第13話 「ギルドランクの上昇と、シルビアの正式保護」
今日はいつもより早く目が覚めた。
リックは薄暗いシェルターの中でゆっくりと体を起こし、胸の奥に残るざわつきを感じながら焚き火の残り火を眺めた。
昨日の救出作戦の緊張が、まだ体に染みついているようだった。
心臓の鼓動が少し速く、昨夜見たシルヴィアの弱った姿が頭から離れなかった。
隣ではエレノアが静かに眠り、リリアは小さく寝息を立てている。
そして、焚き火の少し離れたところに、毛布にくるまったシルヴィアの姿があった。
シルヴィアはすでに目を覚ましており、紫の瞳で静かに皆の様子を見つめていた。
その瞳には、深い疲労と、どこか不安げな影が強く混じっていた。
肩が小さく震え、毛布を握る指先が白くなっている。
ヴァンパイアの冷たい肌が、朝の薄明かりの中でいっそう白く、痛々しく見えた。
リックは胸が締め付けられるような感覚を覚えながら、できるだけ優しい声で声をかけた。
「おはよう、シルヴィア。
……少しでも眠れたか?」
シルヴィアはびくりと肩を震わせ、慌てて体を起こそうとしたが、力が入らずに小さく息を漏らした。
その瞬間、彼女の瞳に一瞬の戸惑いと、申し訳なさが浮かんだ。
「……おはようございます……
皆さん、まだ眠っているのに……私だけ先に起きてしまって……ごめんなさい……」
その声はか細く、長い間孤独だった者の不安と、突然の優しさに戸惑う気持ちが強く滲んでいた。
そこへエレノアが静かに目を覚まし、リリアもむくりと体を起こした。
「おはようございます、ご主人様」
「お兄ちゃん、おはよう! シルヴィアさんもおはよう!」
エレノアはすぐにシルビアの様子に気づき、穏やかだが心配そうな表情で温かいスープをよそった。
リリアは元気よく焼いたパンと果物を小さな皿に載せ、シルヴィアのそばに置いたが、その瞳には「大丈夫かな」という純粋な心配の色が浮かんでいた。
「少しでも食べられそう?
無理しなくていいよ……」
シルヴィアは弱々しく微笑もうとしたが、唇がわずかに震えた。
瞳の端に、うっすらと涙のようなものが光った。
「……ありがとう……ここは本当に温かいですね……
皆さんが優しくて……私みたいな者がいてもいいのかなって……ずっと考えてしまって……」
その言葉には、奴隷として生きてきた長い孤独と、突然の救出に対する戸惑いが、重く込められていた。
リックは胸の奥が熱くなるのを感じながら、静かに、しかしはっきりと言った。
「ここにいてくれてありがとう。
君がいるだけで、俺たちは嬉しいよ」
朝食を食べている最中、外から聞き覚えのある声がした。
「リックさん! エレノアさん、リリアさん!
ギルドから使いの者です! 大事な文書をお届けにきました!」
少年は息を少し切らしながら、厚めの正式文書を二通持って現れた。
少年は息を整えながら、二通の正式な文書を差し出した。
「まず一つ目です。
シルヴィアさんを『ギルド保護対象者』として正式に登録いたしました。
彼女は元奴隷で、秘密結社事件の被害者であるため、ギルド単独では恒常的な保護施設が整っておらず……
リックさんたちのパーティを『正式な保護責任者』に指定させていただきます。
今後、ギルドは回復薬の無償提供や情報支援を行いますが、日常の生活と安全管理の責任はリックさんにあります」
シルヴィアは文書を聞き、紫の瞳を少し見開き、指先を小さく震わせた。
「……本当に……ここにいていいのですか?
私はヴァンパイアで、元奴隷なのに……」
リックは文書を受け取りながら、静かに頷いた。
「もちろんだ。
ここはもう君の家だ。ゆっくり休んでくれ」
少年はもう一通の文書を広げ、明るい声で続けた。
「そして、二つ目です。
今回の秘密結社救出作戦の功績が認められ、リックさんたちのギルドランクがFランクからEランクに上昇いたしました!
おめでとうございます!
これにより、Eランク専用の依頼閲覧権と、回復薬の割引支援が追加されます」
リリアが目を輝かせて飛び跳ねた。
「やったー! お兄ちゃん、Eランクだよ!
これでもっと良い依頼を受けられるね!」
エレノアも穏やかに微笑んだ。
「皆で頑張った成果ですね」
リックは少し驚きながらも、文書を丁寧に折りたたんだ。
「ランクが上がったのか……ありがとう。
シルビアを助けたのも、みんなで協力した結果だな」
シルヴィアはランクアップの話を聞き、少し申し訳なさそうに、しかし安堵の色を浮かべて言った。
「……私のせいで皆さんが危険な目に遭って……それなのにランクまで上がって……本当に申し訳ないです……」
リックは優しく首を振った。
「君を助けたのは俺たちの意思だ。
ランクが上がったのも、みんなで力を合わせたからだよ。
これからはEランクとして、少しずつ大きな依頼にも挑戦していこう」
午後、拠点では軽い拡張作業が行われた。
リックが大地同調を使ってシルヴィア用の簡易休憩スペースを作り、エレノアが風の加護で室内の空気を快適に整えた。
リリアは自分のハンマーを見せながらシルヴィアに話しかけ、シルビアはまだ動けないながらも「ここに小さな棚を置いたら便利かも……」と控えめにアドバイスをした。
夕方近く、小さな魔物が拠点近くに現れたが、リック・エレノア・リリアの連携で簡単に撃退した。
シルヴィアは焚き火のそばで見守りながら、
「皆さんが戦う姿……とても頼もしいです」とつぶやいた。
夜、焚き火を囲む頃。
4人は今日の出来事をゆっくりと振り返った。
シルヴィアが静かに言った。
「ギルドから正式に保護が認められて……ランクも上がって……
本当に……ここが私の居場所になれるのでしょうか?」
リックは焚き火の炎を見つめながら、穏やかに答えた。
「ここはもう君の家だ。
ゆっくり慣れてくれ。
俺たちは家族のようなものだと思ってる」
エレノアが優しく微笑んだ。
「これからは4人で一緒に頑張りましょう」
リリアは元気よく頷いた。
「うん! シルヴィアさんも一緒にご飯作ったり、掃除したりしようね!」
シルヴィアは初めて少し大きめの笑顔を見せ、小さく頷いた。
「……ありがとうございます。
よろしくお願いします」
その夜、4人は焚き火のそばで静かに寄り添うように過ごした。
シルヴィアはまだ体力が戻っていないため、皆で温かく見守る形になった。
リックは一人で少し外に出て、星空を見上げた。
(シルヴィアが正式に保護されて、ランクもEランクになった……
これで少しは冒険者らしくなってきたな)
遅咲きの物語は、ヴァンパイアの少女を迎え入れ、
また一つ、家族の輪を広げた夜だった。




