第26話 「氷の距離と、記録なき存在」
朝の空気は、どこか重かった。
拠点の畑に立つシルヴィアは、静かに息を吐く。
「……進行しています」
薬草は明らかに弱っていた。
葉の色は薄れ、触れれば力が抜けているのが分かる。
リックは土に手を当て、わずかに眉を寄せる。
「……魔力が抜かれてるな」
エレノアが淡々と続ける。
「外部からの吸収。結社で確定です」
セレスティアが不安そうに言う。
「このままだと……」
シルヴィアは短く答えた。
「……いずれ、すべて枯れます」
沈黙が落ちる。
その空気を破ったのは、リリアだった。
「じゃあ、急がないと!」
リックは頷く。
「俺はギルドに行く」
エレノアが視線を向ける。
「単独で?」
「ああ。報告と情報確認だ」
一瞬だけ、ルナを見る。
壁にもたれ、こちらを観察している少女。
「……ここで待ってろ」
ルナは何も言わない。
ただ、視線を外した。
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リックが去った後、拠点には静かな時間が流れた。
ルナは外に立っていた。
今にもどこかへ行きそうな距離。
シルヴィアが静かに言う。
「……戻ってきますよ」
ルナは答えない。
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「ねえ!手伝って!」
リリアが強引に声をかける。
「……なに」
「これ洗って!」
布を押し付ける。
ルナは無言で水場に向かった。
手の動きは正確で、無駄がない。
「うまっ!?」
リリアが目を丸くする。
「すごいじゃん!」
ルナは淡々と答える。
「……普通」
その様子を、セレスティアが見ていた。
食事を持って近づく。
「どうぞ」
ルナは一瞬だけ迷う。
そして――受け取った。
小さな変化だった。
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その時。
「来ます」
エレノアの声が低く響く。
次の瞬間、森の奥から魔獣が現れた。
だが、その動きは明らかに異常だった。
「……魔力が歪んでる」
シルヴィアが呟く。
「結社の影響です」
リリアが前に出る。
「やるよ!」
エレノアが指示を出す。
「左右に分かれてください!」
セレスティアは後方へ。
「回復は任せてください!」
そして――
ルナが、一歩前に出た。
氷が走る。
地面が凍り、魔獣の動きを分断する。
「え!?なにそれ!?」
リリアが叫ぶ。
ルナは短く言う。
「……隔離」
戦闘は連携で進む。
リリアの一撃が叩き込み、エレノアが動きを制御する。
シルヴィアが補助し、セレスティアの光が傷を癒す。
リックがいなくても――
崩れない。
短時間で、戦闘は終わった。
⸻
「……勝った」
リリアが息を吐く。
ルナは何も言わない。
ただ静かに立っていた。
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その頃、リックは町にいた。
ギルド。
報告はすぐに通った。
魔力吸収。
結社。
異常個体。
そして――
「氷属性の個体がいる」
「戦場を分断する能力を持つ」
空気が変わる。
「……危険個体だな」
「監視対象にするべきだ」
リックは淡々と答える。
「今は俺のところにいる」
そして最後に。
「“カイン”を知っているか」
沈黙。
「記録にありません」
完全な空白。
リックは小さく息を吐いた。
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ギルドを出た後、ザクトの店へ。
「……珍しい順番ですね」
ザクトが笑う。
「結社は動いてる。“魔力持ち”を狙ってる」
「だろうな」
「例の奴隷は?」
「回収した」
ザクトの目がわずかに細くなる。
「……扱いを間違えると危険ですよ」
リックは聞く。
「カインを知ってるか」
一瞬の沈黙。
「……聞いたことはありません」
だが、続ける。
「“記録に残らない類”はいます」
意味深な言葉だった。
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拠点に戻ると、リリアがすぐに駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん!」
リックが視線を向ける。
「どうした」
「魔獣出たけど、ちゃんと倒したよ!」
誇らしげに言う。
エレノアが補足する。
「連携に問題はありませんでした」
セレスティアも続ける。
「怪我も軽微です」
シルヴィアが静かに言う。
「……ルナの力が大きかったです」
リックの視線が向く。
ルナは壁にもたれていた。
「……普通」
短く言う。
リックは一瞬見て――
小さく頷いた。
「十分だ」
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リックは全員を見る。
「結社は動いてる」
「ルナは“危険個体”扱いだ」
「……カインの情報はゼロ」
沈黙。
その中で、ルナが言う。
「……あれは、そういうもの」
リックが問う。
「知ってるのか」
「……知らない」
⸻
リックは最後に聞く。
「どうする」
ルナは少しだけ考えた。
「……まだ決めてない」
間。
「でも、ここにいる」
リックは頷く。
「それでいい」
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夜。
畑はまだ弱っていた。
シルヴィアが静かに言う。
「……時間がありません」
リックは空を見上げる。
「結社を叩く」
遠く、何かの気配が揺れていた。
それが何かは、まだ分からない。
だが確実に――
次の戦いは近づいていた。




