5話 休日デート
土曜日。
俺――キラ山は、昼過ぎまで寝ていた。
昨日の残業の疲れが残っていたらしい。
スマホを見る。
通知が一件。
白石さんからだった。
『昨日は傘ありがとうございました』
その下に、もう一通。
『今日、お休みですよね?』
「……?」
なんだろう。
少し迷ってから返信する。
『そうですけど』
すぐに既読がついた。
『よかった』
『もし暇だったら、映画とか行きません?』
「…………」
思考が止まった。
映画。
二人で。
休日に。
これは――
デートなのか?
いや、違う。
ただの映画だ。
仕事仲間と映画に行くことだってある。
でも、休日に。
二人で。
俺はスマホを握り直した。
『行きましょう』
送信。
既読。
『やった』
その3文字だけで、なぜか胸が跳ねた。
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午後三時。
映画館の前。
「キラ山さん!」
白石さんが手を振っていた。
俺は一瞬、誰かわからなかった。
いつもの仕事着じゃない。
薄い色のワンピースに、小さなバッグ。
髪も少しだけ雰囲気が違う。
「……」
「どうしました?」
「いや」
言葉が出てこない。
「今日、なんか……」
「なんか?」
「……可愛いですね」
「…………」
白石さんが固まった。
俺も固まった。
しまった。
口に出してしまった。
「すみません、変なこと言いました」
「……いえ」
白石さんは俯いたまま、
「ありがとうございます」
と小さく言った。
耳が赤い。
そして俺を見る。
「キラ山さんも……」
「はい?」
「今日、かっこいいですよ」
「…………」
今度は俺が固まった。
「じゃ、行きましょう」
「……はい」
お互いに少し赤くなったまま、映画館に入った。
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「面白かったですね」
「ですね」
「最後、泣きそうになりました」
「白石さん、泣いてましたよね」
「見てたんですか?」
「少し」
「……恥ずかしい」
白石さんが頬を膨らませる。
「じゃあ、キラ山さんは泣かなかったんですか?」
「泣いてません」
「嘘」
「本当です」
「じゃあ目、赤いのは?」
「……映画館が乾燥してたんです」
「ふふ」
笑われた。
映画館を出る。
夕方になっていた。
「このあと、どうします?」
「帰ります?」
「……」
白石さんが少し黙る。
「もう少し、一緒にいたいです」
「え?」
「……あ」
自分で言ったことに気づいたらしい。
「いや、その……せっかく休みですし」
「……俺も」
「え?」
「もう少し一緒にいたいです」
白石さんが俺を見る。
少しだけ目を細めて笑った。
「じゃあ、行きましょう」
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近くの公園を歩く。
休日の夕方。
人も少ない。
「キラ山さん」
「はい?」
「今日、楽しいです」
「俺もです」
「……なんか不思議ですね」
「何が?」
「最初に会ったときは、こんなふうになるなんて思ってませんでした」
「俺もですよ」
「だって……」
白石さんが笑う。
「最初は私のこと、絶対変な女だと思ったでしょう?」
「…………」
「図星?」
「まあ……」
「ひどい」
「でも」
「はい?」
「今は、そんなに思ってないです」
「……本当?」
「本当です」
白石さんは嬉しそうに笑った。
そのとき。
風が吹いた。
白石さんの髪が顔にかかる。
「あ」
俺は反射的に手を伸ばした。
髪をそっと耳にかける。
「……」
「……」
近い。
思っていたより、ずっと近い。
白石さんの目が俺を見る。
俺も見つめ返す。
数秒。
どちらも動かなかった。
「……キラ山さん」
「はい」
「顔、近いです」
「……すみません」
手を引こうとした。
その瞬間。
白石さんが俺の袖をつまんだ。
「……」
「白石さん?」
「……もう少し」
「え?」
「もう少しだけ、このままでいいです」
心臓が跳ねた。
俺は動けなくなった。
白石さんは俯いている。
耳が真っ赤だった。
「……変ですか?」
「いや」
俺は笑った。
「全然」
夕日が二人を照らしていた。
しばらく、そのまま歩いた。
帰り道。
駅に着く。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
「……楽しかったです」
「俺も」
改札の前。
白石さんが少しだけ寂しそうな顔をした。
「じゃあ、また月曜日ですね」
「はい」
「……」
「……」
なぜか二人とも帰ろうとしない。
「白石さん?」
「はい?」
「帰らないんですか?」
「……帰りたくないなって」
「……」
白石さんが慌てて手を振る。
「いや! 変な意味じゃなくて!」
「わかってます」
「本当ですか?」
「本当です」
俺は笑った。
「じゃあ、また会いましょう」
「……はい」
白石さんも笑う。
そして改札を通っていった。
数歩進んだところで、振り返る。
「キラ山さん!」
「はい?」
「次は……」
少し恥ずかしそうに。
「映画じゃなくても、会いたいです」
「……もちろん」
彼女は満足そうに笑って、今度こそ去っていった。
俺はしばらく、その場から動けなかった。
そして気づく。
俺はもう、白石さんと会う理由を探している。
たぶん――
好きになり始めている。




