1 白夜①
「死ね」
悪意も憎悪もない声と、何も映していないような瞳のまま、彼はそう言った。
『またね』が、いつも最期の言葉だった。
もう何度繰り返したか分からない。
私たちは幾度も巡り会い、当然のように惹かれ合う。
彼のことは誰よりも私が分かっていると思っていた。
だけど。
こんな感情のない彼の声は知らない。
こんな無機質な彼の瞳は知らない。
そんな戸惑いに揺れる暇もなく、無表情の彼は私に仕込み刃を突き出す。
私はその腕を片手でいなし、ひらりと身を翻す。
着地したところで、今度は彼の踵から刃が飛び出す。
なんのためらいもなく、その足を、私の首元へ振り上げた。
その足も腕で払い、私は後方に駆け上がり、そのまま民家の屋根をつたって、その場をあとにした。
この世の彼は、何度も私を殺しにやってくる。
首元の、彼の瞳と同じサファイアを強く握りしめた。これはずっと前からの私の癖だ。
不安なことがあると、遠い過去にもらったこの石を握る。
これまでは、それで安心できたのにーー。
***
五〇メートル先から感じる視線が彼のものだということには気付いていた。
何度生まれ変わっても愛し合っていたはずの彼は、この世では、何度出会っても私を殺しにやってくる。
五十メートル先の彼の視線が強くなった。集中を研ぎ澄ませば、遠くの視線の強弱くらい分かる。
彼の視線が強くなったと思ったと同時に、一寸先に殺気を感じ、首を傾け、頸動脈の一撃をかわす。
同時に、私の頸動脈を貫く予定であった矢を、人差し指と中指で捕らえる。
その矢の鏃に鼻を近づける。
間違いなく毒矢だ。
それはその場に捨て、身を隠すようにその場をあとにした。
なぜ彼は私を殺そうとするのか。それだけが分からない。
初めての生からずっと。
約束の日の約束の場所。
今世も彼は来てくれた。
嬉しくて彼の胸に飛び込もうとして地面を蹴ろうとしたところで、胸に仕込み刃をつきつけられそうになったのを躱した。
「なんで……?」
眉一つ動かさずに、腕を振り上げる彼の凍った瞳を見て、逃げるように帰った。
十歳の時だった。
彼は私を忘れてしまったのか。
そう考えもしたけど、そうであれば、約束の日に約束の場所に来ることが、できるはずもなかった。




