第22話 「再会の商人と動き出す流れ」
朝の空気は、どこか静かすぎた。
シェルターの外に出たリックは、ほんのわずかな違和感に足を止める。
風は穏やかで、空は澄んでいる。危険の気配はない――それでも、胸の奥に引っかかる何かがあった。
「……妙だな」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
リリアが駆け寄る。
後ろにはエレノア、シルヴィア、セレスティア。
五人の体制にも慣れてきたが、この感覚だけは消えなかった。
「いや、気のせいかもしれない」
エレノアが静かに言う。
「……気のせいで済めば良いのですが」
その言葉に、リックはわずかに頷いた。
「それより今日は隣町だよね!」
リリアが空気を変える。
「ああ。影織りの革の確保と、町の様子を見る」
リックは言った。
五人は転移で隣町ルミナスへと移動した。
***
ルミナスの森は影が濃い。
すぐに現れた影獣に対し、五人は迷いなく動く。
リックのゴーレムが足場と前線を支え、リリアが正面を打ち砕く。
エレノアの矢が動きを制限し、シルヴィアが死角から斬り込む。
そしてセレスティアの光が、全体の動きをわずかに底上げする。
戦闘は短く終わった。
「いい感じ!」
リリアが笑う。
「安定していますね」
エレノアが頷く。
シルヴィアも静かに言った。
「……五人でも、違和感はありません」
素材も順調に集まり、影織りの革も確保できた。
***
町へ戻る途中、リックの足が止まる。
「……見覚えがある」
通りの先、小さな店の前に立つ男。
「……ザクトだ」
五人はそのまま店へ向かった。
ザクトは一瞬だけ驚き、すぐに笑みに変える。
「久しいですね」
以前とは違う。
余裕と計算を持った顔だった。
「無事だったんだな」
リックが言う。
「ええ。生き延びたなら、使い切るのが筋ですから」
ザクトは店の奥を示した。
「中へどうぞ。外で話す内容ではありません」
***
店の奥は、完全に別空間だった。
外の音が消え、空気が落ちる。
「それで――何を流します?」
リックは薬とナイフを置く。
ザクトはそれを見て、低く言う。
「……良すぎる」
「どういう意味だ」
リックが問う。
「市場に出せば、目を引きすぎる」
少し間を置く。
「最近、この辺りは“目が多い”」
シルヴィアが呟く。
「……何かが動いている」
ザクトは否定しない。
リックが言う。
「秘密結社、か」
ザクトはわずかに笑うだけだった。
「名付けはご自由に」
「それでも流す」
リックが決める。
「なら、私を通してください」
ザクトは即答した。
「条件は?」
「仲介料。少し高めに」
「リスク分か」
「ええ」
短い交渉の末、少量取引が成立した。
***
店を出た後。
「なんか怖かったね」
リリアが言う。
「ですが有用です」
エレノアが分析する。
リックも頷いた。
「情報も持っている。関係は続ける」
***
エテルノバァへ戻り、バルドの工房へ向かう。
「おう、戻ったか」
バルドは素材を見て鼻を鳴らした。
「影織りの革も揃えてきたか。やるじゃねえか」
リックが答える。
「一通りは集まった。あとダーククリスタルが必要だな」
「だな」
バルドは腕を組む。
「双剣の芯にムーンシルバー、補強にダーククリスタル。
影織りの革で軽量化――これでようやく“まともな武器”になる」
シルヴィアが静かに聞く。
「……どのくらい変わりますか?」
バルドはニヤリと笑った。
「今の剣は“切れるだけ”だ。
作るのは“殺せる剣”だ」
その言葉に、空気が少しだけ重くなる。
だがシルヴィアは目を逸らさなかった。
「……それで構いません」
バルドは満足そうに頷く。
「いい目だ。覚悟があるなら応えてやる」
セレスティアが少し不安そうに言う。
「私の装備は……?」
「お前は軽装だな」
バルドは即答した。
「光属性は防御より“維持”だ。
魔力の流れを邪魔しねえ構造にする」
エレノアが補足する。
「支援の質を落とさない設計、ですね」
「そういうことだ」
リリアが前に出る。
「私も手伝いたい!」
バルドはちらりと見る。
「……やめとけと言いたいところだが」
少し考え、言う。
「素材の下処理ならやらせてやる。
叩くのはまだ早い」
リリアの顔がぱっと明るくなる。
「やった!」
リックが口を開く。
「完成までどれくらいかかる?」
「素材が揃えば三日だ」
バルドは言い切った。
「ただし――」
少しだけ目を細める。
「中途半端な素材なら、作らねえ」
リックは頷いた。
「最高の状態で頼む」
「任せろ」
バルドは短く答えた。
***
工房を出た後。
リリアが言う。
「なんか……すごい武器になりそう!」
「ええ」
エレノアが頷く。
シルヴィアは静かに呟いた。
「……準備が整ってきましたね」
リックは空を見上げる。
朝の違和感は、まだ消えていない。
(流れが変わった)
素材、商人、装備――
そして、見えない敵。
全てが繋がり始めている。
夜、焚き火の前。
セレスティアが小さく言う。
「でも……皆さんと一緒なら、大丈夫です」
リリアが笑う。
「次も行こう!」
エレノアが静かに頷く。
シルヴィアが言った。
「……今度は、もっと力になります」
リックは短く答える。
「ああ。全員で行く」
焚き火の光が、五人を包む。
その外側で――
確実に“何か”が動いていた。
遅咲きの物語は、
新たな流れと共に、次の段階へと進み始める。




