魔王退治?
「誰だ貴様…ってリック・ハンストン様!?」
俺たちがアルバン王国の王都、入口前に転移すると門番が剣を向けてきた。
急に現れたやつに警戒するのは当たり前のことだが、それが俺たちと知り顔が青ざめている。
ちゃんと仕事をしている奴を不敬だなんだと言わないからそんな死んだような目をするのはやめてくれと言いたい。
「誰か王城と冒険者ギルドのギルドマスターに俺が来たということを伝えてくれ。魔王退治に来た、とな」
「はっ、はい!おい、お前!今すぐに行ってこい!」
部下らしき2人が走って行ったところで俺は今日泊まる宿を探しに行くかと思ったんだが、転移したときに爺さんに硬貨は全て日本用の紙幣に変えられていたことを思い出した。
「仕方ない、ギルドで適当に何か売るか。エレノア、お前は自分で王城に行くなり宿を取るなりしてくれ」
一緒に王城にでも行くつもりだったのか後ろで何か言っているような気がするが放っておこう。ただでさえここまで転移で連れてきたんだ、これ以上何か言われる必要もないしな。
間違っても王城で泊まるなんてことはしたくない。飯に毒か媚薬でも盛られるか?それともハニートラップでくるか?隷属の首輪でも付けて奴隷にするか?
俺にはどれも効かないが考えただけで面倒だ。
さて久しぶりに王都の冒険者ギルドまで来たな……
『まだ数ヶ月だというのにここも懐かしく感じるのう』
扉を開けると魔王復活が噂されているからか、それとも俺がいなくなったからかはわからないが前とは比べ物にならないぐらい暗く、士気が下がっていた。
「おい、あれって……」
「ああ間違いない!」
「リック様だ……あの狼もいるぞ!」
冒険者たちが俺たちに気付いたみたいだが受付嬢がすぐにギルドマスターのところに案内した。
「久しぶり、でいいのかリック」
数ヶ月前まではあったギルマスの豪快さがなくなり、見違えるほどやつれていた。これは多分俺のせいだな。
俺はここ王都で活動していたこともあってギルマスとはそれほど仲も悪くはない。だからこの国の貴族や他国からもどこにいるんだと圧力をかけられまくっていたのだろう。
「そうだな、たった数ヶ月だが」
「どこで何をしていたんだとはこの際聞かないでおく、帰ってきたってことは手を貸してくれるってことだよな?」
「王族がエルフの巫女を使って俺を呼びに来たんだよ。今回は手を貸すが次はないぞ」
「そうか……次元渡りが成功したのか。それでお前さんのことだすぐに行くんだろ?一応聞いておくが援軍は必要か?」
「必要ない。むしろ俺とフェンが動くのに邪魔だ。そうだな……これから向かうから全て終わるのに2日ぐらいはかかると思っておいてくれ」
「むしろ2日で終わるのか。了解した、俺は今動いている騎士団の撤収や王族との対応を任されよう」
そうして俺とフェンは魔族が活発になり、作られ始めているという魔族領へ向かった。
アステリアでは日本と違ってモンスターのことを魔物と呼んでいるのだが、魔物と魔族の違いは知能があるかないかだ。
魔物は誰彼構わず襲うし、人族の言っていることを理解することは難しい。だが、魔族は人族程ではないが理解し言葉を話す者もいる。だからこそ今よりいい生活にしようと人族に戦争をしかける、やってることは人族と変わらないんだけどな……
自分たちで国をつくり、そこでただ生活をしていればいつか共存する形もあったのだろうか。
今は考えても仕方ないな。俺は人族だからな、人族に戦いを申し込んでくるなら受けて立つのみ。
それから俺とフェンは寝ずに2日かけて魔族を殲滅していった。
幸い、魔王はまだ復活前だったらしくこれで俺たちの仕事も終わりだ。俺が気配で察知できる範囲にはもう魔族はいないしいたとしても1人や2人、それぐらいならここの冒険者たちでもどうにかできるだろう。
「フェン、戻るか」
『うむ、久しぶりにこんなに戦って疲れたぞ』
そうして俺たちは転移で王都まで戻ったのだった。
また急に現れた俺たちに門番は剣を手にかけていたが、魔族の殲滅が終わったことを伝えると走って王城まで伝えに行った。
「俺たちはギルマスに報告したら帰るか」
『うむ、それがいい。家が恋しいぞ!』
たった2日だというのに俺もすっかり家が恋しくなっていたみたいだ。
「お疲れ様、まさか本当に2日で終わらせるとは思っていなかったぞ」
「魔王がまだ復活していなかったのが大きかったな。それで俺たちはもう帰ってもいいか?」
「それなんだが……陛下がお前さんが戻ってきたら祝勝会をやるって言っててな。今準備中らしい」
冗談じゃない。祝勝会をやりたい気持ちはわからなくもないが、そうやってまた貴族などを集めて俺を囲む気満々なのが丸わかりだ。
これはさっさと帰るに限るな。
「祝勝会には俺抜きで開催をしてくれ、俺たちはやることはやったんでな。ちゃんと陛下に次はないと伝えておいてくれよ」
「あっ、ちょっ!」
ギルマスが何か言いかけていたが俺とフェンは転移で我が家に帰宅した。
『やはりここが落ち着くな』
すっかり俺たちは故郷より日本が好きになってしまったみたいだ。
富と名声はあったが毎日恐れられる日々よりも、使命もなにもなくただ毎日好きなことをして美味い飯を食う。そんな日々が。
俺たちはこの先きっと何十年、何百年と生きていく。だが何年経ってもこの日本で変わらず充実した毎日を送り、日本のグルメに敗北する日々を送ることになるだろう。




