【ⅩⅢ】
「……なんじゃ。この惨状は」
学生たちの避難、崩壊した学園内の修復を行っていたせいで来るのが遅れた学園長マーレェンは目を丸める。
正直、今にも尻餅を着いて「ひぃえ~?」なんて情けない悲鳴を上げそうである。
まさに国同士の戦争の跡地。
武器が地面に無数に突き刺さっている。
しかもそれらすべてが聖剣以上の性能を持っていた。
(こんな光景を見てしまっては聖剣がただの棒切れに思えてくる。あんな棒切れで魔王を倒した勇者ってほんとすごかったんだなぁ)
かつての仲間を思い出しながら現実逃避に走る。
もちろん聖剣は棒切れなどではなく〝正しき心の持ち主だけが装備することが出来、性能を引き出せれば敵はいない世界最強の剣〟だ、──だった。
上位互換がこんなに大量生産されるまでは。
犯人は間違いなく〝彼〟だ。
綺麗な青い目をした黒髪の少年。
風龍寮のローブをはためかす。
他の生徒はボロボロだったり、倒れている。
間違いなく彼だ。
第三王子アルバート。
「おお、マーレェン。ちょうどいい所に来てくれた。この武器を全て安全なところに移動しておいてくれ。俺は今、魔力切れだ」
「──……魔力切れ? 第三王子ともあろう方が」
アルバートの魔力量は桁が違う。
ドラゴネス王国の全員を合わせても足りないほどに。
そんな彼の魔力量を消費させた原因とは……。
「それほどの脅威が学園内に現れたということじゃな。して、その相手は? 悪魔とは聞いておるんじゃが」
アルバートは少し固まる。
倒れている一生徒に視線をやって、熟考。
頭を数度かいて苦笑い。
「新生魔王とそれを討伐しに来た天使だな。大丈夫だ。両者なんとかした」
「ま、魔王に天使!?」
「ああ、魔王の方は取り逃がしたが無力化したから問題はないだろう。天使は……あれには生体反応はなかった。つまり殺害ではなく破壊だ。探偵としての誇りは守られた」
「……もうだめじゃ。老人には刺激が強すぎるぞ。深くは聞かないようにしよう」
マーレェンは視線を下ろす。
アルバートの腕に挟まれている布ぐるぐるのなにか。
形的に書物か石板だろう。
好奇心はある、ただ聞いても良いものか。
マーレェンの気持ちを察したのかアルバートは少しだけ布を外し見せる。
やはり本、青に近い黒色の。
「取るに足らない読み物だ」
「そうですかな? なんかすっごく禍々しいというか。それが世の中にあったら崩壊をもたらすような不気味さがあるのじゃが」
魔法使いとしての勘がこれは悪いものと言っている。
「そんなわけがないだろう。嘘っぱちばかりが書いてある娯楽書でしかない。もっとも、ユーモアがなさ過ぎて眠くなってくるがな。とりあえずこれは俺の書庫に保管する」
「あらやだ。アルバちゃんの物になっちゃうの私? きゃ。初夜は優しくしてね──ボディブローッ!?」
「ど、どうしたのじゃ。急に本を殴ったりして。……というよりその本から変な声が聞こえなかったか?」
「気のせいだ」
巻いていた布を強く結ぶアルバート。
やはり本から「んー! んー! ハジメテが緊縛だなんて……はしたない」なんて声が聞こえる。
しかし話をする魔法書なんて聞いたことがないし、あるわけもないから見なかった事にする。
「被害状況はどうだ? お前が出遅れるくらいだ。ケガは誰もなかったか」
「数名避難の波にのまれて傷を負ったが回復系魔法ですぐに治せる程度じゃ。ただ学園内の建物の被害は……見ての通り」
燃やされ灰になった自然。
無数の武器に荒らされた土地。
なにより、風龍寮の建物が崩壊寸前である。
【『問題は起こすな。特に風龍寮の塔を壊したらただじゃ済まない。僕の思い出を汚してくれるなよ?』】
「はは、どうやら兄には予知能力があるみたいだ」
「貴方様と言えど責任は取ってもらうぞ。寮の修復を命ず」
あきれ顔のマーレェンから作業着と大量のレンガを渡された。
塔を見上げいつも自信満々のアルバートの顔が徐々に青ざめていく。
ほんの一瞬、魔力があればと思ってしまった。
犯人:フレネラーペ・ミィ。
動機:世界から淫魔の存在を無くすため。
処分:魔力を無断に奪わないという条件でアルバートは彼女の行動を許した。学園に在籍を続ける為に風属性魔力を定期的にアルバートからもらっているとのこと。ベルカーラは一連の流れを知らずおっぱい魔王が彼女であることは知らない。
補足:悪魔召喚での魔力回復不可は当人のみのデメリットらしくアルバートの魔力量には支障はなかった。
黒幕:ミシャンドラ。
動機:自分を本に閉じ込めた世界への復讐。
処分:アルバートが異次元に作った専用書庫の一番奥の棚に置かれている。ミィがたまに遊びに来るらしい。
【第2章 ミシャンドラの魔本】完




