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高い所が死ぬほど嫌いな俺が、空中ダンジョンの下級貴族の子に転生した話  作者: きたぼん


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52 快適すぎる入牢生活

「ふぅ……あんま美味くないですね」


素焼きのティーカップで熱いすするお茶がうまい。

白い磁器でないのは残念だし、どちらかといえば、コーヒー派なのだが、

シタデルでも高位の上級貴族が飲んでるからには、入手できる最高級品なのだろう。

ガマンするしかないな。がまん。


「ルミナスがぜいたく。こんなおいしいののんだことない」

「あっちくで苦い。おいしくない」

「クッキーもありました。パンが食べられないから、これ食べましょう」


ティーセット。クッキー。

どちらも、この部屋に通されるとちゅうに通過した厨房でみつけたものだ。

いただきものではない、【アーキテクチャ】で読み取り、複製再現しただけ。

美味いんだが、味は、工場生産なみに均一。いや、同一だ。

すぐにも飽きるきがする。


「それでも、レリアのよりは」

「わたしのより、なに?」

「いえ」

「レリア姉のはマズイ……ふごッ」

「言うな!」


慌てて、俺はフレッドの口をふさぎ、大急ぎでフォローに走った。


「フレッド! 世の中には言ってはイケナイ事実があるんだ」

「へぇ。言ってはいけないくらいマズイと。そうなんだルミナス」

「あ、いうえ、お……逃げろぉ」

「ぎょい」

「ふたりとも、まてーぇ!!」


どたばた、ぐるぐる。テーブルの周りを逃げる俺たちを、レリアが追いかける。

やがてバターに……ならないか。


姉弟ホームドラマを演じているここは、地下牢だ。

小ぎれいな壁紙、ふかふかの絨毯は、自室を再現。テーブルと椅子は適当に。

湿気を排除するパイプ状の換気口を6つ、土魔法で開通させ、

天井には【照明器具】を設置で灯りも完璧。

暑さ寒さをしのげる快適避暑な、ワンルームを実現した。


俺と、レリア・フレッドは別々の牢に閉じ込められているが、みつけるのは造作ない。

【転移】は一度でも通った場所ならテレポートできる。

牢から抜けると、しらみつぶしに捜索しみつけた次第だ。


呼び寄せて空になった牢の寝床にはダミーを配置。

【ぬいぐるみ】の手足をもぎ取って【コロボックル】の手足を付けた。

命ずるままに動きをプログラムできるのは、うってつけ。完璧な偽装と自負する。

怪しげな【コロボックル】の用途がみつかったわけだが、使いどころが細すぎる。


この部屋だが、正しくは牢屋ではない。

本当の牢屋じゃ鎖につながれたダミーが、監視の目をごまかしてるところ。

ここは、牢屋の地下に【リビング】で作ったのだ。

使用カウントは(1/1)が(0/1)に減るが、たったの一晩で数字は戻る。

それにだ。使えば使うほど分母が増える。とっくに(3/3)と3倍アップだ。


オヤジの会社は、家一軒を仕上けるには上物だけで3か月かかります。

そう、お客に説明していた。


それが日に3部屋だ。大工がはだしで逃げ出す壊れ能力といえよう。

スキル【アーキテクチャ】万歳だ。


土に囲まれてるおかげで、シタデルにいるってこと。

地上1000mの空中で暮らしてるのを忘れていられる。

グルーム屋敷より気分が落ちつくってのは、どうなんだろう。


「フレッドキャッチぃー。。ルミナス! つぅかまえたぁーっ!」


走りすぎで目が回ったぜ。歳はとりたくないな。5歳だけど。

まずフレッド、すぐに俺をつかまえたレリアは、得意満面で椅子に座る。

だが、笑顔は長く続かない。うつむいていまにも泣きそうだ。

クッキーを手渡したけど、レリアは見ようともしない。


「クッキーなんかより、でたい。おうちに帰りたい」

「……そのうち、出られますよ。そのまえに、またダンジョン入りでしょうけど」

「ダンジョン? 迷いの森の?」

「いえ、試練のダンジョンです。アリストサイドというみたいですが」


ウィゲリーリをあおってやったら、そうなった。

あおったというが、飛び散った血や肉片や水を回収して、微笑んだだけのこと。

万全といえる準備をして、仕打ちを迎えたのだ。


スキルカウントは減ったよ。あれはHPの代りになってるから。

スキルだっていくつも消失したし。

ノーコストってわけじゃない。


でもそれも、あれも、すべてが織り込み済みだった。

スキルに関して言えば、下から順に、要らないスキルを並べておいたのだ。

具体的には、同じスキルを100ほど複写してる。


【アーキテクチャ】の【設計】にさらに下にある【複写】。

試してわかったことだが、コピーできるのは”読み取った物体”限定だった。

”バット”がいい例だ。あれの元はただの木だから。

手持ちのスキルのコピーなんて、都合よい機能じゃない。


なかったんだが。

コピーの抜け穴をみつけてしまった。

スキルは無理。だけど、スキルオーブという物体ならば可能。

冗談みたいな、ザルな抜け穴だったというオチだ。


窃盗(セフト)】で盗みったスキルは”スキルオーブ”という物体である。

【アーキテクチャ】で読み取ってしまえば、いくらでも複写可能。

それこそ、カウントが尽きるまで何度でもだ。


ゲットしたばかりの【窃盗(セフト)】はレベルが低い。

カウントは(5/5)と少ないし、派生スキルがないから、5が上限。

何かを5回盗めば、レベルアップを待つか、翌日まで使えない。


いっぽう【土建設計(アーキテクチャ)】のカウント膨大。

合計値はいまや(1080/1080)と破格である。

スキルのカウントは総数から横流しできるから、数はほぼ気にしないでガンガンイケる。


しかもだ、【設計】に含まれる【複写】に、カウントはないんだな。

0ということじゃない。(無限大)だ。


もともと、図面に描いた線や円をシンプルに転写するだけの機能。

線くらい何本引いてもいいよ……てダンジョン主が思ったかとうかしらないが、

無尽蔵みたいなのだ。

その無尽蔵を悪用、増やしに増やしたってわけだ。


その結果、スキルオーブ数は、ありえない数をストックしていた。

窃盗(セフト)】でゲットした5つスキルは、【盾】【浮遊付与(フロートバッファ)】【土魔法】

【盾】だけでも1万。

オーブを実際にスキル化したやつは、いろいろ併せて100以上になってる。

同じスキルがバッティングせず、何個でも取得できるので、

【土魔法】が、ずららーと並ぶ。ちぃとばかり笑える状態だ。

毎日、1年間、鞭打ちされ続けようと、ケロっとできるであろう。

はっはっは。


100くらいで停めたのは、単純作業に飽きたから。

スキルオーブはスキルの卵。スキルにするためには、実体化する。


実体化 ーー> スキルゲット


これを一個づつ。俺だけでも面倒なのに、人数分。

レリア、フレッド。ほかにはブラン、騎士さん。なぜかアラモスにギーネ。

あの場にいた人全員に、スキルオーブとして配布してる。

最初の一個だけは、自分で取得しなけりゃいけなかったが。


一個得たあとは、それを申告してもらい、【窃盗(セフト)】でいただく。

複製でバンバン作って再配布したってわけだ。

しばらく、オーブはみたくもない。


再ゲットのスキルは、どれもレベル1でカウントに初期化される。

ブランの【万能鋏(オールシザー)】や、騎士さん【速度 強化・弱化(スピードバッファ)】など、スキルは【窃盗(セフト)】してない。

育ててレベルをあげてるのに、レベル1に戻すのはもったいない。


ウィゲリーリは、温室育ちっぽい。

騙された経験がないみたいで、アホみたく簡単に思惑に乗っかった。

つーか、ダンジョンに放り込むと言われたときは、ドキリとした。

何も言ってないのに、思惑を先取だ。

もしやこの世界が、俺を驚かす盛大なダマシ番組じゃないか。

ありもしない仕込みカメラを捜してしまったわ。


公開処刑を合法的に。いや貴族社会に明文化された法はない。

慣習的に、ぎりぎり、違和感なく、始末しちまおう。

ウィゲリーリの腹がそれで間違いないと気づいて安心したくらいだ。

ダンジョンの中は自己責任。死んだ理由を問う暇人は、そうはいまい。


ほっといても子供なら死ぬと思ってるだろうし、刺客を送ればなお完璧。

抹殺一直線、ということだ。じつに、わかりやすい。


不安の塊となってる姉レリアが、目でみつめてくる。

ちょっとだけ俺よりも背が高い。

弟たちのまえだけに、ぐずりたいのをガマンしてるのが痛々しい。


「ダンジョン? お名前わすれるの? どこかに書いておく?」

「ぼくが書いてあげる。けっこうじが書けるようになってるよ」


文字は、上級貴族が独占する知識。

下級貴族の俺たちは知らないことになってる。

ウィゲリーリは、そこを突いてこなかった。

迷いの森、スキルうんぬんは知れ渡ってるから、読書きできると確信してるのか。

ありきたりの邪魔はしてくる。


「だめだろうね。ドッグタグなら取り上げられるし、手に書いても消されると思います」

「どうしたらいいの。も、おうちに帰れないの!」


レリアの頭上に、小さな炎が燃えあがった。彼女のメインスキル【炎魔法】。

感情の高まりに反応するようで、弱火~強火を繰り返す。

蝋燭のようにか弱く、ため息でも吹き消せそうだが、

怒りが増せばトレントくらいなら瞬間的に炭と変える。


「ぼくが、レリア姉はまもるんだ」


フレッドの前に半円状の盾があらわれた。

小さな体をすっぽり隠せる高さの、厚板だ。

大人でも持ち上がられないくらい重量があるが、本人は自在に動かせる。

魔物に遭遇してはじめて取得したこの【盾】スキルを気に入り、片手持ち(10/10)だったのを、据え置き(30/30)までレベルアップさせてる。


騎士さんから複写した【速度 強化・弱化(スピードバッファ)】と併せれば、最速で敵に迫り、シールドバッシュをかます。


ぼーっとしてるフレッドは、意外と慈愛に富んでいた。

サムロスも【盾】を気に入って、早々に使いこなした。

イージーながら、魔物狩りでは2枚防御として鉄壁。

背後から遠方攻撃をビュンビュンかますグーネ。

先制の足止めと、とどめを受けもったレリア。


俺、ブラン、騎士さんが単独撃破タイプならば、4人はコンビネーションで進撃していた。


それでも、ダンジョンは危険。

しかも名前を忘却してスタートだ。

思い出すための用意は、必要不可欠。


名前に紐づけされた経験が全て失われれば、

大人だって、荒海に放り出された幼児に帰る。

俺たちは元から幼児だが。


二人の肩を抱きよせる。

俺よりちょっと大きなレリアと、ちっちゃなフレッド。

サンガリの言葉ではないが、大切で、かけがえのない姉弟。

失いたくはないし、失わせやしない。


「大丈夫です。ぼくが覚えてますから」

「はなればなれになっても?」

「みつけます。すぐに行くから動かないで待っててください」


ダンジョンに行きたいってのは、俺のわがまま。

マスターになれば、このレブンを動かすことができるそうだし、この空中牢獄から地上に足をつける願いか叶うかもしれない。騎士さんの話を信じれば。

でも。俺だけがハッピーでいいのか。ダメに決まってる。


二人を逃がだけなら簡単。出るのも入るのも思うがままだし。まさに自由自在。

でもそれは一時しのぎ。アイツらが家に押しかけて来るかもしれないし、

今回はよくても、いつか別の手段で貶めにくる。

ガモルクの執拗を断ち切らないといけないのだ。


根本的、永続的に、しつこい貴族を追い払いたい。

狭いレブンから追い払うのは、思いつかないので無理。

だとするなら、木っ端微塵に懲りさせて、諦めるように仕向け必要がある。


グルームを貶める家訓とやらを破りすてさせる。

二度と子々孫々まで、グルーム貶めなんど考えないよう誘導したい。

慣習化したを終わらせるのだ。

よしッ ………………!


「策がひとつも思い浮かばない……」

「どうしたの?」

「いえ、自分が情けなくなっただけです」


貴族の特性とやらを、知らないんだよ。

騒げ、とローラン達には言いいはしたが。


「おいしいね。ぽりぽり。しずかだし」


話に飽きたフレッドが、クッキーをかじる。

静かか。そういやこの数日、揺れがなくなってるかも。

慣れて、そう感じてるだけなのかもしれないけど、それでもいい。

ネガティブ気分の要素は、一個でもないほうがいいんだから。


「体力をつけておきましょう。クッキー食べて、マズイお茶を飲んで」


いつ、呼び出されていいように。

それはもうすぐだ。


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