052 水中観察
義兄が魚に餌をやっている。
側にはアレから来た男と、作業場で魚の処理を終えた二人の女が手伝っている。
周りで子供達も分けてもらって餌を投げて、魚を呼び寄せて楽しそうにしている。
「どうだい?」
「麦の皮と粉そして魚のアラを潰した物を固めただけで、こんなに大はしゃぎだ、随分と大きくなったぜ」
「溢れた餌に釣られて入江の小魚も大きく数も増えた。それを捉えて網の中に入れている。【養魚場】って言う様にしたんだってな? あそこの三人も興味津々で野菜クズなんかも刻んで入れている。楽しいぜ!」
ミオラが駆け寄って来た。
「ミオラもいっぱい、あげている」
他の子供達もおおはしゃぎだ。
ミオラも、アレから来た他の子供達もすっかり浜の生活に慣れて泳ぎも出来る様になった。
目が離せないとミキジと周りの女達が笑っていた。
その中の一人の男の子に
「お魚って深い所に居るからどうやって泳いでいるのか解らない!見てみたい!」
こう言われて黒石板にあった【水族館】という文字が頭に浮かんだ。
早速、村長の家の二階に上がり、この浜の地図を引っ張り出す。
この地図には、もう作業場や新しく建てた家も書いてある。
養魚場も最近書き加えられた。
広げて見ていると義父と長兄がやってきた。
二人とも魚の餌の匂いがする。
ルイスが収納から【洗浄】の魔石を出すと、クンクンと匂いを嗅ぎ出す。
「臭うか〜?」
「少しだろう?」
「結構臭うよ。やっておいたほうがいいよ」
こう言って、二人の臭いが消えたところで思いついた話をする。
「子供に魚を見せるだけじゃ無いんだ。成長具合を確かめたり病気の魚を見つけたりするのに役立ちそうだ」
二人は納得が行った様で乗り気になった。
「あの砦の変な板を使うんだな?」
「遺跡の中で光魔石みたいに透明な壺が見つかるから、方法はあるのかも知れない」
土の術師の義父も色々考え出していた。
「でも、今は目の前にある物を使ってみようと思う」
「透明な壺? なんか同じ様な物が無かったかな?」
「オヤジ! 忘れっぽくなったな?」
「まぁ焦るな・・・・アレの街・・・・アレの街の市場の跡でなんか同じ様な物見たんじゃ、無かったかな?」
義父やその他の男達は新領主の依頼で調査に聖地の術師とアレに入っている。
もちろん元アレの住民も一緒だ。
ただ、火事場泥棒は居ない。
それくらい破壊され尽くされていた。
街の外で見つかった死者は身ぐるみ剥がされていたが・・・・
アレの街か・・・・
人目があるから避難所の事件以来行っていないが、変装をして行ってみるか?
髪を染めれば良いだろう。
地下遺跡から入れば屋敷の地下に入れるかも知れない。
「で、どうやるんだ?」
長兄に背中をどやされて息が止まりそうになった。
「魔道具の板を造船所で箱にしてみようと思っている。底に一枚置いてその四辺に立てて【接合】の陣をその両端に
【魔石の墨】で描き込んで魔素を流し込んだら一体になる」
「生簀に移す時には中に水を入れて船の様にして浮かべて養魚場に横付けする。岸に寄せて養魚場の生簀の網の横に取り付ける。底に当たる部分はルイスが海底を引き上げて沈まない様にしておいて、俺が土の術で固定する」
「固定出来たら水を抜いて梯子を入れて【透明の魔道具】を生簀側に取り付けて魔石を起動させる。そうすれば生簀の中の魚が見える」
すぐさま実行された透明な箱は水漏れは無かったが、色々と手直しをして長兄が何日か使った後に村人にも楽しんでもらう様にした。
だがハシゴを使うので子供だけでは使えない様に決めた。
イタズラ坊主がコッソリ入り込んだが、逃げられずに尻を母親に存分に叩かれた。
虐待では無い躾けだ。
浜で養魚場を見ながら家族で朝飯を食べている時に長兄が言った。
「しかし、餌が問題だな。いつも漁があるわけでは無い。何か他の物を探さないと・・・・。」
この事はルイスも考えていた。
海藻を食べる魚がいる事、その魚を大きな魚が食べる。
今やろうしている事だけでは足りない。
今は少ない数の魚しか生簀に入れていない。
「試行錯誤して行きましょう」
「そうだな。何か丘で作れる餌があれば良いのにな」
「そういえば釣りはどうやっているんですか? 餌使いますよね?」
「海の土や砂の中にいる生き物を使うし、丘の土の中にいるミミズや魚のハラワタに集るハエの幼虫を使うな。ハエ自体やサナギも使う。虫や昆虫なら何でも良いぞ」
「そうなんですか?」
(知らない事とは言え、凄い物を使っていたんだ)
「なんだ釣り、やった事無いのか? ミオラや他の子にもやらせるか?」
「ライラはやった事あるのか?」
「ありますよ。やらないと晩御飯のおかずが困りますから?」
「餌は?」
「魚によって変えます。小さい魚はハエの幼虫がよく釣れます。集めるの簡単だし、後は丘のミミズかな?魚のはらわたでも釣れますよ」
一度はやっておかないと、今後の養殖が成り立たなくなって来そうだが、触れる事が出来るか心配になって来た。




