものか」とジュッポン「教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「――なしてミルには聞かせなかったの?」
「ミル、さっき日本刀手に入れたの。で、“脱皮するハンカチ”の話を聞いたらそれから早く興味をなくそうなくそうとするはずだから。せっかくなまら嬉しそうにしてたのにそんなの可哀想よ」
「なるほど。素敵ね」
「ありがとう。家族だからね」
「――じゃこれで課題は解決したわね」
「えっ?」
「“脱皮するハンカチ”の正体が分かったんだから。もういいと思うわ。現物はないけどほしいなら先生が作ればいいでしょう?」
「なるほど、そうね」
「今から先生のところへ行く? 下川って遠い?」
「いいえ。車で一時間もかからないわ。問題は下川のどこにいるかね」
「――温泉じゃない?」
「温泉?」
「ゆっくりしようかなって言ってたんでしょ?」
「そっか。ならタクシーで、――いいえバスで行きましょう」
「タクシーじゃ駄目なの?」
「ミル、今日はバスの気分だから」
「そっか、温泉に入るのね」
「ええ。せっかく下川へ行くんだから。下川は温泉でも有名でしょ?」
「ええそうね」
《けれど行くか行かないか一応ミルに聞かないと》
とマドカは思った。彼女は快諾した。
それからすぐマドカ達は名寄駅へ行った〈手ぶらで。温泉に入浴する気満々だが、温泉には入浴セットの貸し出しがあるから大丈夫〉。
と、バス停には先生がいた〈もちろんおばあちゃん先生ではなく〉。
「やぁ、みんな」と先生「“脱皮するハンカチ”について何か分かったかな?」
ジュッポンは「ええ。先生、“脱皮するハンカチ”のことが分かりました」
「マジで? なら教えて」
「ええ」
彼女は教えた。
「なるほど、よく分かったわ。よくこんな短時間に見つけてくれたわね。みんなありがとう、嬉しいわ」
「どういたしまして。次の課題はなんですか?」とジュッポンは聞いた。
「そうね――次は異世界へ行く方法を調べて教えてほしいわ」
「異世界? 異世界なんてあるんですか?」とジュッポンは不思議そうな顔で聞いた。
「ええあるわ。この課題やる?」
「ええやります」
「私もやります」とマドカ。
「私もやります」とミツ。
「――大丈夫、答えを急ぐ必要はないわよ、ミルさん」と先生はまた考え中の彼女に言った「ゆっくり考えて」
「ありがとうございます」
「どういたしまして。――みんな、今度もインターネットは禁止だからね」
「はい」とジュッポンが答えた。
《異世界――おばあちゃん知ってるかな――?》
《――それより今日は――》
「先生」とマドカが呼んで「今から温泉に行きます。だから今日は多分調べないと思います」
「もちろんいいわよ。分かるわ、温泉のあとじゃね。ゆっくり調べてね」
「ありがとうございます」
「マドカ」とジュッポンが呼んで「私は温泉パス。課題をやりたいわ」
「ええ分かった。ミツ君はどうする?」
「私は温泉に行くよ。実は今度の課題はあまり興味がないんだ」
「そうなの?」
「ええ。けれど暇は嫌だから」
「なるほど」
「興味がない? なら君には別の課題を与えるわ」と先生。
と、バスがロータリーに入ってきた。
先生は「だから君はマドカさん達とは別行動。いい?」
「分かりました」
――夕方〈まだまだ空が青い五時頃〉、マドカとミルは名寄駅でバスを降りた。
バス停にはミツが待っていて「やぁ。温泉は楽しかった?」と二人に聞いた。
「ええとても」とマドカが答えた「君のほうはどう? 課題は終わった?」
「ええとっくに」
「どんな課題だったの?」
「先生と一緒に焼肉を食べるって課題」
「えっ?それが課題?」とマドカはきょとんとして言った。
「ええ。一人で焼肉屋さんに入るのはきついんだって」とミツは不思議そうに答えた「君はどう? 一人焼肉」
「私は別に」
「君は?」とミルにも聞く。
「――私も無理かな」
「私にも聞いて?」
《この人は!》
「二人とも私の後ろに!」とミツは呼びかけ、マドカとミルは言われた通りにする。
「なんの用?」とミツは聞く。
「教えてほしいことがあるんだ」と仮面を被り日本刀を持った〈黒い鞘を掴んだ形で〉人――ミニ・スウカンは言った「マドカさんにね」
《私に?》
ミニ・スウカンは「素直に教えてくれたら何もしない。けれど教えてくれないならこの日本刀で悪さをする」と淡々と脅した。
と、マドカはミツの横から顔を出して「その内容によるよ。何を聞きたいの?」
「先生の居場所」
「先生? どの先生?」
「君の知り合いにおばあちゃんの先生がいるでしょ? その居場所だよ」
《おばあちゃんの? どうしてこの人が?》
ミニ・スウカンは「さっきその家に行ったんだけど留守だった。だから知り合いの君に聞きたい。先生が行きそうなところを」
《家にいないなら図書館にいるだろうな》
《けど――》
「なしてそんなこと知りたいの?」
「異世界のことを聞きたい」
「異世界?」
「ええ」
「――おばあちゃんに危害を加えたりしない?」
「もちろんしないさ。まだまだ使えそうだからね。――もっとも素直に話してくれた場合だけどね」
《おばあちゃんが素直に話してくれるだろうか――?》
《無理そう……》
「で? 居場所教えてくれる?」とミニ・スウカンは聞く。
「――知らないわ」
「嘘だね。呆れるよ」とミニ・スウカンは日本刀――打刀。丸い鍔、頭は金色、赤いダイヤカットの模様が並ぶ黄色い柄――を抜く。と切っ先をミツ達に向けて「この“完投”の餌食、まずはミルさんから」
「えっ!?」マドカは思わず声が出た「なんでミルを!?」
「『なんで』?」とミニ・スウカンは微笑して「当然でしょ? 素直に答えてくれなかったんだから。だから君の大事な人を狙うんだ」
《そうだ……ミルが狙われる。その可能性もあったんだ。なのに私はそれに気づかず……私は……》
「待って!」とミツ「私が教える」
《えっ?》
「君が? ええ良いよ。どこにいるの?」
「ナイン。そうじゃない。私は異世界のことを知っている」
「えっ!? 本当?」
「ええ」
「教えて! 異世界はどんなところ?」とミニ・スウカンは興奮して聞く。
「待って。自分の目で確かめたくない?」
「えっ?」
「私は異世界への行き方も知っている」
「何!? 教えて!」
「ええ。けれど教える代わりにその日本刀をもらいたい。もちろん教えたあとででいい」
「オーケー! 教えて!」
「その前に刀を収めてほしい」
「失礼」と言われた通りにする「さぁ教えて!」
ミツはうなずく。
そして教えた。一分もかからなかったね。
「覚えたよ。教えてくれてありがとう」とミニ・スウカンは日本刀を地面に置く「さいなら」と駅舎のほうへ歩き出した。ミツは後ろの二人を庇いながら道を空けた。ミニ・スウカンが駅舎の中に消えた。
その途端、
「ありがとう、ミツ君」とマドカは泣きそうな顔で言った「ミツ君のおかげでミルが助かった。本当にありがとう……」
ミツは一瞬戸惑ったが、微笑して「どういたしまして」
「ありがとう、ミツ君」とミルは笑顔でお礼する。
「どういたしまして」とミツは歩き、日本刀を拾い上げた。と彼はミルの前に行き「はい、プレゼント」
「えっ?」
「日本刀好きなんでしょ? だからプレゼント」
「私のために日本刀をほしがったの?」
「いいえ、それだけじゃないよ。君達を脅した相手に少しでも何かしたくてね」と苦笑しながら答える「君が日本刀を好きでよかった。おかげでいい感じに終わった」
プレゼント、受け取ってとミツは付け加えた。
「ありがとう」とミルは笑顔で受け取った。
《ミツ君――》
「マドカさん」
「えっ!? 何?」
「今日の夕ごはんのことなんだけど、悪いけど私はパスするよ」とミツは不思議そうな顔をして言った。
「――ええ分かった」とマドカは落ち着いて答えた「焼肉食べたからでしょ?」
「ええ。先生の奢りだからたらふく食べちゃったんだ」とミツは笑って言う。
マドカも笑って「そっか。気持ち分かるよ」
《――ちょっと残念かな》
「みんな」と駅前通りのほうからジュッポンがやって来た「こんなところで何してるの? ――ってミル、その日本刀は何? さっき手に入れたのとは違うよね?」とふいにびっくりして聞く。
「ええ違います。さっき手に入れたのは“終戦”。で、これは“完投”」
「ふーん――それより何かあったの? 新しい日本刀あるし」
「ええ。またさっきの怪しい人が現れたの。けれどミツ君が助けてくれた。で、この日本刀はその証なの。これは怪しい人の持ち物だったの」
「奪ったわけ? へぇーやるわね、ミツ君」
「ありがとう。――君のほうは何か収穫あった?」
「いいえなかったわ。先生いなかったから。で、今までぶらぶらしてたわ。だからお腹ぺこぺこ」
「じゃ早く帰らなくちゃ」とミル「今日はカレーだよ。それもマドカちゃんが作るの。とてもおいしいよ!」
「それは楽しみね」とマドカを見る「得意料理なの?」
「得意ってほどじゃないよ。味も普通だし。ミルが作るほうがずっとおいしいよ」
「そうなの? 食べ比べが楽しみね。まずは君ね。期待してるわよ」
「ええ」とマドカは苦笑しながら言った。
《食べ比べか。それは厳しいなぁ……》
翌朝〈七時頃〉、マドカ達は家を出た。今日も過ごしやすい青空の下、行き先は名寄駅。その入り口前に先生がいるからだ。
ほらいた。
「おはようみんな」と先生〈昨日と同じ格好〉は挨拶した。
「おはようございます」とマドカ達は同時に挨拶した。
「それでミツ君、昨日の約束通り来たわよ。話って何?」と先生は聞く。
「ええ。課題のことです。異世界に行く方法教えます」とミツ〈ピンク色のジャージ、黒いアンダーシャツ、白いスニーカー〉は答えた。
「――もしかして昨日約束した時点で知ってた?」
「ええ」
「じゃなして昨日話さなかったのかしら? 作者の都合?」
「いいえ。今日のほうがいいと思ったからです」
「ふーん、そっか。ならミツ君、話してくれる?」
「ええ。異世界に行く方法、まずは道北の士別市へ行って――」
「教えてくれてありがとう。けれどその話には証拠がないわ」
「ええそうですね。なら先生、君が自ら試してみたらどうですか?」
「ナイン。しかし興味はあるわ。だから次の課題はその方法を確かめる方法を探してほしいわ」
「――実験台を探せということですか?」とミツは眉をひそめて聞く。
「ナイン。だから課題になるんじゃないかしら?」
「なるほど。疑ってすみませんでした」
「いいのよ。でみんなやるの?」
「やります」とまずミツ。
「もちろんやります」とジュッポン〈青いジャージ、黒いアンダーシャツ、白いスニーカー姿〉。
「私もやります」とマドカ〈白いジャージ、黒いアンダーシャツ、白いスニーカー姿〉
「――私はまた保留で」とミル〈マドカと同じ格好〉。
「分かったわミルさん。じゃみんな、私は駅のカフェにいるわ。いい方法が見つかることを願っているわ。じゃね」と先生は立ち去る。
「ミツ君、何かいい方法ない?」とジュッポン「異世界には詳しいんでしょ?」
「――ごめん、思いつかない」
「そっか、そうよね。思いつくならさっき即答しているわよね」
「マドカちゃん」とミルが呼んで「トモカちゃんに聞いてみるのはどうかな?」
「なるほど、トモカちゃんか」
「クラスメイト?」とジュッポンはミルに聞いた。
「いいえ、高校生。私達の友達なんだよ。で、けっこう物知りなの」
「なるほど、――物知りならおばあちゃん先生でもいいんじゃないの?」
「おばあちゃんはちょっと会いたくなくて。私、学校行ってないから」とミルは苦笑して答える。
「なるほど。じゃトモカさんの家に行きましょう」
「ええ」
マドカ達は向かう――
「ここは君達の家じゃない」とその前でジュッポンはマドカに言った「どうして戻ったの? 何か忘れ物?」
「いいえ。トモカちゃんは私達の上の階に一人で住んでいるのよ」
「あっ、そういうことね。なんだか都合がいい設定ね。作者考えるのめんどくさくなったのかしら?」
うっ……
「マドカさん」とミツは呼んで「大勢で行ったら迷惑なんじゃないかな? 私は家にいるよ」
「そうね。ありがとう」
「私もそうするかな」とジュッポン「二人とも、ちゃんと聞いて私達に教えるのよ」
「ええ」とマドカが答えた。
で、二人は三階に行く。インターホンを押す。
「――出ないね」とミル「寝てるのかな?」
「もう一度押してみよう」
押す。
「……はい」と眠そうな声。
《あっ、寝てたわね》
「トモカちゃん、私、マドカよ」
「マドカちゃん? どうかしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあるの」
「今開けるね」
《起きてる声――?》
すぐにドアが開いた。
「ミルちゃんも来たんだ。二人ともおはよう」とピンクのパジャマ姿の少女――日本人、腰まである黒髪、青い目、明るそうな顔、小柄、細身――はやはりもう起きてる声で言った。
マドカは「おはよう。寝てたよね、起こしてごめん」
「全然問題ないよ。ガム食べたから。さぁ入って入って」
「ええ。お邪魔します」
――勧められてマドカとミルはリビングのソファーに座る。
「トモカちゃん、ちゃんとごはん食べてるの?」とミルは心配して聞く。
「食べてるよ。しっかり食べないと夜勤のバイトは勤まらないからね」とトモカはソファーの前に座り「聞きたいことって何?」
「トモカちゃん、トモカちゃんは異世界に行く方法知ってる?」
「ええ」
《知ってるの? さすがトモカちゃんね》
とマドカは感心する。
「すごいねトモカちゃん!」
「ありがとう。で、その方法が知りたいの?」
「いいえ。私達はその異世界に行く方法を確かめる方法を知りたいの」
「そっか。なら誰かに頼めばいいわ。異世界へ行って帰ってきてもらうのよ」
「トモカちゃん、その方法は駄目なの」
「そうなの? ――ならロボットを使う方法があるわ」
「ロボット?」
「ええ。人に頼む代わりにロボットに任せればいいのよ」
「なるほど!」
「そのロボットはどこに行けばあるの?」とマドカが聞いた。
「中川町にあるわ」
「中川? 音威子府の隣の?」
「ええ、その中川よ」
《中川か。よかった、案外近いところにあって》
「ほかに聞きたいことは?」とトモカは二人に聞く。
「いいえないよ。ありがとう、トモカちゃん。すごく助かった」とマドカは答えた。
「ありがとう、トモカちゃん」とミルもお礼を言った。
「どういたしまして」
「あっ、トモカちゃん、お腹は空いてない?」とミル。
「ええ空いているわ」
「お礼に何か作ってあげるよ。何か食べたいものある?」
「ありがとう。じゃトーストをお願い」
「ええ? そんなの簡単すぎるよ!」
「朝だからよくない?」
「『朝だから』――けれどちょっとよくないよ」
トモカは微笑して「そっか。じゃそうね――オムライスで」
「ええ分かった。じゃケチャップでトモカちゃんって描いてあげるね」
「ありがとう」とトモカは苦笑して答えた。
「キッチン借りていい?」
「ええもちろん、――けれど家に今材料はないわ」
「大丈夫、私の家にあるから」とミルは立ち上がる。
とマドカも立ち上がり「私は帰るわ。トモカちゃん、教えてくれてありがとう」
「どういたしまして。マドカちゃんまたね」
「ええ、またね」
二人はトモカの部屋を出て一階へ。
と、マンションに入るミツとばったり会う。
「ちょうどよかった、君達に話したいことがあるんだ」
「ええ良いわよ」とマドカ。
ミルは「私、ちょっと今から料理を作りに行くの。そのあとじゃ駄目?」
「もちろん良いよ。というかマドカさんだけに話してもいいことなんだよ」
「そっか。じゃマドカちゃんにだけ話してくれる?」
「ええ分かった」
それからマドカ達は部屋に入る。ミルはすぐに材料を持って出かけた。
「話って何?」とマドカ〈ジュッポンとソファーに座っている〉は聞いた。
向かいに立つミツは「今日で帰るよ」
「えっ……?」
「今さっき電話があったんだ。で、私は異世界に行くことになった」
「えっ? 異世界? なして?」とマドカは思わず聞いた。
「バイトの一環で行くんだ」
マドカははっとした「バイト?」
「ええ」
「羨ましいわね」とジュッポンはミツに言った。
「『羨ましい』?」
「ええ。私もバイトしてるけど君のバイトのほうが楽しそうだから」
「楽しくはないよ」とミツは苦笑して答えた。
「そうなの? ――ミツ君はどうしてバイトしているの?」と不思議そうに聞く。
「ごめん、理由は言えない」
「――ミツ君」とマドカは呼んで「ちょっと話したいことがあるの。外で話さない?」
「ええ」
「ありがとう」
で、家の前。
「ミツ君、私もバイトしているの」とマドカは言った「ミルのために」
「ミルさんの?」
「ええ。親友を、家族を守るためよ。だから私はどんなことがあっても大丈夫。ミツ君、だから私達にまた会いに来て。それを楽しみに頑張って」
「――ありがとう、マドカさん」ミツは優しく笑って言った。
マドカも微笑む。嬉しくて。
《よかった――》
「――マドカさん、どうして私のためにそこまでしてくれるの?」とミツは不思議そうな表情で聞く。
《それは――》
《――私のこの気持ちは――》
《けれど今は私の気持ちより――》
「――君を尊敬しているから」
「尊敬?」
「ええ。楽しくないバイトをちゃんとやってるから」
「ありがとう。私も君を尊敬するよ。家族のために頑張っているんだから」
「ありがとう」とマドカは満面の笑みで言った。
《嬉しい――ありがとう、ミツ君》
その後、帰ってきたミルにもミツは話した。
「そっか……また会いに来てね」とミル〈マドカやジュッポンと一緒にソファーに座っている〉は寂しげに言った。
「ええもちろん」
「あっ、日本刀返すね」とミルは急いでリビングを出る。そして戻った、日本刀を二振り持って。
「はい、どうぞ」とミルは二振りとも差し出す。
「この日本刀は?」
「君にあげる。“完投”、きっと役に立つと思う。だから頑張って」
「ありがとう」とミツは微笑して受け取る「大事に使わせてもらうよ」
「ええ。――買った服とかはどうするの? 両手塞がっちゃったね」
「そうだね――悪いけど置いていっちゃ駄目かな?」
「ええ良いよ。マドカちゃんいいよね?」
「ええもちろん」
「ありがとう、二人とも」
「マドカ」とジュッポンは呼んで「異世界に行く方法を確かめる方法分かったの?」
「ええ。――ミツ君、君はこれから士別へ行くんでしょ?」
「ええ。異世界に行くためにはまず士別に行かないといけないからね」
「ミル、ジュッポン、私達もミツ君と一緒に士別へ行かない?」
「異世界に行きたいの?」とジュッポンは不思議そうに聞く。
「ナイン。異世界に行く方法を確かめるためにはロボットが必要なの。で、ロボットは中川にあるのよ」
「なるほど、異世界に行くには士別から電車に乗って天塩中川で降りる必要があるからか」
「ええ」
天塩中川とはこの場合中川町の駅のことを指す。なぜ中川町なのに駅名が天塩中川なのか、作者は知らない。もちろん明確な理由があるだろうけど、作者は興味がないんだよね。
ジュッポンは「私は賛成よ」
「私も」とミル。
「ミツ君はそれでいい?」とマドカは聞く。
「ええもちろん」と彼は微笑して答えた。
で、マドカ達は名寄駅へ行った。
と、駅の入り口には先生がいた。
「やぁみんな」と先生「どこへ行くの?」
「士別へ行きます」とマドカが答えた。
「そっか。――ミツ君、その日本刀は? 何かするの?」
「ええ。これから異世界へ行くので」
「異世界? 君が実験台になるの?」と先生は感心した様子で聞く。
「いいえ。課題とは別なんです」
「そうなの? 異世界に行って帰ってくるなら同じだと思うんだけど」
「確かに」とジュッポン「けれどそれだとミツ君が帰ってくるまで暇になりますね」
「ナイン。なら君達は新しい課題をやればいいのよ」
「なるほど」
「もっともミツ君次第だけど」と先生は彼を見る「無事に帰ってこれそう?」
「ええもちろん。絶対に帰ってきます」と彼はマドカを見て、うなずいた。マドカも笑ってうなずいた。
「なら君達に課題を与えるわ」と先生は言った「そうね――まぁ、今日はまだいいわ」
「えっ? なしてですか?」とジュッポン。
「ミツ君との別れとかあるでしょ? だからよ。決して作者が思いつかないからって理由じゃないから」
「なるほど、分かりました」
それから十数分後、マドカ達は鈍行に乗った。
発車直後「乗れてよかったわね」とジュッポン〈ボックス席の通路側に座る〉は隣のボックス席のミツ〈通路側に座っている〉に言った「それ、本当におもちゃなの?」
それとは彼の隣の席に立てかけられている日本刀二振りのことだ。
彼は笑って「ナイン」
「そうよね、――マドカ、士別の駅には駅弁売ってるかしら?」と向かいに座る相手に聞いた。
「確か売ってなかったはず」
「マジ? 中川まで辛いじゃない」
「そうね。けれど駅前に『キスオンリー・ジャスティス・マート』があったはずよ」
「そっか、なら安心ね」
「ええ」
約二十分後、鈍行は士別に到着した。それからまた約二十分後にマドカ達は稚内行きの特急に乗った。そのあいだにコンビニへ寄ってほしいものはしっかり確保した。
――約二時間後、特急は天塩中川〈無人駅〉に着いた。
特急は行き、ほかに誰もいない静かなホームで、
「君達はこれからどうするの?」とミツは聞いた。
「マドカちゃん、どうしようか?」とミル。
「帰りましょうか? もうここに用はないんだし」
「そうだね」
「えっ? もう帰るの?」とジュッポンはつまらなそうに言う「何か中川町のお土産買いたいわ」
「じゃミル、そうしようか」
「ええ」
「じゃ私はこれで」とミツ「みんな、元気で」
「――ミツ君も」とマドカは言った。寂しいところへ来た感じがした。
《いいえ、違う!》
翌日〈過ごしやすい晴れの日〉、午前七時頃にマドカとジュッポンは名寄駅へ。
バス停には先生〈昨日と同じ格好〉がいて「二人ともおはよう」
「おはようございます」と二人は同時に挨拶した。
「じゃ二人に課題を与えるわ。マドカさん、君は日本刀を持った人に脅されたでしょ?」
「はい」とマドカ〈緑色のジャージ、黒いアンダーシャツ、赤いスニーカー〉は答えた「それが何か?」
「そして“脱皮するハンカチ”を奪われた。その人の目的を突き止めて。もちろんその人に直接関わらない形で。それなら安心でしょ?」
「ええ。分かりました、その課題やります」
「私もやります」とジュッポン〈青いジャージ、黒いアンダーシャツ、白いスニーカー〉は言った。
「じゃ二人とも期待しているわ。さいなら」と先生は駅舎の中へ行った。
「さてマドカ、どうする?」
「そうね――」
《これはおばあちゃんやトモカちゃんにも頼れないし――》
マドカがそう思っていると、
「マドカちゃん」と駅前通りのほうからトモカ〈ピンク色のジャージ、白いアンダーシャツ、黒いスニーカー〉が来た。
「トモカちゃんおはよう。朝早くにこんなところにいるなんて珍しいね。」
「おはよう。ミルちゃんに頼まれ来たの」
「ミルに?」
「ええ。トモカちゃんと家でお昼ご飯食べるから戻って来てって」
「なるほど」
「楽しみだよね」
「ええ」
「――もしかして君がジュッポン?」
「ええそうよ」
「初めまして、トモカよ。君も連れてくるように言われたの」
「そっか、ありがとう」
「どういたしまして。二人で何してたの?」
「先生から課題をもらいに来たの」
「先生? おばあちゃん先生?」とマドカに聞いた。
「いいえ」
「そっか。ふーん、先生に課題を――どんな課題?」
「それは……」
《なんて言えばいいかな――?》
「料理の課題よ」とジュッポンが言った「おいしいカレーを作るって課題」
《よかった。ジュッポン、ナイス》
「へぇ、なるほど。マドカちゃんよかったわね。楽勝じゃない」
「ええ」
「ジュッポンはどう?」
「私はパスしたいな」
「料理できないの?」
「興味がないから」
「そっか。けれど課題でしょ? やらなくちゃね」
「そうね――ミルにやらせようかしら?」
「ナイン」とマドカは顔をしかめて言った「そんなこと許さないわよ?」
「ふっ、冗談よ」とジュッポンは肩をすくめながら言った「呆れるわね」
〈とりあえずの了〉




