53 試練の出発式
翌日。俺たちは、牢から出された。
待ちかまえた男らに剣をつきつけられて歩くこと15分。
大勢の人が詰めた、シタデルの中央にそびえる塔の根元に連行される。
「これがアリストサイド。試練のダンジョンか」
直径60mほどだろうか。遠目に見ていたより、ずっと細かった。
塔には幾何学模様をした両開きの扉。高さと幅。どっちも5mくらい。
レブンで、太い樹木をみたことがない。なのに一枚木ときた。
どう作ったんだろ。職人を捜して聞いてみたい気がする。
扉は、アリストサイドへの入り口であるとともに、
天をふさぐ屋根へと繋がるマスターエリアへの、唯一の通路だという。
「口を閉じてろ!」
ガモルク家の騎士が剣先を押し付ける。
ウィゲリーリに付きしたがう護衛役。
俺に鞭打つ主人の傍で、ずっとニヤついていたヤツだ。
俺、レリア、フレッドの3人は、扉を背後にするステージに追い立てられた。
ステージには先客があった。
中央に、座り心地のよさそうな椅子に偉そうな大人が5人。
後ろには、それぞれの護衛が数人づつ直立不動だ。
俺からみて右の奥、向こう側には、貴族の坊ちゃん嬢ちゃん。
横一列に並んで、晴れ舞台っぽく緊張を隠せない。
出発式の雰囲気がある。するとこいつらが試練をうけるのか。
まとった衣装が真新しいせいか、見目うるわしい。
泥と血がだらけのボロ服をまとった俺たちとは大違いだ。
ちなみに、牢から出されたときに衣服を着替えさせられた。
ガモルクなりに体裁を繕ったのだろう。
だが事実はありのままに伝えるのが、報道の基本だ。
いま俺たちは、ボロを纏ってる。
レリアとフレッドは鞭をうけてないが、演出を考慮しあえてボロに。
【土建設計】で、自分たちの衣服を読み取ったのを
ボロ設計に仕立て直したものだ。
見てくれはボロだが、じつは2重構造。
中身は【粘着糸】の糸で編み上げた強靭な上着だ。
防刃耐性と物理耐性を備えた、軽量素材。
一段づつ階段を昇る俺たちに、小さな悲鳴がいくつかあがる。
もっとも近い悲鳴はステージからで、それはウィゲリーリだった。
なんでそこにと目を丸くする。意趣返しは成功した。
「ごほん」
ステージ中央で若いMCが咳ばらい。
「えー。来賓の方々のご挨拶と、特別ゲストの子供たちの説明が終わったところで、本年の試練がこれより始まったりするのですが――」
挨拶は終わってたのか。で、特別ゲストの子供たちは、俺たちだろう。
うーん。鞭打ち女がどう説明したのか、聞きたかった。
15歳以上限定の試練のダンジョンに、幼児を投下する正当性ってやつを。
いや、ご来賓年寄りご恒例”長~いあいさつ”につき合わされなくてよかった、
と喜ぶべきか。
「――扉があくまで時間があったりするので、ダンジョンの説明をしたいと思います。マスターを目指す紳士淑女……と、その他の方々」
俺たち姉弟をみた。
上級貴族が200人ほどが詰めかける会場から、失笑と侮蔑。
敵視してるのばかりかと思ったが、
さまざまな反応をみるに、そうとも限らないようだ。
反ガモルク派、なんてのがいるのかもしれない。
観客層は一目瞭然。身に着ける物の高級感は、俺でもわかるくらいまったくちがう。
ステージすぐ近くを占める上級貴族。それを囲んでる下級貴族。
父上とトマスを捜すがいない。
屋敷をセバサらに任せるわけにはいかないんだろう。
いまは特に。
そのかわり、遠巻きの集団の先頭に、見覚えある人物を発見。
鉢巻を締めて拳をふりあげ、ルミナス―って叫ぶ、母上だ。
貴族の優雅さをかなぐり捨てた雄姿。周囲は引き気味だ。
来賓席のオッサンが、ちっ、と舌打ち。
下級貴族どもが! と、言わんばかり。
上級貴族は総じて同じ意見みたいで、紳士淑女のかたがたが眉をひそめる。
やや加熱気味のステージ周囲と違い、もっと外周の店先では市民が普通に歩いてる。
ちらちら見る者もいるにはいる。興味がないのか、立ち並ぶ店の商品に真剣だ。
いかにもな高級店の前に、似たような商品を並べた露店が幅をきかす
銀座とバザールがごった煮の、繁華街だ。
厳かな試練とは思えない。特設会場での発表会みたくなってる。
みんなそれを当たり前に受け入れてる。狭さ影響ここにもだ。
「改めて。この場を務めさせていただいたしてるのは、自称、時代の貴公子こと、私、ネイサン=バサネス。 いぇーい!」
「いいぞー! ネイサンさまー!」
こいつがネイサン。ノリのいいやつ。
笑声の混じったが歓声が広がった。
MCネイサンが、やーやーと手を振る。
キャーっと倒れる失神者。来日したビー〇ルズか。
ネイサンには、会ったはずなんだけど、囚われた日だったからなあ。
ウィゲリーリのファーストインパクトがデカすぎて、まるで印象がない。
ともあれ、ダンジョンの解説は、素直にありがたい。
俺のゲームプレイスタイルは、予め攻略本を読むタイプ。
レリアたちにはああいったが、初見の不安は、やはりある。
「この神聖な扉をみてくれ。試練のダンジョン、マスターダンジョンと呼ばれてるけど、正しくアリストサイドダンジョンっていったりする。15階層あって、各階層に特徴があるんだ。モンスターを倒すと経験値(SP)ってのがはいって一定に溜まると、レベルアップする。力とか、素早さが、上がったりするんだな。スキルにもふりわけ可能だから、能力をぐんと向上できたりする」
SP?
まよいの森には、そんなのなかったが。
「レブンにはほかのダンジョンもあるけど、SPシステムはアリスト特有といわれたりする。もっとも、他のダンジョンから生き残ったりした人間はそう多くないから、信憑を確かめようがないけど。ね?」
また俺を見る。釣られて、他の連中も注視。
会場全部に見られているようで、落ち着かない気分だ。
実際、そうなんだろう。
はっ! これは拷問なのか。精神的ダメージは鞭より効く。
それよりSPだ。
たしかに、迷いの森にSPってのはない。2回も彷徨ったんだから間違いない。
振られるポイントで体力があがるなら、バトルや疲労疲でのカウント減は低くなる。
ついでに、RPGの定番、HPやMPもあるといいんだが、どうだろか。
「試練と呼ばれていたりるのは、15層あるダンジョンには危険がいっぱいだからだ。死に直結する数々の、まさに”試練”が君たちを待ち受けてる。最終的に、アリストサイドダンジョンの、最上階に達したものが試練を越えたとみなされマスターとなる」
マスターね、と、何人かが嘲笑。
なにか可笑しかったか。
「マスターは大変名誉ある地位だ。このレブンシタデルの最高位。管理権。そしてその地位にたがわなない贅沢! 衣食住、不自由ない暮らしが、君たちを待ってたりする」
ほほぅ。不自由がない贅沢。
ごちそういっぱいで、メイドさんがたくさん、傅いてるとか。
心惹かれるものがあったりする……いや、ある。
この40年、誰もマスターになれてないっていうが、
それは、現在のマスターが、地位を手放さないからってもの理由か。
ウハウハなんだな。ウハウハ。心惹かれる
俺がマスターになりたい理由は、当然、地上に下りたいってことだが。
すぐ地上におりないであげても、いいかな~なんて思う。ぐふふ。
「質問いいかな。ネイサン=バサネス卿?」
誰だ、会場かなと見回したが、いない。壇上の一人が手を挙げていた。
男風な話ぶりだが、キレイ、といより可愛らしい女子だ。
みため小学生っぽい15才なのだろう。ロリか。嫌いじゃない。
でも壇上にいるのに質問って。全員が納得づくの挑戦者とは限らないようだ。
どうぞとネイサン。
「わたしは、アディラ=ビェズル。下級貴族を管理するビェズル伯爵家の次女だ」
「ひさしぶり。子供のころよく遊んであげたりしたね。なにが聞きたいのかな?」
幼馴染にしても、公的な受け答えって概念は薄いのか。
じつに、フレンドリー。
アディラ=ビェズルのほうは、騎士さんみたいな話しかた。
じつに、言葉が堅い。
「わたしはマスターを目指す! スキルゲットでアリストから退場するのが今のトレンドのようだが、そんなゴミ生活者、目ざわりだ。上級貴族らしならぬ低俗な御貰い思考の者がいるなら、ただちに壇上から去ってもらいたい」
質問ではなく宣言だった。苛烈か。
スキルだけゲットして、とっとと生きてもどれるなら、
それも悪くはないと思うんだが。
嗤っていたやつの顔が、さっと青くなる。
アディラを睨んでるヤツ。眉を顰めるヤツ。
で、やはり苦笑ってのもいる。
そういうことか。
スキル。上級貴族が文字を独占する理由は、スキル。
俺の知る歴史では、文字は文化であり、意識や知識向上に欠かせないツールだ。
支配される側が、高い知識をもってしまうと、権力者は困る。
言いくるめて、好き勝手に、ふるまうことの難しくなるから。
単純な人々が頭の賢い王をあがめるって図式。楽で便利、セーフティなのだ。
シタデルでは一歩踏み込んでる。
ダンジョン攻略に文字が欠かせない。
必ず忘れてしまう名前を書き留めるため。例の立札を読むため。
だから文字は、下級貴族以下の市民には与えない。
俺はそれを、楽に統治していくためだとばかり思っていた。
けど、文字が読めるからといって、ダンジョンの危険度が下がるわけじゃない。
攻略の入口にたつ権利。その切符を持っているにすぎない。
結局、命は賭けなきゃいけないのだ。
スキルをさっさとゲットして生還。
それは決して、悪くはない。
得た技術を使って、無難に生きていく。
現代に当てはまれば、専門性の高い技術を取得するとか、
国家資格をとるのと、なんら違わないのだから。
いきなり敵を作ったな。ロりの、アディラ=ビェズル。
これから危険な迷宮に挑むってのに、背中から狙われるリスクを背負いこむとは。
どうするつもりだ。と見守っていたら。
もう別の一人が手を挙げた。
「ぶぅあかめ。マスターになるのは、あちしだ!」
あ・ち・しって言ったか? あちしって。
ほっぺに丸いマークがついてる、5頭身のぼっちゃん。
背はたかい。180くらいあるか。だが5頭身。
昭和のギャグ漫画主人公だって、もっと出来がよかったぞ。
あまりに不幸すぎて笑えないレベル。むしろ涙を誘うボディバランスだ。
ウィゲリーリの影で見えなかったが、ウィゲリーリが霞んでしまうくらい、
キャラが濃い。濃すぎだ。
「領主長ギガーマイト=ゲマインナーの息子でうぁる。くぉの、モガーマイト=ゲマインナーがな。貴様ごときの、出番はぬぁいと思いしれ。ふは、ふぁっはっはっは」
笑いが会場を包んでいく……みたいなパターンだったが、
扉がゆっくりと開き始め、”なんとかの息子でうぁる”と吐く男を見る者はいなかった。
「開いた! みんな急いだりしろ!」
時間が決まってるといってたが、開いてる時間も決まってるのかも。
出発式の、厳かさも、あったもんじゃない。
わらわらと、試練を受ける者たちが、扉へ急いだ。
共通するのは、真新しくも戦闘向けの衣装を身に着けているのと、
首か腕に、名を書いたタグを持っていること。
ドッグタグ。軍人が肌身離さず、身に着けてる、2枚の名札。
兵が死んだときは、1枚は遺族に。1枚を口に加えさせる。
本人確認が滞りなく行われるように。
俺たちも剣先で突かれながら、扉に向かわされる。
とのとき俺はみた、扉をくぐる直前の人間らに、後ろから一人が何かをするのを。
スキルだ。【風】だと確信した。
小さな、けども鋭い真空波。ドッグタグが、切り裂かれる。
あっと、思っても遅い。体はもう、ダンジョンに吸い込まれているのだから。
くそっ!
俺が、ウィゲリーリ=ガモルクにやろうと思ってたのに。
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試練のダンジョン参加者
モガーマイト=ゲマインナー 15歳
意志薄弱。
ほか3人
ガギロン=バーザダー(ゲマインナー家騎士)
ウィゲリーリ=ガモルク
銀髪・銀目、男児かとみまがうような短髪。女性にしては背の高い175センチ。
鞭使い。
ほか2人
リーデンタット=スプラード
家思い。親思い、妹思い。上級貴族サイコーな、単純な漢。
脳筋。上級貴族は冷静でなくてはいかんと、いいながら、感情駄々洩れ。
ほか1人。
アディラ=ビェズル
アリストダンジョンに参加。敵味方ない、中立。
カーストの意識が強いが、元元決めれた階層ではなく、その現場での力関係に従う。
ゆえに、自分がトップになりたい。
ガンガンと、マスター狙い。




