【Ⅻ】
魔力が浮く魔本ミシャンドラがスポットライト、または天啓を授かる光のように照らされる。
ブリキのおもちゃのような天使が杖を振り下ろした。
魔力が雷に変わって、ミシャンドラに迫る。
本であるから自力で逃げられるのかは疑問だがその場で攻撃魔法を受け止めようと静止している。
【魔本ミシャンドラ。罪状:世界秩序の崩壊。罪人の行動・言動により世界が不安定になる恐れがあり、また所有している知識量は危険であり有害だと判断する。よって存在抹消が妥当である。──焼却した後、世界から魔本ミシャンドラが存在した痕跡をすべて消去】
「ああ、オレみたいな奴は誰も憶えてない方が世界の為さ」
雷が──。
「召喚魔法!序列22の悪魔〝イポス〟!!」
ミシャンドラの前に現れた悪魔が身代わりになって燃える。
振り返れば噛みしめたのか唇から血を流しているミィ。
逃走したい気持ちを押し殺し戻って来ていた。
「……親友。なんでさ、『ここはオレに任せて先に行け展開』だろうに」
「友情は〝共有〟って言ってた」
「いや、違うだろ! 共有するのってのは楽しい事だけだ。辛い事は当の本人だけで良い。そいつに押し付けて見てないふりしてりゃあ良いんだ」
「初めての友達だから!」
「……え?」
「嘘っぽいし、うるさいし、うさんくさいし、なに言ってるか全然わかんないけど、魔力を奪わなくていい初めての友達だから。話してるとき自分が淫魔だって忘れさせてくれた」
肺活量が限界に達したのか深呼吸をする。
「さ、召喚魔法。序列12の悪魔〝シトリー〟! 序列27の悪魔〝ロノウェ〟!」
召喚された悪魔は天使へと向かって突進していく。
しかしほんのひと振り、蝋燭の火が消えるが如く倒されてしまう。
ミィの顔に絶望が見えたが、召喚を止めない。
次々に現れる悪魔たち。
それこそ残りの68体、強化魔法も乗せて。
魔力は確実に減っていき淫魔状態から普段の彼女へと戻っていく。
とうとう魔力はそこを尽き、【ソロモンの指輪】と名付けられたアイテムから力が失われた。
もう機能しないだろう。
「にげろ! フレネラーペ・ミィ。勝てる相手じゃない。負けイベなんだよ」
ミシャンドラが感情的に怒鳴ってもミィはその場から動かない。
というよりも動けない。
魔力枯渇により立ったままの気絶。
そのせいで天使の標的がミシャンドラから一時的に自分に映ったことにも気が付けない。
「や、やめろ。標的はオレだろ? 世界からのはじかれ者。存在しないはずの個体。消すならオレだろ、おい。親友は関係ないだろ。オレなんかの言葉を鵜呑みにしちゃうだけの可哀想な娘なんだ。見逃してくれよ」
天使は杖を──……。
ブリキのおもちゃのようななにかが地面に落ちた。
それは天使の腕。
天使もなにが起きているのか理解できず停止する。
「なにが負けイベだ。ここに〝最強の魔法使い〟がいることを忘れてくれるなよ」
「……アルバちゃん」
ミシャンドラは困惑する。
何故アルバートがドヤ顔で立っているのか。
普段の彼ならば当然のことなのだけれど、現在魔力はもう空であるはずだ。
3分の1は淫魔の催淫魔法により吸い上げられ、残りはベルカーラの装備作成に全て使ってしまっている。
魔力が回復するとしても数日先のことだろう。
「この状況は探偵の俺ですら理解は出来ん。だからファンタジーはお手上げ過ぎて好かない。だがなぽっと現れて事件を解決し、事態を収拾するのはこんなブリキの固まりではなく探偵の仕事だ」
「でもアルバちゃんに魔力はもう」
「バカを言うな。つい最近まで魔法オタクだった俺だぞ。ベルカーラの装備作成が初めてだとでも思うのか。──さあ、『俺が考えた最強の武器』のお披露目会と行こうじゃないか」
アルバートの頭上から無数の杖と剣と槍と弓。
それぞれに魔法的効果が付与されており、武器の雨が天使を襲う。
「この戦法はまさに最強無敵。そこにシビれる!あこがれるゥ!」
【アルバート・メティシア・ドラゴネス! 女神様に愛されし異端児よ!!】
「この異世界の最大ミステリーはそれだ。魔法が存在する世界で探偵を転生させた。随分と性格がねじ曲がっているのだろうな。いずれ居場所を突きとめて一発殴ってやるから覚悟しろ」
天使は消滅する。
跡形もなく。
異次元の裂け目もそれと同時に塞がった。
だというのに不貞腐れ顔をするアルバート。
探偵として事件を終わらせられなかったことがよっぽど腑に落ちないのだろう。
「──なるほど。機械仕掛けの神はアルバちゃんだったか」
ミシャンドラは呆れたように呟いた。




