83 歩み
変な時間になりましたが、どうにかできたので投稿します。
テーブルマウンテンの形はいびつな楕円だ。
直径はおおむね12キロにもおよぶ。
もともとは、岩の間を大小の川が流れる森林だった。
その面影はどこにも見当たらない。
シタデル交易基地として、機能的に変貌させたからなっ!
テーブルマウンテンは東西南北で機能が異なる。
港湾商工業は東側だ。俺たちが上陸した方角もそちらだ。
多くのシタデルの航路となっているらしい。
南北にある森は貴重な水源地。開発する予定はない。
西側はどこまでも広がる緩やかな丘陵地。こっちは思い切り開発してやった。
いまの住民の10倍は養えるくらいの農地と、あり余るくらいの宅地用更地。
あり余りすぎた土地を埋める意味で、シタデルからの移民はどしどし受け入れる。
はじめ、俺たちが原始の森に築いたのは、牧歌的な農村だった。
たったの100人だ。暮らしていくにはじゅうぶんな規模だ。
そしてその通りに、しばらくは静かに、楽しく過ごしていた。
だが。
どこから聞きつけたのか、ある時から、シタデルがわんさか押し寄せてくるようになってしまった。その数合わせて41。
シタデルは20くらいしか残ってないと言ったヤツ、出てこい。
現役時代の稲葉選手の背番号かよって、ひそかにツッコんだ。
やってくる目的が交易ならばもちろんウェルカム。
ウィンウィンだからお互い利益がある。
しかし。勘違い野郎はどこにでもおられるらしい。
「今日ここはからうち領地だ、貴様らは出ていけ」 という、身勝手人間。
「動かない街など目ざわりだ!」 という、破壊神。
経験は発明の母なり、だ。
敵方は、いずれも言うほど強くはなかった。
対して、こっちはスキル持ちが大勢。瞬殺だった。
撃退事体はカンタンだったのだが、攻撃パターンはバラエティーに富んでいた。
さまざまな敵に対するノウハウが蓄積され、より効率的な戦法が編みだされる。
片っ端からテーブルマウンテンに構築していった。
そうしているうち、いつの間にか、攻防に秀でた要塞ができあがってしまった。
シタデルそのものは俺の想像を越える技術で作られている。
リーダーらは、倒すか迎合するかという、殺伐した思想に凝り固まってる。
勝者は敗者を見くびってるから、負けたヤツから学ぶぼうと考えない。
そこに優れた技術があったとしても、埋もれてしまうのだ。
シタデルは、都市の名を冠した進歩なき集落といえる。
そんな中に俺たちの村が現れた。
戦闘力が格段に上だと知れわたりに連れ、戦略を交易と同盟に切り替えてきた。
テーブルマウンテンを中継にした、間接的なグローバル貿易が成り立った。
定期的な交易が始まった。
戦の毎日から貿易を扱う日々。
牧歌的な生活はどこかへ消えてしまった。
41が35と、数は減らしたが、交易は拡大、加速してりった。
日々変化していくビジネスに合わせ、テーブルマウンテンも変えざるを得なくなる。
活躍したのが【土建設計】。
倉庫、工場、繁華街、銀行。
今の、港湾に商工業をくっつけたような、3階建て主体の近代的な街になったのだ。
テーブルマウンテンにも繁華街はある。酔っ払いもいれば、ケンカもおこる。
ヒドイ悪さを働く連中がいた場合は、シタデル単位でペナルティを与える。
最長1年の出禁だ。
イゾーを長とする警備班は常に忙しいが、最近では事情が変わってきたという。
外からやってくる人たちのほうが礼儀正しく、
捕まえるのはもっぱら、こちらの住人だけ。
なによりである、のか?
戦いを仕掛けてきたシタデルは、容赦なく叩き潰した。
普通はほどほどに撤退するか白旗をあげるので、さほどに被害はない。
稀に徹底抗戦する指導者がいる。仕方ないからボコボコに潰す。
指導者が諦めるか殺すまで、非情に徹して潰す。
シタデルをぶっ壊したこともある。
敗残の兵は危険な地上を四散し、残されるのは哀れな住人。
住処を失くした住人は哀れだ。
こっちも鬼じゃないので、救いの手を差し伸べる。
希望者には住居と農地を分け与えてやる。すこし高めの課税つきで。
そんなこんなで人口は膨れ上がった。
いまや約3万人を越える勢いだ。
ここはテーブルマウンテンで最も高い建物。
街の全部が見渡せる。一番高いからな。といっても5階建てだけど。
俺がいるのは、すべての行政を最終決定する集権執務室の席。
どういうわけか、ここのリーダーに着けられている。とても居心地が悪い。
クラスの嫌いなヤツに、どうでもいい委員を押し付けるいアレだと思ってる。
理由をつけて役を降りようと画策してるんだが、うまくいかない。
人生の理不尽さ。身をもって知ったこの頃だ。
とはいえ。
高所恐怖症から解放されたおかげで、こんな5階にも普通にいられるようになった。
その点だけは感無量だなっ。
さて、集権執務室はテーブルマウンテンの将来を決め、戦略を練る場所だ。
農業、林業、商業、調停、犯罪対策、軍事、なにより重要シタデルとの交易と交渉。
あらゆることがこの部屋で決められる。行政機関ということだ。
中心となってるのは、初めて降り立ったときメンバー。
というと小難しく思えるがそうでもない。
頭を絞って取りくんでるみんなには、申し訳ないが。
ノリは、戦略シミュレーションゲーム・都市開発ゲームだな。
へへへっ
……はぁ。とっとと下りて自由になりたい。
本日のトップ議題は、ほかでもない。
「レブンが、キターーー!!」
未確認シタデル発見の報告があったのは、数日前。
それがレブンだと判明したのは2時間前だ。
オガサワラも行動を共にしていると、レリアとフレッドから。
そのほかに4基、シタデルを従えているという。
スゲーもんだと、出身の者が浮き足だつ。
俺も、わっくわくだ。
歓迎の花火が上がったのはついさっき。
緊急放送を流したから、欠席メンバーもやってくるはずだ。
「いよいよか。年甲斐もなくドキドキが止まらないぜ」
「年甲斐もって、テルアキ。キミまだ15歳じゃないのよ」
ツッコんできたのは、ブランチェス=グルーム。
家に押しかけて、妻の座をもぎとった女だ。
この世界の成人は15歳。この10年の間、こいつは家族を凋落し、仲間――年ごろの女性――をけん制していって、足場を固めていった。
裏で着々準備し、俺が15歳になったその日、結婚式を強行したのだ。
年上上等!
30歳からでも遅くない!
なんて考えの持ち主は俺くらいなもの。
結婚は、20歳までってのが常識だ。
7つも上の姉さん女房は、前例がないという。
世間の冷たい視線にされされたブランの心情はいかなるものだったか。
負けることなく22歳まで待った一途さ。応えない男は男じゃない!
……なんてな。
いや、もちろん好きだから一緒になったわけで。
テーブルマウンテンに来てからも会わなかった日はない。
飽きることなく、新鮮なままでいられる。相手として彼女以外に考えられない。
俺の実年齢は28。22歳のブランなら、むしろ幼な妻なのだ。はっはっは。
最低限のメイクしかしていないのに、初めてであったころと変わらない少女顔。
背もそれほど伸びなくて、俺のほうが年上に見える。
結婚式で流した彼女の涙は、生涯、忘れることはないだろう。
妙ちくりんな夫婦ができあがったもんだ。そうギーネが笑った。
ほっとけ。
「精神的に老けてしまったんだ。苦労の連続だったからね」
「苦労? いったいいつ? どこで?」
ブランが、はあ、と、わざとらしいため息をついた。
「えーと。農村開拓とか? 町の整地とか、波止場整備とか、それにマンハッタンも」
席を立ち、俺の背後にまわってきた。
リクライニングにもたれた頭を、やさしくぎゅうっとしてくる……
「痛てててっ。やめ……ッ!」
拳でグリグリ、だったっ!
「どれもこれもスキルで、ちょこっとカタを付けただけでしょうが!! 農村は【土】と【植物】、街も波止場整備は【土】と【土建設計】。あのスキルは反則だわよ。ここにきてたった7日よ。住む場所と家と農地ができあがったのは。農民長のアラモスさんなんか涙目になっていたわよ。少しは苦労を分かち遭わせなさい!」
「ま、巨大マンハッタンが攻めてきたときは……」
テーブルマウンテンを襲った最大の窮地を挙げた。渡橋で繋いで荷下ろしをしようとしてる100階層の巨大シタデルだ。いまでこそ身内のようなものだが、こいつは領土を奪いにきたのだ。
「コロボックルの”腕”で仕留めたわよね? ロケットパンチ? まさかテーブルマウンテンにまで仕込んでいたなんてあきれたわ。それに、大統領だったライアンさんが降伏したとき、お顔を地面に押し付けたのは誰だった? 彼が大統領を辞任したのは、あれがトラウマになったからだわ」
戦に負けた国の長が責任をとるのは常識。
ちょっとだけやり過ぎたかも。
「り、領土を拡張したときの苦労……」
「それも【土魔法】【物体移動】のオーブをみんなに与えて、放射状に並ばせ、一直線に進ませただけだったわよね。1日で東側が半径100キロも整地拡張したのはいいけど。その分森が消えたわ」
たしかに、あれはヤバかった。強引に【水魔法】でジャバジャバ流して川にして、どうにか耕作地で作物が作れるようになったんだ。せっかくできた領地が、砂漠化してしまうんじゃないかって、ひやひやものだった。
「覚えてるかしら。【植物魔法】って森作りとりかかったのはよかったけれど、促成できるのは5種類しかなくて、蒸発を抑える下地がなくてたいへんだったじゃない。あとは……」
指を立て、俺の不手際を数えていく、嫁ブランチェス。
覚えてないけど、やらかしたかもしれない。
「わかったわかったって。みんな! 笑ってないで、ブランを停めろ」
5階のほとんどを占めてる集権執務室。
その大きな部屋の真ん中に、どんと置かれた大きなテーブル。
総員は12人。いま席についてるのは8名。
いないヤツは、用事があるとかで欠席してる。
たとえばサンガリは農業の手伝い、イゾーは境界見回りを指揮。
未確認シタデルへの対策で招集したってのに集まりが悪い。
見慣れないシタデルが近づいた程度じゃ国難と見なされなくなってる。
「仲の宜しいこったな! 大将! けへへ」
調子のいいオッサンが、元気よくからかってきた。
ねじり鉢巻とちょび髭。上下真っ白のラフな薄衣。でもって軽薄。
親父の蔵書にあった、昭和にヒットしたマンガの主人公にとてもよく似ている。
これで最大級シタデルの大統領というのだから、世も末である。
ニセ者という噂もある。できればそっちを信じたい。
ブランの魔の手をどうにかほどくと、
本物にしては威厳が足りなすぎる大統領へと向き合った。
「大統領。提案というか、お願いしたいことがあります」
「んぁ? なんだぃ大将?」
「いますぐあなたのシタデルをどかして、荷卸し場を空けてもらいます」
「マンハッタンをどかすぅ? なにいってんだ。もらいます《・・・・・》ってなんだよ。埠頭ので荷下ろしは始まったとこなんだぜ」
「中断です。揚力機械を切り離す指示をだしました」
「ぬぁ?」
「10分で離岸できます、よね? 笑ってる余裕があるんですから」
「が、がが……おめぇ。てめぇ故郷をつけるつもりだな」
「そのとーり!」
俺はニコリと笑う。
「もちろん、きちんと見返りは差し上げます」
「見返りか……ならしゃーねーか」
「ありがとうございます」
俺は【音響魔法】で、荷卸し場担当に指示をだす。
『マンハッタンから揚力機械を切り離せ』
すぐさま『了解』と返信。
「それじゃあ、レブン代表者の顔ぶれを拝みにいくとしますか」
「てめ……」
マンハッタンが高層ビル群さながらの巨大を軋ませて、雄大に離岸していく。
渡橋と揚力機械が定位置まで戻る。
その側で数人の作業員が話し込んでいるのは、レブンを受け入れるための打ち合わせだ。
「わわわ。こ、こ、ここって……」
レリアの準備した簡易転移陣に乗って。使者がやってきた。
”あまりのことに開いた口がふさがらない”
中央公園に現れたアディラの口がそれだった。
レブン・オガサワラから派遣されてきたのは15人。
あそこにいた期間は短かったからな。知らない顔のほうが多い。
アディラ=ビェズル、リーデンタット=スプラード、ネイサン=バサネス。
すぐわかったのはこの3人。10年だ。みんな大人になっていた。
「ようこそテーブルマウンテンへ。久しぶりですね、アディラさん」
俺は握手を求めた。
アディラはその手を握ろうともせず、何事かを言おうとしてる。
「き、き、キミは……」
「俺……いや私? お忘れですか。ルミナスですよ」
「わかってる! そうじゃない!!」
「は? なにが言いたいんです? すごいもんでしょ? 私たちが造った街は」
「すごい、スゴイのだが……おい。後ろで笑ってるブランチェス! こいつは自分の偉業を分かっていないぞ」
偉業?
俺は、名指しされたブランをふり返った。
「それがいいのよ。それがテルアキだから」
「はぁ……」
「さてはアディラさん、マンハッタンに驚いているんですね? あれだけの巨体。シタデルマニアには垂涎でしょう」
「誰がシタデルマニアだ!? 白装束の方! あなたは分かっているのか」
「わかってるぜぃ。けど大将にはなに言ってもムリムリ。だからいろんなヤツがここに集まってくんだな」
なんのことだ。
俺を飛び越えて、こいつらなんの話をしてる?
「あいかわらず、面白い坊主だ」
15人の奥からオッサンが、ずいと出てきた。
20代ばかりの代表者のなかでは、ひときわ年齢が高い。
どこで遭ったっけ?
「ガギロンだ。覚えてるだろう?」
「ッ! 15層の番人っ ここまで殺しにくるとはしつこい」
「誰が番人だ!?……それはもういい」
ガギロン=バーサダーも老けたな。
もともと年寄りだったが、いつ天国に招集されてもおかしくない高齢者だ。
こいつの場合、地獄だろうけど。
すすと、俺の眼前に迫った。眼光は鋭い。
殺気がひとつもないのは、枯れたせいではなさそうだ。
「お主の偉業はな。人類を破滅から救ったことだ」
破滅から救った……?
「そうだ。分かってなかったようだな。文献を掘り返して変わったことがある。シタデルは人類の未来と繋ぐ希望だった」
「それは知ってる。放浪するだけ街でも。増して戦う要塞じゃない。災害を回避して人々の暮らしを護るために造られた。いまさら」
「しかしだな。終わりのことまでは思いが及ばなかったのだ」
「終わり?」
何が終わるっていうんだ?
惑星か? 生命のことか?
生命ならばば、たとえ生物の99.9%が死滅しても、いつかは再生する。必ずだ。
バクテリアの破片があれば、そこから生物が誕生する。過去のあらゆる命を超えて。
それくらい生命というのは、したたかでしぶといのだ。
そこに、人類が含まれる保証はないけど。
惑星ってことなら、心配することすらおこがましい。
地上におこる千年や1万年の死滅再生劇なんぞ、50億年の星にしてみれば、アリが足をくじいた程度にも苦にしない。
「何も終わらないんじゃ?」
「思案もあまり深すぎると、目の前の大切なことを見落としてしまうぞ」
「どういうことだよ」
「造った者たちは後世の人間たちに人類を託しすぎたのだ。私たちはシタデルを住処とするあまり、ほかの選択肢を見逃していた。地上がこれほどまで回復しているにもかかわらず、誰一人として、降りようという考えに至らなかった」
そういうことか。
「わかったって顔になったわね。ふふ。テルアキのそんな表情。初めてみたわ」
俺はみんなを見渡した。
まだ、なんのことだ? な人もいるが、
ブランと同じに、ニタニタしてるヤツが半分以上。
「からかってたな」
「おうさっ。大将よぅ、いいもの見せてもらってたぜぇ」
「どういう意味だ? 私は事情についていけないのだが」
「リーデンタット兄さんには後で教えてあげるわ。街を案内しながらね」
出していた手を、アディラがやっと握った。
そして言った。
「キミの偉業に携わった私たちは歴史の証人者ってやつだ。名前が残るかもな」
結果的に俺がしたことは”国”になった。
足をつけて暮らせる、地の上にある国だ。
テーブルマウンテンは発端となっただけのこと。
やがて世界のどこでもあたりまえに、人が地上で暮らすようになるだろう。
地で生きることは幸せだ。
往く手を阻む外淵も、落ちる空中もない。
足のむくまま。どこまでも歩いていける。
引き換えに失ったものだって、あるにはある。
たとえば、天災から逃げるための足だ。
地震があっても揺れを吸収する脚部がない。
迫る嵐から遠ざかることもできない。
でもそれこそが地に生きる者の定め。
俺はそれでも満足だ。
困難があるなら、知恵を総動員して乗り越えていけばいい。
何物にも代えがたい、とてつもなく大きなものを得たのだから。
俺はただ地面に降りたかった。
それだけだった。
―――― おしまい
長い間おつきあいいただきまして、ありがとうございます。
作品のきっかけとなったのは妙な夢でした。
記憶を亡くして真っ暗な場所で裸で目をさます。
暗がりをたどっていくと、ダンジョンだとわかる。
俺はダレ? なんでここに?
マジで怖くなったところで目が覚めて、背中は汗でびっしょり。
何を考えて生きてるんでしょうかね?
ではまた、次の作品でお会いしましょう。




