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混乱

お待たせしました!

待っていてくれた方、ありがとうございます。


●混乱の渦へ


 転移で王宮に戻ると、右も左も駆ける兵士でごった返していた。

「応援はまだか! 既に結界の綻びから亡者の群れがうようよと這い出してきているぞ!」

「七番門より通達! デスクリムゾンの群れに強襲されて部隊は半壊! 救援を!」

 兵士の怒号が飛び交う。

 遠くから聞こえる微かな悲鳴と、ガンガンと打ち鳴らされる警鐘とが混じり合って混乱に混乱を重ねている。

 ここは戦場だった。

 場違い感に小心者の俺はびくびくしながらも玉座の間に向かって指示を仰ぐことにした。どこかに司令官がいるはずだ。

 ダルカやオレイルは面倒な事に今日から処分がなされるので、王かリンデーラ姫を見つけないと立ち往生するだけだ。

「これから王様探しに玉座の間に向かうけど、誰かを救援に回す必要がありそうだな」

 事態は一刻を争うかもしれない。戦力の逐次投入は愚策と言われるが、防衛を崩されてはそもそも話にならない。

 時間も貴重な資源だ。

「なら、私が行ってやろう」

 率先して手を挙げたのはラフラだ。試し切りをしたくてうずうずした表情をしている。

「いいのか?」

「大丈夫さ。グレンディールの切れ味も試したいし、アンデッド共に有効な聖剣技も貰ったし、まあなんとかなるだろう」

 そう言って自信と共に笑みを浮かべるラフラ。

「わかった。でも単独行動は危険だ。ラフラのサポートにノジュが回ってくれ。ノジュだったらバランスがいいし、城の地理にも明るい。残りは俺と来てくれ。

でも、呪いは分離させてもらうからな」

 ラフラの持つグレンディールに対して分離を使う。残念な事に知力や意志ー100は分離出来ないらしい。しかし、狂乱の呪いは分離することが出来た。

 狂乱の呪石は格納のスキルで仕舞う。

 それを確認した後、ノジュとラフラは頷きあい、東側に駆けて行った。

 王宮の間の扉をくぐると、王様が頭を抱えていた。

 複数の大臣がああでもないこうでもないと白熱した議論を交わしている。

 役立たずの極みだな。

 リンデーラ姫、賢者ダルカ、聖剣士オレイルはいずれも出払っているようだ。

 何しろこの城の警備の切り札だもんな。

「火急の報せということで助けに来ました」

 それだけを告げると、ガルガン14世はガバッと面を上げて、俺を見つけた。目はまだ力を失っていないようだ。

「おお! 勇者殿ではないか! 早速で悪いが時間がない、手を貸してくれ! 左大臣!」

 長い白髪とキツネ目が特徴的な老人はこちらを一睨みすると忌々しそうに口を開いた。

「……旧大聖堂の結界が何者かに破壊されたのです。現在リンデーラ姫、ダルカを主力とした結界構築組とオレイルをリーダーとした不死者討伐組にわかれて何とか対処しておりますが、いかんせん数が数だ。多勢に無勢で現状は逼迫しております。何卒我が王家に何卒勇者殿のお力添えを願えればと存じます」

 早口で捲し立てられた。

 なんだか感じの悪い態度だな。まあいいか。一宿一飯の恩義もあるし、一肌脱ぐ場面だろう。

「霊をうち洩らした場合、市街の被害はどうするつもりですか?」

「既に冒険者ギルドに緊急依頼を発しました。聖職者や魔法使いが逃がした霊を仕留めてくれると思います」

「なら俺達は何処に向かったらいいですか?」

 防御が手薄になっているところの援護に回った方がいいだろうか。

 現在のパーティーは勇者、剣士、魔法剣士、狩人、大司祭だ。攻撃偏重のパーティーだし、なるべく前線がいい。

 こんなこともあろうかとオレイルから聖剣技をコピーさせてもらっているし、こっちには剣士が三人。アンデッドに強い大司祭。負ける要素がない。

「すまんが西側にミストマジシャンの群れが現れ防衛部隊が全滅したとの報が入ってきている。急いでそっちに向かってくれ」

 王様の指示に頷くと俺達は城の西側に向かった。

 

 城西部への連絡通路を走ると空中に靄が幾つも浮かんでいるのが分かった。

 探査によるとあれは全部ミストマジシャンらしい。強力な魔法と魔法防御、それから物理無効の能力で兵士には荷が重い、との事だ。

 一般的には聖職者の浄化系統か光系統の魔法で仕留めるとダルカから聞いている。こっちにはシェマもいるし、霊体攻撃もある。

「露払いしますね」

 シェマは【光雷の波】を唱えた。無口だったのはこれを事前に準備していたからのようだ。

 全部とはいかないまでも、空中に浮かぶ靄が粗方吹き飛んだようだ。

 しかし、その穴を埋めるように旧大聖堂から靄が吹き出してくる。これでは切りがない。

 迷宮から這い出さないように結界で封印し、元栓を閉めなければ幾らでも湧いて出てくるはずだ。

 勝手知ったるシェマを先頭に、俺達は城の西部へ到達した。


● 城・西部


 兵士の死体が転がっている。

 血溜りはない。しかし、苦悶の表情で事切れている事を考えるとやるせない気持ちになる。

 蘇生の制限時間には間に合わなかった。

 だったら彼らの分まで俺達が戦うしかない。

 踏み入った城内は暗い。窓から差す日光さえ届かない。まだ昼間なので日差しくらいは届いていいはずなのだが、それも望めないようだ。

 パーティーメンバーは暗視のスキルを装備して、壁を通り抜けて現れる霊を駆逐していった。

「幾ら仕留めても終わりがないですね」

 平然とした様子で【光の矢】を唱えているシェマが取りだしたクッキーをポリポリ齧りながらミストマジシャンを仕留めた。

 敵とはいえ、おやつを食べながら片手間に始末されるミストマジシャンが少々不憫である。

「無限ポップ状態か。レベルアップやドロップ目的で狩るならいいんだけど、こういう時間制限がありそうな戦いだときついよな」

 俺は抹消でデスクリムゾンだけ仕留めながら独り言をつぶやいた。

「無限ポップ?」

 リリアが首をかしげた。

「敵が幾らでも湧いて出てくるってこと。倒しても倒しても終わりがないからアイテム収集やレベル上げにはいいんだけど、ゲームの初回プレイや危険な場面でやることじゃないんだよ」

 俺達がいた世界の知識を披露しつつ、リリアに口づけした。

 MPとHPを補完する為だ。ん、と身じろぎするリリアから離れると悠香が険しい視線で俺を睨んだ。

 俺達はラフラが持ちこんだ吸生剣と吸魔剣と言う魔剣技を持っているが、霊体相手には吸い取ってくれない。

 そういう仕様なのだから仕方ないだろう。

 むしろロールプレイングではアンデッドにHPやMP吸収の攻撃をすると逆に自分のHPやMPが吸い取られる場合があるので、吸い取られないだけマシだと考えるべきか。

「親玉を殺すか、結界を完成させるか、雑魚を全滅させるかの三択だな。まあ無限ポップだったら最後のは愚策だが」

 俺の言葉に鶫が反応する。

「親玉って魔王? 迷宮の奥なんだから現実的じゃないよ」

「なら残りは結界を完成させるか、雑魚を全滅させるか。どっちがいいと思う?」

「私は全滅させたらいいと思う。こっちも強くなるし、ドロップも拾えるし。……あ、また石見っけ」

 悠香が濃霧の魔法石を拾いながら答えた。格納のスキルで石を仕舞う。売ったら結構な値段がするらしいしな。

「そうね。結界を張る作業なんて無理そう。でもシェマは?」

 いきなり呼ばれてビクッと震えたロリッ子はクッキーを掌から滑らせた。あえなく廊下に落ちたクッキーを無念そうに見つめるシェマ。

「一応出来ますよ。でも、私は……この際だから霊を全滅させた方が後腐れなくていいと思います」

 俺のパーティーは好戦的なようだ。探査をしても後300体くらいはこの西側の部分に居るはずなんだが。

 廊下の下からぬっと姿を現したミストマジシャンを抹消で消し飛ばす。

「じゃあ更にパーティーを分けても大丈夫そうか? 割と余裕そうだし、手分けして駆除した方がよさそうだ」

「問題ないんじゃない? 敵も弱いし」

 聖剣技・浄化の剣を駆使して無双状態の悠香がサクッとデスクリムゾンを斬り裂きながら答えた。

「オッケー、じゃあ悠香、鶫、シェマで殲滅を担当してくれ。俺とリリアは生存者の救助に向かう。まだ生きている奴もちらほらいるみたいだし」

「そっちが二人でいいの?」

 鶫が心配した面持ちでこっちを見る。

「大丈夫さ。代わりにそっちは盛大にやってくれよ」

 リリアと共に、生存者に向かって走り出した。


●生存者?


 リリアの魔法と、それから俺の素人剣技でどうにか亡霊の群れを駆除しながら生存者の下へとたどり着く。

 しかし、この濁った空気はどことなくおかしい。

 本当に味方なのか? 探査の反応では人間側の反応なんだが。

「助けにきたぞ!」

 ドアを開け放つと、漂ってきたのはむっとする血の匂いだった。

 遅れて、狂ったようにケタケタ嗤っている一人の男。

 彼らの足元には夥しい体。生きているのもあれば、息絶えているのもある。

「ふふふ、勇者殿ではありませんか! アタリを引いたなぁ、お待ちしておりましたよ」

 部屋の中で抜き身の剣を所在無さそうにぶら下げて佇んでいたのは神殿で擦れ違った男性だった。

 確か殲滅剣士のジョブを得たはずだったな。

 その表情はまさしく恍惚としか表現しようがない。

 一歩踏み出そうとして気付く。

 俺の足元には散らばったかつて人間であったはずの体の一部。

 手、首、足、胴。それがばらばらに転がっていた。

「手持ち無沙汰だったのでね、少し遊ばせて貰いました。そう、オモチャなら腐る程あったのでね。こんな風に」

 剣士は、徐にそこに倒れていた兵士を掴みあげその喉を斬り裂いた。

 苦悶の声と流血、あまりにも自然に行われた殺人劇に俺は言葉を失っていた。

「ね? 脆いでしょう? でもね、すぐに気にならなくなりますよ。何故なら」

 すっと剣士は足を踏み出した。

「貴方は死ぬからです」

 剣士の挙動は滑らかで踊るかのようだった。

 剣が振り落とされる。

 反射的に【氷の盾】を唱えた。派手な音を立てて刃と盾がぶつかる。

 魔力を籠めた氷の盾は一撃では破壊できないようだ。

 破壊できないと見るや、すぐさま右手だけで剣を持った剣士は【闇の剣】を唱える。

 左手に握る黒い剣で足を斬りに来た。

 遅延の魔眼を開眼。一瞬だけ剣士の動作がゆっくりになる。

 リリアの【光の矢】が驚きに息を呑む剣士目掛けて放たれ、俺は更に【光の盾】を唱えて【闇の剣】の一撃をどうにか防いだ。

 遅延の魔眼のサポートがなかったら足を持って行かれたかもしれない。

 連続する光矢の雨に剣士は金の鎧の重さを微塵も感じさせず距離を取る。

 同時に時間制限を迎えた盾が消滅していく。

 リリアは魔法の矢を幾つも放った後に弓に矢を番え、一瞬制止した剣士を射抜く。

「ふう、今のは危なかった」

 剣士は余裕の笑みを崩さないまま、腕に刺さったリリアの矢を引っこ抜く。

 剣士が腕で守らなかったら脳天を貫いていた。今のはそういう一撃だった。

 しゅうしゅうと音を立てて剣士の傷が塞がっていく。

 なんだあれ。人間じゃないな。

 さて、奇襲は失敗に終わったようだ。隙を見て検査をさせてもらう。

 目立ったスキルはないが、【闇の剣】は持っていないからコピーしておこう。しかし、さっきの意味不明な再生はなんだろう。装備か?

「なんでこんな暴挙をしたんだ」

 俺の言葉を剣士は嗤った。

 話しかけながら装備を検査する。これといった特徴はないな。

「暴挙? 何を言うかと思えば。そんな常識的な言動を取るとは思いませんでしたよ、勇者殿」

 馬鹿にしたような言い草にカチンときた。

「五月蠅い。質問に答えろ」

「強いて言うなら……つまらないからですよ」

 そういうと剣士は勢い良く間合いを詰めて俺に斬りかかる、と見せかけてリリアに向かった。

 リリアは動揺せずに【氷の盾】を幾つも展開させて、時には【光の矢】を放って牽制した。

 火炎の魔眼で追撃するが、燃やしてもやはりしゅうしゅうと音を立てて回復してしまう。謎だ。

「ふうん。じゃあ、聞くけど」

「なんです?」

 喋りながら連続して攻撃してくる剣士。顔、首、手首、肩、腿、心臓、下腹、しかし俺には全て見えていた。ここ最近視力を上げまくっていたからな。剣に剣をぶつけていなす。

 こいつの異常な回復の原因を探ってからでないと気味が悪いから抹消は後。

「お前が、つまらないからって理由で旧大聖堂の封印を解いたのか?」

「勿論ですとも! 安全だと思っていた城の中に降ってわいた惨劇! 亡者による狩りと、魔王復活! これ以上のカタルシスは考えられ……」

 犯人はこいつか。とりあえずこいつを持ち帰って裁判にかけよう。先制抹消しなくて良かった。

 硬直の魔眼、開眼。動けなくなった剣士に対して足払いを掛け転倒させる。

 転んだ剣士に対して【凍土】を唱え、地面に縫い付ける。念には念を、ということでリリアに影のスキル石を融合し、獲得した影縫いのスキルで剣士を封じた。

 これで動けまい。

 剣を取り上げて武装解除し、吸魔の剣+吸生の剣のスキルを使用。取り上げた剣でざっくざっくと突き刺す。

「こんな酷いことはしたくはないが、抵抗する気力を奪う為だ。仕方ないな」

「ご主人さま、そんなこと言って目が完全に笑ってますが……」

 リリアが困り顔である。誰だ困らせた奴は。

 HPとMPを精密検査のスキルを使って確認すると、HPは突くたびすごい勢いで回復するが、MPに関しては減少する一方だった。

 呪い、装備、スキル、魔法、どれも該当しない。

 更にステータスを詳細にみる。

 わからん。埒が明かない。

 あれしかないか。

 設定画面を開く。

 このスキル本当に頭おかしいと思うよ。

 耳の項を開く。

 2500ポイントを支払って、サトリのスキルを入手。

 サトリとは妖怪の一種で、心を読むことが出来る能力があるそうだ。

 このスキルを装備すると、対象の心の声を聞くことが出来る。

 悪用し放題なだけあって対象に質問しないと心の声が聞こえないという制限があるが、まあしょうがないな。

 ポイントを消費して不安なのでリリアとちゅっちゅして補填しておく。

「質問だ。何でお前は傷が急速に再生するんだ?」

「ふん」

 答えないが、心の声は聞こえる。

『まさか吸収した霊を使ってHPを回復する吸魂のスキル持ちだとは気付くまい。これは俺だけの特別なスキルだからな』

 もう一度スキルを見返す。確かに吸魂と書かれたスキルがあった。これは一体……。さっき見た時にはなかったはずだ。

 試しに近くに浮かんだ霊をハームで切り裂いた。吸魂(1)と浮かぶ。なにこれすごい。

 ラフラの持っているグレンディールの霊体吸収の効果とはまた別なようだ。同時に使ったどうなるんだろうとかいろいろ考えてしまう。

「まさかとは思うが、旧大聖堂の結界を壊して霊を吸収しまくれば自分は無敵だ! とかそういう浅はかな考えでやったわけじゃないよな?」

「!」

 剣士が何故それを! とまさしく顔に書いたような驚きと苦々しさが混じったような表情を浮かべてくれたので、質問する手間が省けた。

「じゃあお前は王様の前でちょっと釈明してもらおうか」

 喚く剣士掴む。その様子をリリアが冷たく見下ろす。

「貴方の行いのせいで、沢山の人が死にました。その報いを受けるべきです。そもそもご主人さまに勝負を挑んだのが愚かと言うか。……勝てるわけないのに」

 今しがた喉を斬られて絶命した戦士はどうにか蘇生できた。

 他は駄目だった。

 生存者と剣士を連れて玉座の間に転移することにする。

 鶫、悠香、シェマのパーティーは放っておいても何とかなるだろう。

 一度転移して玉座の間に戻る事にした。

 今回の事件の元凶を王に裁かせる為に。




●犯人を連行




 転移し、玉座の間に戻る。生きていた兵士は連れてきた。ここの守りに使った方がいいだろう。それから剣士の蛮行を証言させる為に。

 王様はびっくりしたような顔でこっちを見ていた。

 俺じゃない、こっちの剣士の方だ。右大臣が明らかに狼狽している。

「カーライル! その腕と脚はどうした!?」

「ああお父様! 私はその小汚い男にやられてしまったのです! あの者が勇者等ではありません! あの男こそこの騒ぎの元凶にして主犯! この王宮を転覆せしめようとする大罪人なのです! お父様の権力で罰して下さい!」

 勢い余ってなんていう話の持って生き方をするんだこいつ。

「して勇者殿。これは一体?」

 落ち着きを取り戻して問いかけたのは王様だ。やはり威厳があるな。

「こいつが自分で騒ぎの元凶だっていうからさ、連れてきた。俺は霊の駆除に出かけたいし、仲間も心配だ。行っていい?」

「戯けた口をききおって! 王の御前であるぞ!」

 右大臣が唾を飛ばしまくる。正直汚いから近寄らないで欲しい。

「面倒臭い。俺は行くから、後はこの兵士に聞いてくれよ。一応抵抗手段は奪ったけど、万が一の時は……うーん、兵士。がんば」

 先程連れてきた兵士にエールを送る。

 リリアとキスして生命、筋力、体力を俺のステータスと同一に複製した。これでなんとかなるはずだ。

「勇者殿。主犯を連れてきて、枷もつけずに放置とはいかがなものかと思うが」

「問題ない。その兵士はここにいる誰よりも強くなっているはずだ。それこそそこのカーペットに寝転んでいる奴よりも。それじゃ!」

 今は時間がおしい。おたおたする大臣ズ+王+兵士を置いて俺とリリアは転移。

 城壁の西部に戻る。

 未だにうようよと霊が漂っている。さっきと比べれば随分減ったようだ。

 試しに何匹が斬り捨てると、吸魂の数字がどんどん増えていく。何これ気持ちいい。

 鶫、悠香、シェマのパーティーは上手くやっているようだ。どんどん敵影が消えていくのがわかる。西部は三人に任せて俺達は大本の旧大聖堂に行くことにしよう。




●旧大聖堂・再訪




 旧大聖堂へ転移した。

 あれだ。

 霊がわんさかいる。

 右を見ても左を見ても前を見ても後ろを見ても上を見ても下を見ても霊。霊。霊。霊。霊。

「勇者様、お待ちしておりました!」

 すぐ近くに息も絶え絶えという風情の神官が数人固まっていた。

 といってもこんなのどうすればいいの。

「敗れた兵士が敵となって襲いかかる始末。最早一刻の猶予もありません」

 苦々しげに神官が話しかけてきた。

 とりあえずリリアにダルカから頂いた【光雷の波】を唱えさせる事にする。

 それまでは俺がリリアをガードする必要があるな。霊体を斬り、不死者となった兵士の亡骸を火炎の魔眼で焼き、デスクリムゾンを抹消で消す。

 デスクリムゾンの魅了や即死攻撃はコピー出来ないんだろうか。余裕があったら試しておこう。

 ハームで敵を袈裟切りにしたところでリリアが【光雷の波】を唱える。

 詠唱が長いのがネックだな。

 しかし範囲魔法と言うのはその分美味しいのだ。

 見渡す限りに溢れるほど居た霊が、リリアが唱えた魔法で全て消し飛んだ。

 結構ドロップもあるようだが、今は放置。

「奥はどうなっている?」

 尋ねられた神官が答える。

「ダルカ様が構築なさる結界をリンデーラ姫と多数の兵が決死の覚悟で守っています。勇者様のお力添えがあればきっと上手くいくでしょう! 先へお急ぎ下さい!」

 奥へと進む。

 空気が重い。

 腐臭がする。

 事切れた兵士の屍の山からだろうか。

 先程死んだのなら、今腐臭はしないはずだ。

 つまり。

 足をとめた。

 探査をすると、辺りには敵影の数だけが幾つも浮かぶ。

 しかしそれらしいものは何もない。

 あるのは『彼ら』だ。

「……リリア。もう一回だ。なるべく早く頼む」

 えっと、と慌てるリリアを急かして【光雷の波】を準備させる。

「大量に出てくる敵って苦手なんだよな……。抹消の効果が薄いしっ! っと!」

 ゆらっ、と起き上がった兵士の首をハームで刎ねた。

 亡者の牢獄に捕えられた兵士たちを永遠の眠りに就かせるために。

 かつて味方だったものを前にして俺は剣を構えた。

次こそなるべく早く投稿します(←あてにならない)

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