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露店

お待たせしてすみません。今回は次回の繋ぎです。

●パーティー再編成


 宴が終わった日の翌日。

 俺のパーティー一同は城内の会議室でシェマと面会していた。

 パーティーメンバーの他にはガルガン14世、リンデーラ姫、ダルカ、オレイルが同席している。

「残念じゃの。本日よりダルカは謹慎。オレイルは降格。シェマに至っては……」

 しんみりとした様子のガルガン14世がダルカ、オレイル、シェマの順に見た。

 シェマは借りてきた猫のように椅子に腰掛けて萎縮した表情で俯いていた。

 こうしてみていると年相応の少女でとても大司祭なんて偉そうな職に就いていたなんて思えない。

 こほん、と咳払いをして口火を切ったのはリンデーラ姫だった。

「シェマ。昨日の再審の結果は覚えていますね」

「はい姫様。身分剥奪と国外追放のうち、国外追放が取り消されました」

 リンデーラ姫は深く頷いた。

「その通りです。国外追放の処分を取り消すことはダルカやオレイルとの相談した上での決定です。勿論最終的にはお父様からの許可ももらいましたが。貴方を大司祭の任から外し、旧大聖堂浄化作戦のメンバーに加わる事を命じます」

 なんだその作戦名。寝耳に水だ。

 王様の許可があるんだから旧大聖堂には俺のパーティーが自由に入っていいんじゃないのか。

 そこは大事なところだから確認する必要があるな。

「といいますと。私はどうすればいいのでしょうか?」

 首を傾げたシェマの質問にダルカが答える。

「勇者様のパーティーの末席に名を連ね旧大聖堂にひたすら潜り続けるだけの単純な作業です」

 リンデーラがにこりと微笑んだ。

 単純だからと言って簡単だとは限らない。ましてや安全とは限らない。

「それは……危険ですね」

 シェマが答えた。

「ダルカとオレイル、勇者様のパーティーがシェマを追って旧大聖堂に潜ったときはネイの下にまで辿り着きました。ダルカの役割をシェマが果たせば問題も危険も少ないと思います」

 この目で見たのではないので断定はできませんが、と姫が付け加える。

「大丈夫です。私では勇者様の実力は計り知れない程強いのです。命の危険はないですよ」

 正確には違いますけどね、とダルカが俺を見て言った。

 こっちを見るな。

「後はシェマが頷くだけの話だ。大聖堂の連中にも、王家の方々にも、貴族連中にも、全て話はついている」

 オレイルが引き継いだ。 

 泣きそうなシェマはきょろきょろ見回して俺と目が合うと助けを求めるように呟いた。

「私に旧大聖堂の攻略に選ばれるような実力があるとは思えないのですが……」

「いや、問題ない。それはパーティーでカバー出来る。ネイが選ぶ程の才能が眠っているんだ。卑下する必要はないだろ」

 それからシェマは俺と姫とダルカの顔を順番に見て、分かりましたと呟いた。

 納得したらしい。

 シェマは小柄で緑色の法衣はぶかぶかだし、首や腕だって細い。

 こんな少女でも憑依されればオレイルの胴を手で貫くんだから、まともに戦った際のネイの凄まじさが察せられるというものだ。

 シェマは亜麻色の髪に青い目だが、シェマがネイに憑依されていたときは眼球自体が黒かったし、昨日のパーティーの時にはゆっくり話す機会はなかった。

 俺よりも年下そうなんだが、幾つなんだろう。

 まあ女性に年を聞くのは失礼と言う話だし、聞けそうなタイミングまで待つとしよう。

「国王陛下。それでは勇者様のパーティーに参加し、必ずや旧大聖堂を浄化します。今までお世話になりました」

「うむ。任せた。ところで錬金術師改め勇者殿」

「なんですか?」

 王様はごほんと咳払いをして、こちらに視線を送った。

「褒美の件だ。領地を所望するとのことだが、どこでも良いのか?」

「はい。特に希望はありません」

 元の世界に戻ったら領土は持って帰れない。ひとまずの本拠地が出来ればどこでもいい。

 王様は顎鬚をしばし擦ったあと、頷いた。

「ふむ。ならば追って連絡する。それまでは城内でゆるりと過ごすが良い」

 僻地の領土でも困るか。でも転移があるし、別に移動には困らない。

 会議室を辞し、俺のパーティーは一名増えた。

 シェマ。

 検査をする。職業は無職だ。

 身分剥奪ということだから、ステータス上でも無職になっている。

 そういえば転職神殿に行かなくても俺は無職から狩人になっていた。その逆バージョンということだろうか。

 まあ無職といっても大司祭として研鑽して身に付けたスキルは失っていないからそんなに問題ない。

 でも職業のボーナスは得た方がいいし、なにか職業を身につけに転職神殿にもう一度行く必要がありそうだ。

 ということはあのスケベ親父にまた会いに行くのか。

 気が進まない。

 とりあえずシェマと仲良くなろう。

 なるべく早く打ち解けておきたい。

「シェマ。よろしくな」

 びく、っとシェマは震えた。

「は、はい! がんばりまふ」

 噛んだ。物理的に舌を噛んだようだ。痛そうだ。涙目で口を押さえている。

 ドジっ子だ。

 ドジといえばミラだ。

 このまま放置してもいいが、王国軍から引き抜くか。

 ただの一兵卒だし俺が欲しいといえば王様も嫌とはいえまい。

 それともこのまま軍属にしておいた方がいいか。

 ミラはひとまず放置しておこう。


 その会議の後、パーティーメンバーを集めて会議を開いた。

 俺、鶫、悠香、リリア、ラフラ、ノジュに加えて新たにシェマが加わった。

 職業は勇者、魔法剣士、剣士、狩人、魔剣士、風術士。無職。剣士が三人もいる。多い。

 オレイルの話によると魔法剣士はあまり転職出来る人がいない職業らしい。したがって実態もわかっていないのだそうだ。

 魔法と剣を同時に使うことが出来る存在なのは間違いないんだが、とはオレイルの弁だ。

 名前を見ればそれくらい俺にだってわかる。

 鶫の魔法剣士は筋力と知識が小上昇するだけで、職業によるボーナスは軽いようだ。何か特別な事が出来るといいのだが。

 ノジュの風術士は風魔法効果大上昇、知力中上昇、風神の加護という特典があるようだ。

 これからどんな魔法を覚えていくのか楽しみな職業ではある。

 さて。

 新たなメンバーであるシェマ。

 今は無職ではあるが、以前の職業は大司祭だった。

 正直大神官と何が違うのかわからない。

 人前で聞くのは憚られたので、こうやってパーティーメンバーだけになるのを待っていたのだ。

 早速聞いてみよう。

「シェマ。大司祭という職業について教えてくれ」

 シェマは急に話を振られてびっくりしたようでノジュの後ろに隠れてしまった。

「……ええと。それは王宮での役職としての大司祭ですか? 神殿で割り振られた意味での大司祭ですか?」

 怪訝そうな顔をしてシェマがこっちを見ている。どうも警戒させてしまったようだ。それに割り振りという言い回しも気になる。

「どっちも知りたい。なるべく俺の頭でもわかるように、簡潔に説明してくれ」

 シェマは額に手を当ててうーん、と唸った後、ぽつりぽつりとつぶやいた。

「……大司祭は『特定の神を祭る者』という役割を担っています。我が国では正義の神クシュセロナを信仰しています。したがって王宮ではクシュセロナ様を祭祀していました」

「そうだね、シェマったら飯も食わずに祈りを捧げてたもんねー」

 と肩を竦めるノジュ。どうやらシェマとノジュは知り合いらしい。ノジュはダルカの弟子だったようだからどこかで接点があったのかもしれない。

「はい。寝食を忘れる程に信仰を深めれば必ずクシュセロナ様は私達を導いてくれますので」

 堂々と言い切るシェマ。先程までの自信のなさはどこかに行ってしまったようだ。

「それなら神殿で与えられる職業にはどういう意味が?」

「ええ。私は大聖堂でクシュセロナ様を祀る任から外された為現在の職業は無職になりましたが、大司祭と言う職業自体に復帰することは出来ます。例えばアリスタヤ共和国に行けば火の神バレイを祀る大司祭として働く事が出来ます」

 うーん。わかったようなわからないような。

「大神官っていう職業との違いを教えてくれ」

「大神官は『全ての神に仕える者』という役割を持ちます。例えば転職神殿は全ての神の石像を神殿の近くに作る決まりになっています。全部で27柱です。これはどの種族でも同様です」

 だからあんな所に石像が並んでいたのか。逆にあれが転職神殿の目印みたいなものか。

「最後に一つ。最高神プリストンについて知っている事があれば教えてくれ」

「最高神についてですか? 神、特に最高神に関する情報はいろんなところで封鎖されていてよくわからないのです。今は祀られる存在ではないとしか」

 オレイルも最高神は今は祀られていないと言っている。そこらへんの情報をやはり洗うべきか。

 情報が封鎖されているというのが良くわからないが、一歩前進だ。

 もっと知りたいことはあるが、そろそろ切り上げて町へ出よう。

 ギルドに顔を出したり、武具防具を新調するのも必要だ。


 パーティーメンバーを引き連れて町を歩く。

 城下町は広い。歩いても一日じゃ回り切れそうもないな。

 色鮮やかな果物を所狭しと並べる店やケバブっぽい肉料理を売る露店。肉の焼ける匂いにお腹が減る。

「あれってなんだかたこ焼きっぽいね」

 鶫の声に俺が指さされた方を見ると、屋台ではなんともいえない風情がある鉄板と黄金色の物体を鋭い針状の棒でひっくり返す店主。

 確かに鉄板の上に広がるあの形状はたこ焼きに見えなくもない。タコは入っているんだろうか。

 さっと俺の横を陣取った鶫が物欲しそうにこっちを見上げた。

 上目遣いで見ないでほしい。

 つまりあれか。おねだりか。

「そうだな。たこ焼きっぽい」

「たこ焼きかぁ。美味しそうだね」

 横に並んだ会話に悠香も混じる。やはりたこ焼きが気になるのかもしれない。日本人のソウルフードの一つだもんな。

 ここは男の度量の見せどころだ。

「……わかった。買えばいいんだろ、買えば」

「そう? 悪いねぇ」

 全然悪そうに思っていない悠香が早速たこ焼きを注文する。

 こっちの世界では当然ながらプラスチック容器が普及しているわけがない。

 二つの球を串に刺して売るスタイルのようだ。あれで零れ落ちたりしないのか。不思議だ。

 店主は悠香に注文されて気を良くしたのか、歌を熱唱しながらたこ焼きを次々にひっくり返していく。

 この店主、ノリノリである。

 最後はシャウトして7本の串を渡してきた。露店の周囲からはまばらに拍手が鳴った。

「ふぅ……。7プライムになりやす」

 早速食べてみる。熱い。中はトロトロ、外はカリっと仕上がっている。

 しかし。

 しかし、惜しいかな。この世界にはタコを入れるという風習がなかったのである!

 ソースっぽい調味料はあるようなので、おしい。実におしい。

「タコの入っていない、たこ焼き。ねぇ」

 口をもぐもぐさせながら悠香が美味しそうに、しかし複雑そうな表情で批評した。

「まあタコが入っていないのは残念だけど、これはこういうものだとして食べれば美味しいよ」

 鶫がフォローする。

「詐欺よ、詐欺。……まあ別にたこ焼き屋って看板だしてないから、これでいいのかな?」

「アツッ! アツッ! ハフハフ」

 おかわりまで食っているのはシェマだ。ロリっ子の癖に意外と健啖である。


 たこ焼きもどきを堪能した後、武器屋にやってきた。といっても武器屋も数が多い。

 そのうち、あんまり繁盛していなさそうな店に入ってみた。

「ご主人さま、こっちの店で良かったのでしょうか……」

 リリアが不安そうにこっちを見る。言うな。だって人が居る所ってなんか嫌じゃないか。

 こういうところに掘り出し物があるって物語では良くあるパターンなのだ。

 まあ実際は店主の対応が悪いとかいろいろな悪条件があるから流行っていないのだろうが。

「聞こえているぞ」

 奥からぬっと人相の悪いオヤジが姿を現した。

 魔物かと思って剣に手を掛けたのは内緒だ。

「冷やかしならよそ行ってくれ」

 そういってオヤジは椅子に腰掛けた。

 店内を見回すとあまりいい装備品を扱っているとは思えない粗雑な陳列だった。

 無造作に転がっている剣を見ると気持ちが沈んでいく。

 ここは駄目な店だ。

 出よう。

 そう決心して出口の方に向かって歩み出そうとした。

 と、袖が引っ張られたので振り返った。ラフラだ。

「おいご主人様。あれが欲しい」

 そう言ってラフラの指さした方を振り向くと、ぶっちぎりで禍々しさを醸し出す諸刃の剣が店の隅っこに置かれている。

 正直こんなものを欲しがる気がしれないのだが、一応検査してみよう。

 

 地獄の剣、グレンディール

 攻撃力1 知力-100 意志-100 

 スキル:霊体吸収 霊体攻撃 呪い:狂乱


 やべえよ。

 どうしちゃったのラフラ。

 いくらなんでも攻撃力1で呪いのおまけまである剣が欲しいとはどういうことだ。

 説明を求める俺の視線に気付いたのかラフラがうっとりとした表情で剣を見つめていた。

「あれはグレンディールだ。そうだな? 店主」

 武器屋のオヤジはガリガリ頭を掻き毟るとその通りだ、と頷いた。

「なかなか見る目があるじゃねーか。別名殺戮の剣。こいつで斬られた奴は魂まで乗っ取られるっていう話だ」

「やはり本物か! 店主、これをくれ!」

 バン、とカウンターを両手で叩いたラフラが興奮した様子であの剣を見ている。

「いや、誰も使えないからいいけどよ。こいつは……おっかねえぞ」

 店主が静かにラフラの目を見つめた。

「お前さん魔族か。魔族ならあるいはこのじゃじゃ馬を使いこなせるか?」

 俺を置いてきぼりにしないでくれ。

「二人で納得したように会話していないで説明してくれ。パーティーに危険が及ぶようだと買わないからな」

「その剣はな、喰うんだ。斬った相手の魂を。最後には自分の魂まで」

 オヤジの説明を不気味に思いつつもラフラの熱意に負けて買ってしまった。

 厄介払いだから1プライムでいい、というのはオヤジの弁だ。

「攻撃力1の剣をどうやって使うっていうんだ?」

 ラフラは腰に差したグレンディールを抜き放つとピュッと剣を振った。

「不死殺しの剣。霊を斬れば斬るほど攻撃力が増すのがこの剣の特徴だ。理論上無限に強くなる。しかし当然デメリットもある」

 オヤジが答える。

「知力と意志が両方100を下回っていると装備すら出来ない。心が乗っ取られて味方を斬る事もあるって話だ」

 危険すぎるだろ。

「他にもある、この剣で殺されたものは復活することが出来ない」

 ラフラは剣先を俺に向けた。心臓が早鐘を打つ。これはやばい。絶対に斬られたくない。と心が警鐘を鳴らす。

「そう。この剣だったらご主人様を殺す事だって出来る」

 ラフラの目に微かな狂気を感じて俺は不覚にもビビってしまった。

「ま、そんな事はしてもメリットがないからしないがな」

 メリットがあったらするのか。買わなきゃ良かったかな。呪いの部分はこっそり分離しておこう。背中からバッサリと切られかねない。


 それから大神殿に行ってシェマを大司祭に戻す。シェリアの首飾りを買うのも忘れない。

 ラフラが欲しがっていたものだからな。ラフラだけ特別扱いというわけにもいかないので、全員分買った。

 シェリアの首飾りは一つ500プライム。装備していると虫が寄ってこないらしい。スキルの名前は虫よけ。そのままだ。

 まあこれで蚊や蛭をシャットアウト出来るなら安いと言えるだろう。

 大神殿でうろうろしていたら兵士が必死な形相で駆け寄り、告げた。

「勇者殿! ああ良かった! 急いで城にお戻りください!」

 旧大聖堂の結界が何者かに壊されました、と。

 防具屋と冒険者ギルドを後回しにして、俺達は旧大聖堂に向かうことになった。

 

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