1 転生のいきさつ
バンジージャンプの、ゴムが切れた。いや、付いてない状態でジャンプした。
オレはいま、渓谷の底へむかって、絶賛落下中だ。
なぜ、バンジージャンプか。
社員旅行にねじ込んだからだ。4年後に大学を卒業すれば、次期社長となる俺が。
イベント会社にわざわざ依頼し、温泉旅館から歩いて2キロの、バンジー設備のない、廃線鉄橋で、執り行うことにしたのだ。
高齢者と若手女性からなる建設会社だ。非難ゴーゴー。温泉だけで十分でしょう! という意見。そうですねーと、強硬。鉄橋のふちに来ただけで、みな帰ると言い出した。
「たのしぃぞ……。ほ、ほれ、ぐ、ぐあああぁぁぁ……あーはっはっはー、やっほー」
手始めに跳んだ現社長(俺の父親だな)が、それはそれはすばらしい解脱の笑顔をみせてくれた。それをきっかけに、社長がとぶならと、次々に跳んで、いった。
イベントは成功といえる。俺は満足した。
高い場所が好きなのか?
大嫌いだ! 高所が好きという人間の神経を疑う。子供のころ、建築中の高層マンションから落ちかけた。あの恐怖ったらない。それ以来、2メートルを超える高所とは縁をきってる。橋を渡るのさえ拒否。高校は、どんな近所でも、バスや電車になる。通わないときめた。
だが、行きたい大学が近場にあったので、高校認定試験を受けることに決めた。
そして合格。無事、この春から大学へ進学することに決まったのだ。
高いところの嫌いな俺は、だからこそ、落ちたときの対処は完璧なものにしたいと考えてる。中学の部活は柔道部を選んだ。”受け身”を体得すれば、落下から身を守れるときいたからだ。ダムから落ちても、受け身をとれば死なないと、柔道部のヤツの言葉を信じた。
なんでバンジーかという話だったな。
みんなが高校に行ってる時間を、高校認定試験の勉強にあてたのだが、暇な時間があった。せっかくなので落下対策を強化対策にあてがった。徒歩5分の警察署へ出向いて、柔道を習うつもりだったが、道場へ通じる廊下で、勧誘にあった。太極拳を習わないかと。
警察で太極拳かよ思ったが、剣道と柔道だけでなく、多数の武術を推奨してるのだと。ムエタイ、ボクシング、なんと詠春拳もある。人気ないのが太極拳。老師に生徒一人。年寄りの健康体操のイメージだからな。
勧誘してきた女性が彼女。俺の思い人となった。
谷底が近づいて来てるんだが、妙に時間がゆっくりと感じられる。走馬燈ってやつなんだろう。高さ30メートルに足りない鉄橋のくせに、ふり返る時間満載だ。下にゴロゴロみえる、でかい岩が。急流の波がはじけ、雫となって、まばらな草にふりそそぐ。
体のどこが、どの岩に衝突しても、落命絶命は、免れなさそう。
せめて痛くないように……。
彼女は俺より3つ歳上。警察でも、転職の多いキャリア組とかで、去年、警視庁に異動となった。しょっちゅうメールをやり取りしてたが、3月前こんな連絡があった。東京スカイツリーの展望台で待ってるから絶対来てね、と。
俺は思った。これはエール。高所恐怖症を克服して合いに来いというエールだ。逢いたいなら、心の障害くらい軽く飛び越えてこいという、強いメッセージ。そしてきっと、逢ったときは以前はできなかった、あんなこともこんなことが……。
その日から、高所恐怖症克服キャンペーンを展開。128段階の、メニューを考え、乗り越えた。その最後の仕上げが、このバンジージャンプ。見事とべたなら、俺は千歳空港から飛行機に乗って、スカイツリーの彼女を押し倒せるはずだ。
バンジージャンプは、好評。恐怖の引きつりで跳んだ社員は、だれもが、満足な釈迦破顔でもどってくる。解脱だ。
俺のばんになったとき、メールが届いた。彼女から、写真付きで。
「なんでこなかったの? べつにいいけどぉ」
は?
写真には、見知らぬ男に腕をからめる彼女。男というより、あどけなさの残る少年。
背景は、いうまでもない。スカイツリーの展望台と思しき空間だ。
俺はすべてを悟った。
だましたな…………。
「はい。キミの番ですよー。これ着けて」
「……跳ばない」
「はいはーい。みんなそう言って楽しく跳んだんだよ。今度は、キ・ミ・の・ば・ん」
「いや、俺は、俺は、お、お、ぎゃあぁぁぁっぁ!!」
読んでくれて、ありがとうございます。
やっと投稿できました。
なるべく、こまめに投稿していくつもりですが。
どうなるでしょう。
いまのところ、22話までできてます。




