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35 検証バット刀


そういえば君。と、低音で呼び止められる。

ブランではない。


「君はグルーム家の子ですよね。スプラード家のお嬢様に対して無礼なのでは!?」


そうだった。階級の社会だったよな。

ブランと一緒に潜ると変なことになるかもと、一人で入るつもりだったんだっけ。

でももう、一歩踏み出してしまったからなぁ。


「ブランさんや」

「なんざんしょ」


お。こんなノリのいいやつだったっけ。

意外と気があうかもしれない。


「連れていくんだよな。静かにさせていいか?」

「ご随意に」


いいのか。二つ返事で了解したブランチェス。

俺は、ストライト=シンプレッドに相対する。

家紋だろうか。シックな文様に彫られた柄にゆったり手を置いたストライト。

緊張は微塵もない。そりゃこっちの体格半分だし、恐れられる要素はゼロだ。


「ストライトさま」

「名前を呼ばれる間柄ではないかと。何用でしょうか?」


不遜な態度が見受けられればすぐさま打ち捨ててくれようぞ。

そんな、無礼打ち上等の武士みたいに、好戦的な瞳が光った。


俺はくるりと看板へ向きなおる。

根元から引っこ抜くと、板を剥がした。


「!?」

「また道標? 羊皮紙でももってくればよかったでしょうが」


疑心暗鬼に、びくっとなってストライトさま。

俺の行動に飽きれてるブラン。


グルーム(貧乏貴族)に、そんな贅沢物があるかよ」


家内にある羊皮紙といえば破れかけの本もどきのみ。とぉっても高級品らしい。

たしかに黒板をもってくる案も考えた。失くしたらサンガリが泣くのでやめた。


板を裏にして、持ってきた石で描きこむ。

1エリアを2.5mと仮定し、縦横に40本づつ。

現在の場所と思われる南東の辺りに丸を付けて、マッピング準備OK。


「ストライトさまはブランチェスを、なる早で連れて帰るんですよね?」

「私が呼び捨てで騎士にさま付けって。いいんだけど」


解せんって顔すんなブラン。

鼻水女だからその程度、イテっ!


「……それがなにか?」

「き、危害はくわえません。邪魔をしない限りは」

「危害ですか? 君が私に? ぷっ」


小癪(こしゃく)な小僧がたわごとを。といいたげに口角をあげる。

俺もそう思うぜ。ブランから突かれた横腹がいたいけどな。


板を取った棒を【アーキテクチャ】でみてみる。”標識杭”とあった。

丸腰はなんとなく不安だ。木刀の代りにしたいんだが太くて握りきれない。

手直しするしかないか。


【コピー】で図面に取り込んだ。

握り部分をバット風に持ちやすくし、長さは50センチくらいに。

少し平べったくして反りをいれ、概略を整える。

バットと木刀と櫂を合わせた形に、仕上げてみる。

威嚇と簡単な防御になればラッキーくらいな木刀(?)の完成だ。


俺は、柔道と太極拳と、最近じゃ剣術を習ってる。

武術を複数身につけたなんて、いえればカッコいいが、実際は全部が中途半端。

そこに、用途不明な物体が加わった。うん、じつに俺っぽい。


”バット刀”と名をつけて保存し実体化。

イチローポーズで場外を示した手に、”バット刀”が出現した。

待たせたな。準備は整った。


「な。どこから木刀? いや受けて立つ!」


”バット刀”のバランスをみようと、2、3回、両手で振ってみた。

少し先端のほうが重い気がするが、取り回すには悪くないバランス。

ストライトさまが剣を抜く。一切の隙がみあたらない。

さすがわ騎士様。若干16歳での叙勲は伊達じゃないってことだ。


ということで。


「じゃ、進むぞブラン」

「急いでるわりには、余裕よね」


辺りを警戒しながら、俺たちは歩き出した。

し、勝負はどうしたのです。と背後で嘆くヤツが一人。知らん。

邪魔にならなきゃそんでいい。勝負など時間のムダ。ぜったい負けるし。


「左10まま左10まま左9まま左8 か。」


左へ折れると、歩けるように道が開けた。

1エリアぶんだけ、サッカーグラウンド並みの均芝になる。

相変わらずなぞだ。

全部平らにしとけば、リソース食わないのに。


1エリアは9歩あった。一辺2.5mだろうか。

前回と同じく歩幅を28から31センチとしての算出ならそうなる。

この森は100m四方。歩く距離は変わんないだろ。

エリアが広くなったんだから迷路数は減ってるよな。そう思いたい。


魔物は、まだいない。


歩きながら【アーキテクチャ】でマップを開く。

マッピングされないし、グレーのままだ。

ダンジョン内部は表示できないってことだな。


逆に中に入るまで確認できてた周辺が、見れなくなる。

これは、中も外も転移は不可能という意味。

ダンジョン様のささやきが聞こえるようだ。

ご都合よろしい仕様は与えねーぞ。地力攻略でやれと。

そのつもりなので、問題ない。


「彼女は?」

「1エリアぶん遅れて、ついてきてるわ」


横目でちらりと後ろをうかがう。

さっきの勢いはしぼんで、おどおどきょろきょろと見回してる。

血の気がひくほど柄を握りしめて。

そんな固まってたら、肝心なときに動けなくなるぞ。


折れてから10個めのエリアに到着した。ここでまた左だな。

向きを再び左に変えて、一歩進む。


「お」

「でたわね」


ガギガギ。現れたのは大型犬サイズのクモだ。

大きな顎を噛み合わせ、牙のような鋏角(きょうかく)を上げ威嚇してくる。


「な、な、な、なんです。このデカいバケモノは!」


あららー騎士様、腰が泳いでるぞ。

そんなんで主の護衛が務まるのか。

それはともかく。


今回、ダンジョンに潜った理由はいくつかあるが、一番の目的は検証だ。

名称だけでは効果がわからない子スキルが、多すぎる。

前提として、まずはダンジョンの中でも【アーキテクチャ】が使えるかどうか。

マップにダンジョンは表示されなかった。では、ほかのはどうか。


「【距離測定】」


わかりやすいところで、魔物までの距離を測ってみる。

画面に距離が出た。


「よし! 1.235m。ブラン! 俺からクモまでの距離は1.235mだ!」


マップ機能が使えないのは残念だが、対象の表示ができた。

ならば、ほかのもイケるだろう。


「……バカなの? その木刀はなんなの?」

「木刀……はっ!」


そうだ。俺は”バット刀”と作るとき、杭の形状をコピーして作りなおしていた。

これは【アーキテクチャ】がダンジョン内で効果を発揮した意味した。

つまり、検証は終わっていたのだ。ははは。


「お、お嬢様! わ、私がお守りします! でやーああぁぁぁっあああああ」


ストライトさまは、構えた剣をガチガチに突き出して、クモへ突進。

クモがスルリと身をかわす。哀れストライトさま。

身をひねることもままならず、ど真っすぐ突進し、次のエリアへツッコんでいった。


迷いの森ダンジョンでは、エリアは3つまでと決まってる。

最も背後の1エリアが消えて、新しいエリアが出現。

そこには。


「あああ、別の魔物が! で、で、でカマキリぃぃぃの兵隊」


大人の腰の高さほどのカマキリが3匹。

いや、俺にとっては胸の高さくらいだ。

で、ホントの鎌をもってるし。

もちっとナチュラル生物になれなかったのか。


いや、それは別にいい。

この3匹は次の検証にうってつけだ。

逸材といっていい。


「あなたたちねぇ……とっとと倒すわよ」


「まてブラン! 【コロボックル】!」


ため息交じりに、一閃しようとしてるブランを制止させる。

そして、試してみたいスキルナンバー1を発動。

どうなるか。見当もつかん。



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