表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新たなる世界へ  作者: パルス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/32

第2話 「初めての出会いと、共同生活の始まり」


リックは簡易シェルターの壁に寄りかかり、深く息を吐いた。

転移を使った後の疲労は予想以上に大きかったが、昨日街で得たわずかなルピアと、アイテム収納の便利さを思い出すと、自然と口元が緩んだ。

しかし、まだ心のどこかで不安が残っていた。

一人で生きていくのは限界がある。

人手が欲しい——その思いが、日に日に強くなっていた。

それから数日後、リックは自分なりのルールを決めた。

3日に一度、近くの鉱山や洞窟に通う。

これは資源集めであり、戦闘経験を積むための習慣でもあった。

最初の数回は緊張の連続だった。弱い魔獣と遭遇するたび、心臓が激しく鳴り、

大地同調を必死に発動させて土を盛り上げ、石を投げてなんとかしのいだ。

何度か繰り返すうちに、少しずつ戦えるようになっていった。

そんなある日、リックは再び街へ下りた。

街の外れで、鎖に繋がれたハイエルフの女性を見かけた。

長いブロンドのポニーテールが風に揺れ、誇り高くも疲れ果てた瞳をした女性——エレノア・ウィンドリーフ。

彼女は街の外れで売りに出されていた。

リックは鑑定で彼女の価値を確認した。

……ルピアが全然足りない。

かなり足りない。

奴隷商人が太い声で呼びかけた。

「おい、客か? このハイエルフは上物だぞ。森の血筋が濃いから魔力も強い。値はかなり張るが、品質は保証する。どうだ?」

リックは財布の中身をもう一度確認し、唇を噛んだ。

「少し待っていてくれ。すぐに戻る」

お金は全然足りなかった。

それでもリックは覚悟を決めた。

「……ちょっと無理めだけど、鉱山に行ってくる」

彼は街の近くにある、少し危険な鉱山へ向かった。

鉱山の入り口は暗く、湿った冷たい空気が流れ出していた。

リックは深呼吸をして、中へ足を踏み入れた。

中は予想以上に暗く、足元が不安定だった。

鑑定で周囲を確かめながら進むが、時折、天井から小さな石が落ちてくる。

心臓の音が耳に響く。

(落ちたら終わりだ……ここで死んだら、本当に何も残らない)

汗が額を伝う。手が震える。

奥へ進むにつれ、空気が重くなり、息苦しくなる。

突然、足元が崩れかけた。

「うわっ!」

リックは慌てて地面に手を突いた。

その瞬間——

大地同調が、ほんの少しだけ反応した。

足元の土が固くなり、崩落をギリギリで食い止めた。

「……これか」

リックは息を荒げながら、地面に手を当て続けた。

集中する。念じる。

ゆっくりと岩が動き、壁が少しだけ安定する。

彼は必死に価値の高い鉱石を探した。

鑑定で良さそうなものを選び、アイテム収納に放り込む。

時間がない。早く街に戻らなければ。

鉱山の奥で大きな鉱脈を見つけたとき、天井から大きな岩が落ちてきた。

「っ……!」

リックは咄嗟に大地同調を全力で発動させた。

土が盛り上がり、岩をわずかに逸らした。

しかし完全に避けきれず、肩に強い衝撃が走る。

痛みの中、リックは歯を食いしばって最後の鉱石を掴んだ。

「これで……なんとか足りるはずだ」

鉱山を這うようにして脱出する頃には、体中が泥と血と汗で汚れていた。

息は荒く、足は震えていた。

街に戻ったリックは、埃まみれの姿で奴隷商人の前に立った。

「……これで、足りるか?」

彼は鉱山で採ってきた鉱石をすべて差し出した。

奴隷商人は目を細めて鉱石を調べ、値踏みするように何度も手を動かした。

「ほう……上物じゃねえか。まあ、ギリギリだな。

 このハイエルフは血筋が良いから普通の奴隷より高いんだが……今回は特別にくれてやるよ。

 ただし、次はもっと金を持ってこいよな。商売なんだからよ」

エレノアの鎖が外された。

彼女は静かに頭を下げ、リックを見つめた。

「ご主人様……私の命は、あなたのものです」

リックは照れくさそうに頭を掻いた。

「リックでいいよ。……とりあえず、俺の拠点作りを手伝ってくれないか?

 正直、まだ自分の力の使い方がよくわからなくてさ……」

エレノアは少し驚いた顔をしたが、すぐに穏やかに頷いた。

「わかりました。ご主人様のお役に立てるなら」

2人で山の麓へ戻る途中、リックは試しに転移を使ってみた。

エレノアを連れての転移は初めてだったが、なんとか成功した。

しかし、転移直後、リックは強い疲労感に襲われ、膝をついた。

「くっ……マジックポイントの使いすぎか……」

エレノアが心配そうに声をかけた。

「ご主人様、大丈夫ですか?」

「なんとか……な」

簡易シェルターに戻った2人は、簡単な補強作業を始めた。

エレノアが風の加護で木材を軽く調整し、リックが大地同調で土台を固める。

作業を終えた頃、森の奥から低い唸り声が聞こえてきた。

「グルルル……」

前回より少し大きな魔獣が現れた。

リックは緊張で体が強張った。

「またか……!」

エレノアが素早く弓を構えた。

「ご主人様、後ろに下がってください。私が援護します」

魔獣が低く唸りながら飛びかかってきた。

エレノアの矢が風を纏って飛び、魔獣の肩を浅く削った。

しかし魔獣は怯まずに突進してくる。

リックは咄嗟に大地同調を発動させた。

地面が盛り上がり、魔獣の足を少しだけ止めた。

「今だ!」

エレノアが連続で矢を放つ。

リックも必死で土を操り、魔獣の動きを鈍らせた。

魔獣の爪がリックの肩をかすめ、鋭い痛みが走った。

「ぐっ……!」

それでもリックは歯を食いしばり、大地同調を維持した。

土が魔獣の足元を柔らかくし、動きを封じる。

エレノアの最後の矢が魔獣の喉を正確に貫いた。

魔獣は短い断末魔を上げて倒れた。

リックは息を荒げながら地面に膝をついた。

肩から血が流れている。

エレノアが慌てて駆け寄ってきた。

「ご主人様! 大丈夫ですか?」

「……なんとか、な。弱い魔物じゃなかったけど……お前のおかげで助かったよ」

エレノアは静かに微笑んだ。

「ご主人様が土で足を止めてくださったからです。

 初めての共同戦闘でしたが……少し、頼りになりました」

リックは苦笑しながら立ち上がった。

「まだまだ力の制御が下手だけど……少しずつ、戦えるようになってきた気がする」

その夜、火を囲みながら簡単な食事をする中、リックはぽつりと呟いた。

「俺は……まだこの世界のことがよくわかってない。

 お前も、突然連れてこられて迷惑だったよな」

エレノアは静かに首を振った。

「いいえ。ご主人様に出会えてよかったです。

 これから一緒に、拠点を強くしていきましょう」

リックは小さく頷いた。

まだ始まったばかりの共同生活。

しかし、今日の戦闘で、2人の間にわずかな信頼が生まれたことを、

リックは静かに感じていた。

遅咲きの物語は、少しずつ動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ