外伝:【天を衝く刃】――帝都陥落の陽動
大翔たちが地下牢へと潜入したその時、帝国宮殿の正面、玉座の間へと続く「昇竜の回廊」には、一人の男が静かに佇んでいた。
「……ほう。魔力を持たぬ身で、ここまで辿り着いたか。孤高の剣客、誠十郎よ」
回廊の奥から現れたのは、帝国軍大将軍にして世界に十人しかいないSランク冒険者、『剛嵐の大英雄』。レベル72。その背には、岩塊をも一撃で粉砕する超重量の魔剣『轟嵐』が担がれていた。
「……。皇帝の首に用はない。……。俺が斬りたいのは、貴様のような『理』の外に立つ強者だけだ」
誠十郎は腰を落とし、愛刀の柄に手をかけた。幾千の死線を共にした一振りの日本刀。
(ドォォォォォン!!)
ヴァルカンが魔剣を一閃させる。
それは剣技ではない。純粋な質量と魔力による、空間そのものの「粉砕」だった。
「――っ、ふん……!」
誠十郎は『縮地』でその一撃を回避する。だが、遅れてやってきた衝撃波が誠十郎の身体を激しく打ち据え、壁へと叩きつける。レベル72の暴力は、かすっただけで骨を軋ませるほどに重い。
「どうした。避け続けては勝てんぞ?」
ヴァルカンの追撃。魔剣が唸りを上げ、猛烈な旋風と共に誠十郎を襲う。
誠十郎は一歩も引かず、刀を抜き放った。
(キィィィィィィィン!!)
火花が散る。
最初の一撃、誠十郎の腕は痺れ、膝がわずかに折れた。
二撃目、ヴァルカンの力任せな横薙ぎに対し、誠十郎は刀を「点」で合わせ、その衝撃を背後の床へと逃がす。
三撃目、四撃目。回廊の柱が次々と粉砕される中、二人の刃は幾度となく激突し、火花が夜の闇を照らした。
「……。まだだ。まだ、理が見えぬ」
誠十郎の瞳が、次第に澄み渡っていく。
死闘の中、彼はヴァルカンの放つ「力の奔流」の中に、わずかな淀みを見出し始めていた。レベルの差という絶望的な壁。だが、誠十郎はその壁を「技」というノミで削り取っていく。
「貴様……なぜ倒れぬ! なぜ、私の剣を『合わせる』ことができる!」
ヴァルカンの焦りが、剣筋をわずかに荒くする。
誠十郎はそれを見逃さなかった。五撃目、魔剣の腹を刀の鞘で弾き、その重心をわずかに逸らす。
「……。力に頼れば、芯が曇る。……。貴様の剣は、あまりに重すぎた」
十数回、数十回と切り結ぶうちに、誠十郎の動きは洗練を極め、ヴァルカンの速度を追い越し始めた。もはや衝撃波すら誠十郎に触れることはできない。
「――参る」
誠十郎の姿が「無」となった。
ヴァルカンが最大の魔力を込めた突きを放ったその刹那。
誠十郎は魔剣の切っ先を紙一重でかわし、その懐へと滑り込んだ。
(シュパァァァァンッ!!)
一筋の銀光。
誠十郎の放った一撃は、ヴァルカンの黄金の胸当てを、そして背後の巨大な石柱までもを一文字に断ち切った。
「……馬鹿な……。魔力も持たぬ……Lv 35の男が……」
ヴァルカンが膝をつく。命は奪わなかった。だが、帝国最強の誇りは、完全に打ち砕かれた。
【その頃、地下牢では】
誠十郎が帝国最強の戦力であるヴァルカンを玉座の間で釘付けにし、全近衛兵の意識を回廊へと集中させた。
その凄まじい「気」の激突を最大の陽動として、大翔たちは誰に邪魔されることもなく、本物の聖女エリザベスを救出。
混乱に乗じて、帝都の闇へと姿を消すことに成功していた。
【リザルト:誠十郎、神域の剣聖へ】
■ 誠十郎:Lv 35 → 38
* 力:S → S+(大英雄の膂力に対抗し、自身の筋力を極限まで研磨)
* 器用さ:S+ → SS(ついにSSランク。物理と魔力の境界を斬り分ける、神域の精密さを習得)
* 体力:A+ → S(Sランクの猛攻を受け流し続け、肉体強度が向上)
* 素早さ:S → S+(縮地を超えた、因果すら置き去りにする歩法へ)
* 備考: レベル72を「技」で制圧。もはや彼を測る物差しは、この世界には存在しない。
誠十郎は、荒い息を整えながら刀を鞘に納めた。
回廊の窓から外を見れば、一帯の追っ手が自分に向かって集結してくるのが見える。
「……。大翔、今のうちに往け。……。これだけの騒ぎだ、後で団子一箱では済まさんぞ」
誠十郎は、自嘲気味に微笑むと、追っ手たちが踏み込む直前、夜風となってその場から姿を消した。
(続く)
面白いと思ったら、下の☆で評価していただけると励みになります




