2 転生した?
どくっ
どくっ
どくっ
鼓動を打つ心臓の音。目を開けると見知らぬ風景。
子供たちが囲んで見下ろしてる。あどけない、どころか、小学生から幼児の4人。
「おきたー!」
「おっきた、おきたー」
女の子と、男の子が叫んだ。
「おめーなんで、落ちんだよ。いつも登ってるのに」
「ったく、オレが押したみてーになってるだろうが、枝、ちゃんと握っておけよ」
大きな男の子、二人が、言いながら俺を担いだ。
担いで、どこかに運んでいく。子供がだ。大人の俺を。
頭がまわらない。力もはいらない。ここはどこだ。この子らは。
最後の記憶をたどる。彼女のからのメール。それに岩と波しぶき。
そうだ。俺は鉄橋からバンジー落下したんだ。
ここはどこだ。
たしか、旅行に選んだのは、さびれた観光地だ。山の奥に温泉宿が数件あるだけの、かつては駅のあった。目玉のない観光地。
谷に落ちた段階で、助かる見込みはない。もう、命はないと、走馬燈の中でも諦めたと記憶してるだ。流された先に、拾われたのたのだろうか?
衣服は濡れてない。
ゆっさゆっさ、揺れる背中。迷路みたいな石造りの狭い路を、子供たちは歩いていく。
「言ってきた、あとからくるって」
「ありがとトマス。先生、いるかな?」
「隣領にいってるかも」
「となりか、そんときや待つさ」
「ったく、ほっときゃいいんだよマルス。落ちたこいつが悪いんだからさ」
「そういうなって、怪我でもしてたら、たいへんだろ」
「ちっ」
イテ。トマスと呼ばれた子供が俺の足をたたいた。
痛いと感じるのはいいことか。この子たち、みんな髪の色が黒じゃなくきれいなブロンド。瞳は青。人形のような整った顔立ち。キレイすぎる。不細工な純日本人な俺にはまぶしすぎた。
目的地についたらしい。建物にはいる。大人がでてきたが、会話から、このひとが医者ということがわかる。白衣を着てない。そもそも病院ではない、地方の診療所だって、ここよりは100年は進んでる。
「木から落ちたんだって。ベッドに寝かせて……うーん。手足は折れてないな」
マスクもせず、消毒もない、子供たちも一緒の部屋で寝かされた木のベッド。腕や足を触られ、キズや痛みがないかを確かめていく。
さて。触られた手や足に驚いた。小さいのだ。触感があるので、たしかに俺の一部。引っ張られれば引っ張られる感覚があり、さっきも、痛みを感じた。思いのまま、握ったり動かしたりもできる。だがこれは……子供の、いや幼児の手だ。どうみても。
「………………?」
どうしたっていうんだ。なにがおこってる。考えろ。
俺は落ちた、それは間違いない。
それから、どうなった?
死んでないのなら流され、下流で引き上げられるのが普通。
そのとき、子供になるって現象はどうなんだ。
いくつか、ありそうもない回答を含めて列挙する。
1 じつは、観光地には西洋風アトラクションがあった。
2 俺の夢の中。昏睡状態で生死をさまよってる最中
3 5感VRマシンの被験者にされてる
4 異世界転生
「……2が、一番ありそうだ」
ばたん、どかん、ぎゅーっつっつうう!
シルバーグレイの何かが、診察室に飛び込んできた。
「ルぅミぃナぁスぅぅぅぅ!!!!!」
「いでえぇぇぇ」
それは、これまで聞いたことのな大音量で、叫びながら、むんずと、ベッドの俺をかかえ上げる。そして、力のかぎり、抱きしめられた。
「おお。かわいいルミナス、母さんが目をなはしたせいね。ごめんね。木のてっぺんから落ちて死にかけるなんて、なんて、不運な我が子だろう! もう話さないからね。ご飯も、寝るときも、トイレだって、いっしょについていってあげる。死なないでぇ!!!」
部屋の奥に鏡があった。そこに写っていたのは女性と幼児。シルバーのロングヘアの女性と、抱きしめられて青い顔をしている、同じくシルバーヘアの幼児だった。
し……死ぬる。
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