第42話 「開戦、本丸攻略」
夜明け前、空気は冷たく張り詰めていた。新拠点――洞窟の奥で、リックは短く告げる。「旧拠点は捨てる」
一拍の間。リリアが眉を上げる。「え、あれもう使わないの?」
「必要ない。結社は来ない。カインも来ない。役割は終わってる」
即断だった。洞窟内に沈黙が落ちる。滴る水音がやけに大きい。(誘導は完了した)旧拠点は“見せる”役目を果たした。ここからは無駄だ。
「切り替える。戦場は二つだ。前線で結社を叩く。ここは維持する」
視線が集まる。リリアが拳を鳴らす。「前に出るってことね」エレノアが頷く。「本丸近くの拠点を軸に、侵入と撹乱を同時に」セレスティアも息を整える。「支援は前線に回します。持久戦になります」
洞窟側に残るのは少数だ。ルナが壁に触れたまま言う。「……閉じる」シルヴィアが応じる。「……準備はできています」リックが確認する。「ここは動かない。維持する」
(カインは、ここに来る)前提は変わらない。そして(猶予はある)“闇の結社を潰すまで、手を出さない”――軽い言葉だが条件は明確だ。(時間制限付き)結社戦が終われば、次はここだ。
「急ぐ」
短い一言で、全員が動いた。
本丸近くの前線拠点は、すでに戦場の空気を帯びている。無駄口はない。点検、調整、配置確認。すべてが実戦前の動きだ。
リリアが息を吐く。「空気重いね」エレノアが周囲を見渡す。「各パーティーとも準備完了です」
他パーティーのリーダーが歩み寄る。「予定通りでいいな?」リックが頷く。「正面は叩かない」「外周を崩して穴を開ける。内側に同時侵入だ」「遅れた方が死ぬ」
短い確認。それで十分だ。
「開始は?」「合図で動く」
視線が一点に集まる。リックが言う。「……始める」
一斉に動いた。
結界が震え、魔力が爆ぜる。外周の守備隊が即応する。「来たぞ!」怒号と同時に魔法が交差する。
リリアが最初に踏み込む。「開ける!」一気に距離を詰め、前衛を押し崩す。エレノアの矢が風に乗り、角度を変えて回避を潰す。「右、空けています!」セレスティアの光が広がる。「無理はしないで!」
外周戦は瞬時に激化した。結社の対応は速い。統制がある。「前出るな、ライン維持!」「後方、詠唱来るぞ!」指示が飛び、連携が組まれる。
他パーティーが一瞬押される。「硬い……!」リックが即座に指示する。「押すな、削れ」
動きが変わる。無理に突破しない。削って崩す。流れを作る。エレノアが位置を取り直す。「上を取ります」リリアが応じる。「下は任せて!」
連携が噛み合い、戦線が安定する。
だが――
「来る!」
空気が変わる。外周の奥から、異質な気配が立ち上がる。重い。ただの戦力ではない。
現れたのは人型。だが歪んだ魔力が身体を覆い、圧として周囲に広がる。
「……幹部クラスか」エレノアが低く呟く。リリアが舌打ちする。「ちょっと、聞いてないって」
敵が一歩踏み出す。それだけで空気が押し潰される。「下がれ!」前線が一瞬で揺らぐ。
リックが切り替える。「止めるな。散らせ」
正面で受けるな。分散し、削れ。
エレノアが動く。「足を止めさせます」矢が放たれ、動きを制限する。リリアが側面から突っ込む。「硬いけど、いける!」セレスティアの光が追いつく。「持ちます!」
戦線が持ち直す。
(時間は稼げている)
洞窟。
静寂の中で、ルナが顔を上げる。「……来る」シルヴィアの手が止まる。空気が変わる。遠く、だが確実に――何かが近づく。
リックは前線に意識を置いたまま、その変化を捉える。
(……早い)
結社戦はまだ終わっていない。だがカインは、動いている。
リックは短く言う。
「……間に合わせる」
戦場は二つ。時間は一つ。
開戦は、すでに終わっていた。




