第21話 「道中の救出と、天使の贈り物」
朝のシェルターは穏やかな光に満ちていた。
シルヴィアはもうほとんど普通に動けるようになり、自分で軽く体を動かして皆に笑顔を見せていた。
「おはようございます。
今日は体がとても軽いです……皆さんのおかげです」
リリアが目を輝かせて飛びついた。
「シルヴィアさん、すっかり元気になったね!
今日は隣町の森へ行って、影織りの革を集めようよ!」
リックは皆を見回し、頷いた。
「転移は行ったことがある場所にしか使えないから、まずは一度隣町まで行って起点を作らないと。
影織りの革は隣町の森に集中しているらしい」
シルヴィアも静かに頷いた。
「……私も一緒に行きます。
皆さんの力になりたいです」
4人は準備を整え、隣町方面へ出発した。
道中、森の道を進んでいると、前方から馬車の悲鳴と魔獣の咆哮が聞こえてきた。
「何か起きている!」
リックが即座に走り出す。
視線の先では、奴隷商人の馬車が中型の影狼の群れに襲われ、横転しかかっていた。
馬車を引く商人——ザクトは、慌てて鞭を振るいながらも、荷台の女性を守るように体を張っていた。
荷台の中には、鎖で繋がれた一人の女性が怯えた様子で座っていた。
白い髪に淡い金色の瞳、背中に小さな翼の痕跡が見える——天使族の女性、セレスティアだった。
「助けて……!」
リックは迷わず叫んだ。
「全員、戦闘準備! あの馬車を助けるぞ!」
戦闘が始まった。
リックは大地同調を発動させ、小型のゴーレムを複数召喚して狼の群れの動きを封じようとした。
エレノアは弓を構え、風の加護を纏った矢を素早く放つ。矢は空気を切り裂き、先頭の狼を正確に射抜いた。
リリアは炎を纏った戦鎚を振り上げて正面から突っ込んだ。
「えいっ! 邪魔しないで!」
シルヴィアは双剣を両手に構え、低い姿勢で側面から飛び込んだ。
二本の剣が閃き、血の魔力を薄く纏わせた刃が狼の脇腹を深く切り裂く。
彼女の動きは素早く、正確で、ほぼ完治した体がもたらす軽やかさが際立っていた。
狼の群れは激しく抵抗したが、4人の連携は見事だった。
リックのゴーレムが前を塞ぎ、エレノアの矢が遠くから狙い撃ち、リリアの戦鎚が重い一撃を加え、シルヴィアの双剣が死角から容赦なく斬りつける。
特にシルヴィアの活躍が目立った。
彼女は狼の攻撃を紙一重でかわし、双剣を交差させて一匹の首を両断した。
戦闘が終わると、馬車は大きく傾いたまま止まっていた。
奴隷商人ザクトは震えながら這い出てきて、深く頭を下げた。
彼は乱暴な態度を取らず、むしろ丁寧に言葉を選んで言った。
「助けてくれて……本当にありがとう……
私はザクトという者です。奴隷を乱雑に扱うつもりはありませんでしたが……この子は高値で売れるはずだったが、命を助けてもらったお礼として……彼女を差し出します」
ザクトは馬車の中から鎖で繋がれたセレスティアを丁寧に引き出し、リックたちの前に立たせた。
セレスティアは怯えた様子で地面に膝をつき、白い髪が乱れていた。
淡い金色の瞳には恐怖と諦めが混じり、背中の小さな翼の痕跡が震えていた。
「……お願い……助けて……」
リックは即座にゴーレムに鎖を砕かせ、セレスティアを優しく抱き起こした。
「もう大丈夫だ。
俺たちはお前を奴隷商人に戻す気はない。
一緒に来ないか? 俺たちの拠点で休め」
セレスティアは驚いたように目を大きく見開き、リックと他の三人を交互に見た。
シルヴィアがそっと近づき、優しい声で言った。
「……私も、かつて同じ境遇でした。
皆さんはとても優しい人たちです。一緒に来ませんか?」
セレスティアはしばらく沈黙した後、涙を浮かべながら小さく頷いた。
「……ありがとうございます……
私はセレスティア……天使族です。
よろしくお願いします……」
ザクトはほっとした様子で馬車を直し、その場を去っていった。
4人(+セレスティアで5人)になった一行は、そのまま隣町の森の入り口まで進み、影織りの革の気配を確認。
転移の起点を登録して一旦拠点へ引き返すことにした。
夜、焚き火を囲む頃。
新しく加わったセレスティアはまだ緊張した様子だったが、皆の温かさに少しずつ心を開き始めていた。
シルヴィアは自分の経験を共有し、セレスティアを優しく受け入れた。
リックは皆を見回し、静かに言った。
「今日はセレスティアを助けることができて良かった。
これで5人になったな。
明日からは隣町の森へ転移で何度でも行ける。影織りの革も本格的に集めよう」
その夜、焚き火の明かりの下で、5人は自然と寄り添うように近づいた。
シルヴィアはリックの胸に寄りかかり、エレノアはセレスティアの背中にそっと手を置き、リリアは皆に抱きつくようにくっついた。
セレスティアはまだ少し体を硬くしていたが、皆の温もりに触れるうちに、ゆっくりと力を抜いていった。
「……皆さんの温かさが……こんなに優しいなんて……」
シルヴィアが静かに微笑みながら、セレスティアの手を握った。
「私も最初はそうでした。
少しずつ慣れていきましょう」
リックは皆を抱き寄せ、優しく言った。
「これからが本番だ。
一緒に頑張ろう」
その夜、5人は焚き火の温もりの中で、互いのぬくもりを確かめ合うように寄り添った。
新しい仲間を迎えた喜びと、未来への決意が、皆の絆をさらに強くした夜だった。
リックは一人で少し外に出て、星空を見上げた。
(シルヴィアがほぼ完治して、セレスティアも加わった……
隣町の森へは何度でも転移で行けるようになった。
影織りの革を集めながら、秘密結社への対抗も準備しよう)
遅咲きの物語は、天使の少女を迎え入れ、
静かに、しかし確実に次のステージへと進み始めていた。




