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高い所が死ぬほど嫌いな俺が、空中ダンジョンの下級貴族の子に転生した話  作者: きたぼん


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74 高所恐怖症


やってるね。

ガンバってるね。



半ボケ頭な俺の前で繰り広げられるのは、

初老とアディラ5人+1の攻防。


攻防っていったが、”攻”は、はじめの数手で終了。

すぐに押されて守勢一辺倒。勝ち筋をみつけるどころか、

いいようにあしらわれてしまい、息、絶え絶えという状況だ。


ああ……そこの護衛、【回復】の使いどころ違う。

HPギリギリまでガマンしなきゃ、カウント浪費するだけだろうが。

あーああ。いわんこっちゃない。0/10って使い切ってしもたろが!


アディラぁー。敵は必ず背後に回ってくんだから、フェイント挟め!

カナリアゲゲリー。いいかげん鞭は、あきらめろ。なんのためのスキルだ!


お前らみんな、あとで正座な。

これはゲームじゃなく現実だ。

だけども近い要素があって、応用はいくらでも可能。


わかってるのは俺だけかよ。

ー早々に退場した分際で、偉そうなこと言えないけどなッ!


ぐぐぐぐ。加勢してぇ。

あの”年寄り子供”を倒してぇ。してぇんだが。

カラダが、いうこときいてくれない。


立て!

起きろ!


”意識”ってのは、前頭葉とか海馬だったっけかな。

よくわかんらんけど、大脳なのは間違いない。もっと勉強しとけべよかった。


カラダを起こそうと命令してるんだが、重くてだるくて、動けない。

感覚的には、鋼鉄筋肉を持ち上げてるみたいで、

思考経路的には、やる気が小脳に阻害されてる小脳に届いてないってところだ。


行動操作(オーバーライト)】。

”1”とか”2”とか言っていたよな。

右手掌を相手に向けて広げて、短いがスキル名と数字を言う。

リーデンタットによると、老人の動作を追わなければかからないようだ。


転移陣みたいな描きは必要としないが、1とか2とか、数字中に魔法陣を込めるのか。


俺は、3をやられて、見た目にやる気を失くしてる。”戦意喪失”かもな。

1は、リーデンタットやウィゲリーリ。

名前。それと直近の出来事を思い出せなくする。

2はなんだろう。


おそらくだが事前の設定は複雑。じゃなきゃ、100でも200でも設定してる。

やっかいすぎるスキルだ。

……ぜひとも欲しい。


ヘタな考え休むにニタリ。いや笑ってないけど。

アホなこと考えてる間に、戦いは決した。老人の圧倒的勝利だ。

リーデンタットとウィゲリーリが名前を取られ、アディラは戦意喪失。


男3人は、気絶させられていた。

いたるところと切り刻まれての、失血多量。

ヤバいな。死ぬぞ。


一思いに殺すつもりはなさそうだ。

あれば、とっくにやってる。

事実上、殺してるようなもんだが。





「もういいだろう。貴殿ら上級貴族は外に帰してやる。記憶を消してのうえでな。護衛らは風前の灯か。そのままダンジョンの肥やしとなり果てよ。……さてと」


よく分からないが、年寄りは俺のほうにやってきてるようだ。

何をするつもりか。楽しいことではなさそうですね。

なんて思っていたら、つま先で頭を小突かれた。


「聞こえているか小僧。ちまたで評判のお騒がせ子倅よ」


評判になっていたのか。

ブランが言いふらしたのか。

いや、ローランが濃厚か。


「グルームはバケモノを生み落としたという公伝だ。口減らしで知られる迷いの森から帰還。あまっさえ、再度乗り込んで、仲間たちとともども凱旋。そこのウィゲリーリの牢獄にも耐え。元気ハツラツ試練のダンジョンに投下されたと。尾ひれがつくにも限度があると、聞き流してたが。よもや生き抜いて15階に達するとは思いもやらなかったな」


おほめに預かってもなにもないぜよ。

頭、踏んでやがるし。


「たいそうなスキル持ちのようだな。こうして貶めてるいまですら、隠せぬ自信にみなぎっている」


よくお分かりで。

貴様を出し抜く方策を考え中だ!


「私にとってもまたとない被験者だ」


なんて言った?


「試験をおこなう。15階層の高い天井を余すところなく活用する。スキルとカウントを知るうえで、よりよきデータとなるだろう」


試験?

高い天井?


「【浮遊付与(フロートバッファ)】」


年寄りがスキルを発動する。対象はご本人か。

身体が床からわずかに離れるのを感じた。俺かよ!

それは困る。つかヤバい。

天井って、20メートルはありそうじゃねーか。

爺さん! それだけはカンベンしてくれ。


「ほーれっ!」


待て!待ってくれぇーーーー!

仰向けにのカラダが急上昇する。


どんなに叫ぼうとしても、逃げようとしても、

いまだにカラダは縛られたまま。いうことをきこうとしない。

思えば思うほど、力は抜け、強制的にリラックスさせられる。

スキルが使えれば【浮遊付与(フロートバッファ)】を相殺してやるんだが。


すごいスピードで天井が迫って……がっつん!!


石の天井にぶつかった。

俺じゃなかったら、ひしゃげてるところだ。

カラダはゆっくりと、回っていく。

下へ向かって、30度、60度、90度……

くるーーりと、回転させられる。


まさか、見たくない見せないで。下なんか見たくない。

心底からの叫び。声が出せない。


とうとう回転は180度に。下向きにされてしまった。

床がとんでもなく下方に遠い。目が回るどころの騒ぎじゃない。

距離が分からない。とにかく高い。遠い。

目を閉じたい。暗がりに逃げ込みたい。

しかし、運動中枢が、こんどは閉じることを拒否。

まぶたが完全開幕してしまった。


スキルの支配が緩むのを感じる。自由落下だ。落ちる。

初速に重力加速度が加わり。

とにかく落ちる、落ちる 落ちていく


怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いーーーーーーーーっ


ぐあつッーーーん!!!


衝撃。床に激突。

カラダに痛みはない。

なにかスキルのカウントが1つ減ったんだろうが、確認させてくれない。


ともかく床。地面だ。

空中ではない安心感。


指もピリピリ痺れていた。

着地に喜んでるのかもしれない。


「ダメージを受けてない? カウント減程度では支えられない衝撃なのに骨折すらせんとは、我が目を疑いたくなる。何らスキルを使った兆候もない。もしや……減じたカウントは1とは限らぬ、ということか。新たな発見ができたな」


発見できて、よかったな。

いいかげん解放……


「カウントを限界まで探るとしよう。【浮遊付与(フロートバッファ)】」


なんだとぉぉぉ!!!

仰向けにされて、浮遊。ふたたび天井が迫ってくる。

下向けに回転――落下――そして

うああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

衝撃!


声が出せない。恐怖を吐き出せないぶん、

ストレスが、何倍にもなって心内にたまっていく。


「ほお。なんともないかたまげたな。根気勝負となりそうだ。耐久試験に移行だな」


上げては落とす。

上げては落とす。

2回、3回、4回、……10回…………。


あ あ あ あぁ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あぁ あ あ あ あ あ あ あ あ あぁ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ぁあ


気を。気を失わせてくれ。世界の果てまで、意識を遠くて飛ばせてくれ。

そう懇願するのだが、小さな望みを脳は受けつけない。

トラウマという激痛が、針のように精神を穿つ。


思い出す。あの日のことを。





おれ、おおきなったら、父さんの会社で社長になる!


そうか。よーし今日は特別に、建築中の高層マンションに連れてってやろう。


やったー!


いつもの4階建てじゃないぞ、なんと30階建てだぞ。


ほんとに? うそじゃないよね?


本当だとも。もうすぐ着く。ほら。あれだ。


すげー。こんな高いんだ


セーフティネットは張ってるけど、あんまり動き回るなよ。


だいじょーぶだって。おれ身軽だもん。


気をつけろ照明(テルアキ)。そんな端までよっちゃ危ない!


だいじょうぶだよ。ほーらほーら、う……うわあああ!


テルアキぃ!!! つかまれほら、手につかまれ。いいか?引き上げるぞ。


うわああーーーあああんっ


怖かっただろ。ほら、でももう安心だ。父さんがしっかり抱えてあげるから。


………… うぅ …… う ……ぅ……





天井と床のデカすぎる隙間を、なんどとなく行き来させられながら、

脳裏に蘇ってくる、過ぎた日のこと。


―― 手につかまれ。いいか? 引き上げるぞ。 ――


父さん。




いつかは、向き合わなきゃいけなかった。

奥に奥に高く棚あげしていた恐怖の根源。

現世だったら、もしかしたら一生やり過ごすことができたトラウマ。


シタデル。地上からとんでもない空中にある歩く国。

冗談もはなはだしい世界に転生してしまったのは、なんの嫌がらせだ。

因果って言葉があの世界にあった。


向き合っていくしかない……だろうな。

棚上げするのも、もう、限界だったんだ。

仮に。仮にだ。まんがいち、地上降りるチャンスがあったとしよう。

マスターへのお願いが通じた場合などだな。


待っているのはここから地上までの長い下山。

チョモランマだってハイキングコースに思えることだろう。

なだらかさの一切ない。直角に眼下を見据えて1000メートルなのだから。

チャンスがあってもトラウマを抱えていては棒にふる。

恐怖との対面は、俺にとって乗り越える壁なんだ。


だよな? 父さん。




で……まだ終わらないのかな。どうやら続いてるみたいだ。

たたきつけられた回数は、もう、100を越えてるかも。

いいかげん、天井も、床も見飽きてきてしまうぞ。


見飽きた?

……ん?


ん?

んん?


みょうに冷静に受けとめてる俺がいるんだけど?

あまりに繰り返されるので、慣れてしまった、とか?

そんなこと、ありえる?


アドレナリンのせいとか。

でもほら、あれだ。


ホラー映画だって、何度も見てれは慣れて怖くなくなるし。

辛い食べ物も、だんだん辛くなくなって、より刺激の強いのを注文する。

それが高さにも適用される……のか?


怖い。怖いんだけども以前ほど。さっきほどじゃないと思ってしまってる。

心がマヒするというが。自分に起こるとは。人生捨てたもんじゃない。


上昇上昇。天井にぶつかるまで上昇。カウント減らして停止。

体の正面がくるり回って下向き。

落下落下。自由落下で衝突。カウント減らして終了。

1ターンの流れだ。


俺、どれくらいの衝撃でぶつかってんだろう。

式はたしか……


 mgh(位置エネルギー)=(1/2)mv2(運動エネルギー)


5歳児の体重がどれほどか知らんけど、16キロとして計算してみる。

重力加速度は地球なら9.8だからそれで。高さは30メートルでいいか。


質量m 16㎏

高さh 30m

重力加速度g 9.8m/s2


計算機ないから答えがでない。

スゴイ痛そうなのは分かった。

カウントってすげーのな。





仲間たちをみつめるゆとりもでてきた。

アディラは折れた槍を抱えて震えてる。


リーデンタットとウィゲリーリも負傷。

記憶を壊されたのか片膝ついて何か話をしている様子。


護衛3人は昏倒だ。変な向きに曲がった四股までそっくり。

血の中でなければ笑える同じ格好だ。


あいつら……


俺はいつまでこうしてるんだ!



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