第二部 第35話「情報と依頼、そして次の標的」
第二部 第35話「情報と依頼、そして次の標的」
バルドの店を出たあと、リックはそのまま歩き出した。転移で済ませてもいい距離だったが、あえて使わないと決めている。「このまま行く」とだけ告げると、特に説明はしないまま町の通りへと足を向けた。
歩きながら、リックの視線は自然と周囲へ流れていく。人の動き、荷の流れ、店の配置、そういった細かな変化を一つずつ拾っていくように観察していた。商人たちは忙しそうに声を張り上げ、荷車が行き交い、品は滞ることなく流れている。屋台には人が集まり、金が動いている様子もはっきりと見える。武器屋の前には冒険者が集まり、防具屋でも同じように装備を見ている者がいる。減るだけでなく補充もされている、つまり循環が成立しているということだった。
「……悪くないな」
小さく呟いたリックの判断は簡潔だった。町は機能している、崩れてはいない。それだけ分かれば十分だと割り切り、そのまま歩みを止めることなく目的地へ向かう。
やがて見えてきた建物に入り、冒険者ギルド の中へ足を踏み入れる。中の空気はこれまでと変わらず、人の気配と話し声が混ざり合っており、依頼を探す者や報告をする者がそれぞれの動きをしている。特に大きな変化はないと判断すると、リックはそのままカウンターへ向かった。
持ち込んだ素材は余剰分のみで、必要な分はあらかじめ確保してある。「買い取りだ」と短く告げると、受付は素材を一つずつ確認し、その状態と質を丁寧に見ていく。やがて視線を上げ、「状態がいいですね」と評価を口にした。リックはそれに特に反応せず、提示された金額だけを確認する。「それでいい」と返すと取引はすぐに成立し、無駄のないやり取りで終わる。
続けてリックは「情報を聞きたい」と切り出す。受付は頷き、「内容は」と問い返す。まず「レイン」と答えると、受付は少し考えたあと「単独での出現報告はありますが、詳細は不明です」と返した。次に「カイン」と続けると「現在確認されている情報はありません」と言われる。動きが見えない、それ自体が不気味だった。最後に「セシル」と聞くと、「登録はありません、ギルドでは把握していません」と明確に否定される。
リックはそこで一度思考を整理する。情報は少ないが、何もないわけではない。見えていないだけで何かが動いている、それが分かれば十分だった。
「もう一つ」と続けて、「リザードマンの討伐はあるか」と尋ねる。すると受付の反応がわずかに変わり、「あります」と即答した。資料を取り出しながら、「山の水場付近で出現が増えており、群れで行動しているため単独では危険とされています」と説明する。その内容はバルドから聞いた情報と一致していた。
リックは資料に目を通しながら、「証明は何で見る」と確認する。受付は迷うことなく「尻尾の先端です」と答え、「太さで個体ごとの判別ができるため、不正が最も難しい部位になります」と補足した。つまり、先端を持ち帰れば討伐数として認められるということだ。
さらに受付は言葉を続ける。「可能であれば素材も回収していただけると助かります。皮、骨、鱗、どの部位も需要があり、特に防具素材としての価値が高く現在不足しています。ギルドとしても確保したいので、通常より高めで買い取ります」と条件を提示する。
リックは短く考える。証明は尻尾の先端、素材はすべて回収対象、どちらも合理的だった。
通常の冒険者であれば、その場で尻尾を切り取り、先端だけを持ち帰る。重量や腐敗の問題があるため、すべてを運ぶ余裕はない。それが当たり前のやり方だ。しかしリックには収納がある。容量に問題はなく、今回の規模であれば十分に対応できる。そのため尻尾を切る必要はなく、皮や骨も含めてほぼ無傷のまま持ち帰ることができる。
「……そのまま回収するか」
小さく呟く。効率は明らかに違う。無駄が出ない。それだけで十分な理由になる。
リックは顔を上げると、「受ける」と短く告げた。迷いはなかった。場所も分かっているし、必要な素材も明確で、準備も整っている。あとは実行するだけだ。
そのまま背を向け、ギルドを後にする。次に向かう先は決まっている。
山の奥の水場、そしてリザードマン。
すべては繋がっていた。




