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28 グルーム兄弟



「おいルミナス、”ぼくはトマスです”の字はこれでいいのか」

「おしい。”ぼくのトマトです”になってます」

「ルミナスぅ。わたしは合ってる。”シタデルは屋根がまるい”」

「ばっちりです、レリア」

「ルミ二ぃ。これはこれは。”打倒レブン!!”」

「……そんな熟語どこで覚えた」


トマス、レリア、フレッドが、マイ黒板に書いた文を見せにくる。

兄弟の争いはみたくないという、サンガリ涙の説得に応え、じゃ、文字の勉強をと、俺が提案したのだ。





「じゃ勉強しましょう。みんないっしょで」

「なんだよ、べんきょうって」


概念どころか、”べんきょう”という言葉さえ知らないトマスに驚いた。

必要性をくどくど説くよりも、気軽にとらえてもらおうと、こう言った。


「文字で遊ぶことです」


レリアが疑問形で首をかしげた。よくわかってないようだ。

フレッドは、あそぶあそぶと、おおはしゃぎ。

サンガリとトマスは、同時に反対する。


「「上級貴族が怒るぞ!」」


グルーム家はすでに、マルスの一件で、領地減俸という罰を受けてる。

上級貴族以外は禁止の文字学習を知られれば、さらなる処罰が免れない。

最悪、お家取り潰しの危険もあり得た。


そんなこと。俺の知ったことではない。

というか、文字の勉強に比べたら、お家の破滅くらい、なんてことない。

言い過ぎだろうか?


「上級貴族になればいいんでしょ?」

「ばかなのか?」


俺は地上に足をおろしたい。けど方法がわからない。

シタデルを地上に下す方法を見つけるには、きっと力が必要だ。

そこで”兄弟みんなで力を合わせて俺を地上におろそう計画”を打ち立てる。

心の中でひっそり内緒で。


男爵家の息子という立場は、平民よりはマシだが、しょせん下級貴族。

まぁ、中級市民といったところだろう。

家格があがれば、方法に近づく機会が多くなるはずだ。


下っ端貴族がのしあがるにはどうするか。

誰にも難癖つけられない”大きな手柄”がわかりやすい。

たとえば、荒れ地を開墾して領地を拡張したとか、新商品を開発したとか。


しかし、レブンは直径1キロの人工的空間。未開墾の土地などどこにもない。

新商品の開発は、知識チートできそうだが、すぐには思い浮かばない。

自慢じゃないが、俺の知識は狭い。


住宅とか、地盤とか、土地区画とか、設計とか、親父の会社に関わることばかりだったりする。あとは歳相応に、ゲームにアニメ。うーん、柔道と太極拳もか。

とてもとても、爵位栄達に繋がりそうにない。


期待できるとすれば、いまが戦時中ってこと。


レブンがおこす地震は、敵シタデルから逃げる揺れだ。

戦争は40年間起こってないそうだが、侵略は明日でもおかしくない。

レブンの気がかわり、戦いをしかける可能性だってゼロじゃないのだ。


戦時中ならば戦果だ。戦果は雄弁。

敵を撃破だ。明確でわかりやすい。

戦果をあげれば、上級貴族に引立ててもらうことができる。

戦果をあげるにも、力がいる。

力にもいろいろあるだろうが、手っ取り早いのがスキルってことだ。


迷いの森を彷徨いながら、スキルを手に入れた。

攻略――というより脱出――できたのは、スキルを得たおかげ。

ダンジョンでスキルゲットし、スキルを磨く。それが力となる。

ただし大きな問題が横たわる。


第1の問題が記憶喪失。


意地の悪いダンジョンは、侵入者から記憶を取り上げてしまう。

積み上げた過去の一切が、消えてしまえば、自分が何者かがわからなくなる。

何ができるかできないどころか、居場所も、そこにいる理由もかき消される。

意味もなく路に迷う。魔物に襲われ続けながら。


恐ろしく醜悪なワナ。非情すぎる仕打ちだ。

侵入者は死ねと、告げるようなものだ。

こういうと、脱出不可能な迷路に思えるが、クリアのとっかかりはある。

それが名前。自分の名前を思い出すことだ。


ブランチェスの話では、記憶と名前はセット。

名前がわかれば記憶が戻る。

自分が何者かわかれば、ダンジョン脱出の糸口がつかめるというわけだ。

ならば答えは明確。名前を書いたものを持参すればいい。


カンタンに解決だな……これが元の世界であれば。

学校教育が発達した日本のような国であればなら。


第2の問題。文字の禁止。


文字の学習を、上級貴族は禁止してる。

最初、文字を禁止する意味が、わからなかった。

非支配階級に知恵をつけさせないためと考えた。

だけど、もっともっと根が深かった。


文字と記憶が結びついて、そこにダンジョンがある。

スキルを独り占めすることで、レブンの支配を永劫にする目論み。

スキルという超えられない壁があれば、もてない下級貴族以下人々を、いつまでも抑えつけられる。


永久にして完全。古典荘園として搾取できるサイクルだ。

そしてそれは、成功している。

一枚かませてほしい。いやそれはいいが。


上級貴族がなんだというんだ。

1も2も答えは明確。その上級貴族になっちまえばいい。

一挙に解決できる。


文字、ダンジョン、スキル。

そんで戦果をあげて、王とかにアピール。上級貴族に。

最終的に、シタデルをどうにかする方法に近づける。

うんうん。


それには、ひとりで戦果をあげても、目立たない。

せいぜい茶菓子よりマシなほうびを賜って、お仕舞いだろう。

でも兄弟を巻き込めば家ごと目立つ。これが大きい。

上級貴族に格上げされれば、シタデルに近づく可能性がかなり高まる。


か、完璧だ!


俺の大志に、仲良くいっしょに、つきあってもらおうではないか。


「かつてグルーム家は上級貴族だったのだ。返り咲くなんぞ、栄達よりも難題だぞ」


なんということでしょう!


「本当ですか?!」


サンガリの爆弾発言に驚く。トマスなんか目をむいて卒倒しそうだ。

父いわく、なんでも、ガモルクという侯爵の陰謀で、侯爵から男爵に降格されたのだと。


「先代が、独占する文字知識を広く分け与えようとした。その反発だった」


いまだに、目をつけらているとも。

今回の処罰も、常識よりも重いのだと。

そこから、ガモルク侯爵が関わってるのは間違いないのだという。


そうか…………そうだ!


「かえって都合がいいですね」

「なに、どういうことだ」

「ぼくが森から戻った件は誰もがしってます。上級貴族ならスキルと取得した考えるでしょうね」

「まあ、そうだな」

「父上? どういうことだルミナス。迷いの森とスキルがどう関係してくる。スキルは上級貴族しか得られないはずだ」


はい? ああそこからなのね。

説明めんどいので、「あとで」と無視して話をすすめる。


「でも、僕が文字を知ってるとは誰もおもわない。なぜだかわかります?」

「わからんな」

「スプラード家のお嬢様、ブランチェスが一緒だったからです」

「そうか! まさか、5歳のおまえが、文字が読めると思わない、スプラード令嬢のおかげで助かり、運よくなんらかのスキルを得たと。上級貴族なら考えるな」

「そこが隠れ蓑になります。スキルをもったぼくが、”兄弟をつれて偶然ダンジョンに入って出た”としても、文字を知ってるからだなんて思わない。名前くらい読めるかと考えるでしょう」

「偶然にダンジョンと? まさか、また迷いの森にいくつもりか!? 死にかけたのだぞ!!」

「次は楽に帰還できるでしょう。スキルを持つぼくのエスコートで完璧ですね」

「……なんて向こう見ずなことを。血のつながりこそないが、無謀なところは先代に似てるな」


「おほめに預かりまして。そういうことで、兄弟仲良く文字を覚えてスキルゲット。いづれくる戦いに勝って、成果をたたきつけてやりましょう。こずるい上級貴族がつくった掟なんかにしたがうことはない」


逃げの方針をレブンが続けるとしても、シタデルと戦う日は絶対にくる。

上級貴族がどうだかしらんが、ぬるい権力志向に従うのはアホだ。

そのまえに。むざむざ、やられる前に、地上に降りてやる!


時間との戦いといえるが俺はまだ5歳。

何年かかるかしらんが、いまのところ時間は味方で、修行タイムはたっぷりある。

いつまでも、揺れる高台に乗ってられるか。


「文字。バレなければいいんですよ。ね?」

「うーむ。理屈が通ってるような、屁理屈のような」


屁理屈です。


「むかしは侯爵で……上級貴族に返り咲く。ことばの響きがいいな。ルミナス。ぼくに文字をおしえてくれるか」

「はい。やりましょう」


自問自答のトマトにうなずく。


「もじって、ルミナスがやってたやつでしょ。たのしくなさそう」

「文字が読めればレシピが書ける。美味いお菓子がつくれるようになるよ」

「そうなの? ならやる!」


「もじっておいしい? おいしい?」

「上級貴族になれば、お腹いっぱい美味しものがたべられるよ」

「やるー!」


うっし。全員の引き込みに成功。サンガリが頭をかかえてる。

なるようになるかと、言い捨て、農作業にもどっていった。

最近種をまいた畑の畝に手をかざし、「【促成】!」と唸ると、地面から芽が出る。

早回し動画のように、小茄子の花が咲いた。


これは……


「す、スキルじゃないですか 【植物】で?」

「そうだが?」

「スキルには文字が。父上読めないって」

「読めるといったと思うが。ところでなぜスキルと文字の関係を知っていた? スプラード嬢に教えられたか」

「そ、そうですね」


チネッタから聞いたなんて、言えない。あれ?

なんで、メイドのチネッタが知っていた。

どうやって、スキルをゲットしたんだ。





「ぼーっとしてないで、教えてくれ。”小路で迷子になる”はこう書くのか?」

「あ、はい。それはですね……」


一人静かに勉強していたリビングが、兄弟たちでにぎやかになった。

意外と、いいものかも。



ぶくま、いいですねー。

下から登録できますよ。


ぼくも、ブクマは多いです。

数えてないけど、100は超えてるかな。

読み切れないので、減らしてますが。


あ、ぶくま、下からできますよ。

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