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13 捨てられた少女

13 捨てられた少女



「迷いのダンジョンって、これがか?」


歩くこと5分。ダンジョンは一本道。枝分かれはないし、十字路も見あたらない。


魔物もねぇ。仕掛けもねぇ。宝をさがしてぐーるぐる。

落とし穴、恐がって、ビビった腰が情けねぇ。

スライムねぇ。ゴーストねぇ。

おらの迷路にゃ、迷いがねぇ!


そんな感じで。鼻歌うたって進む。

出口の光がまぶしくなって、なんだゴールかよと、タカを括ったとき。

突如、通路が終わりをつげた。


「森の中?」


いきなりだった。木のまばらな森というか、樹木の混んでる林というか、うっそうとはしてないが、先が見通せないくらいに植物だらけ。自然のど真ん中に、突っ立ってるのだ。


閉鎖空間から天然の森。

激しいギャップが受け入れられずにふり向いた。

ダンジョンが無くなっていた。


「うそだろ」


いままで居た場所が、消えるって。

道でもトンネルでも、いつかは終わるし途切れることもある。

始まりがあるから、終わりもくるからな。

それは当然だが、霧散は違うだろ。


「新鮮すぎる初体験だな」


きっとあれだ。光学迷彩とやらで、光を屈折させてんだ。

確認しようと、手を伸ばして探った。


何もねぇ。


指先はぼやけずくっきり見えてるし、触れたような感触もない。

ぼやっとした湿気も、熱い寒いの変化も。

静かに森がたたずんでるだけだった。


手を伸ばしたまま3歩もどった。ダンジョンは再登場しなかった。


「抜けたってことで終わり。いいのかな」


つまんない幕引きだ。真っ正直に歩いていたら、森という出口についた。

ダンジョンとやらが消えたように感じたのは、俺の錯覚。

トンネルを抜けてからも、しばらく歩いてたんだろう。


きっとそうだ。うん。

町にもどろう。戻って、親父たちに合流しよう。

警察が捜索がしてるかもしれないし。


「で、どっち行けばいいんだ?」


道がない。道らしいものも見当たらない。

四方は森。右も左も、植生に大きな違いが、見受けられない。通ってきたトンネル――少女が”ダンジョン”と呼んでた閉鎖空間――は、この方向。だと思ったが、反対だったかもしれない。疑わしくなってきた。


そもそも、あのダンジョン、実在したものだったんだろうか。

記憶が信じきれない。これは良くない兆候だ。


「ビルでも見えりゃ、そこ目指すんだけど。見透し悪すぎ」


ビルところか、道がない。右も左も、前にもだ。まわりと違ってるのは、足元。俺のいるあたりの草だけ、なぜか短く刈りそろえられてる。畳2枚くらいに。真四角に。


ここからどっちへいけばいいんだろう。

どっちへ向かったんだろう、あの子は。


わからないときは、”進む”に限る。

狭い日本、平地ならばいつか人里にたどり着く。

北海道は、バカみたいに広かったな。あてまらないかも。


あーもう。


ぐづぐず言ってもしょうがない。

迷わず行けよ行けばわかる!

踏み出せ!


1歩、2歩、3歩 ……………………はにゃ?


あまりのことがおこって、声が裏返る。

雑木林をかき分けようと、腕を伸ばしたとたん、視界を塞いていた木や草が消失したのだ。

刈りそろったスペースから足を踏みだしたら、ぽっかり消えた。雑木林は空間を埋めるオブジェに過ぎなくて、コマ()が進んだから取り除かれた、ように。


拓けた視界は畳2枚分くらい。立っていたスペースと同じ広さだ。

空間が倍に増えた。なんのこっちゃ。この現象って、趣旨はなんだ。わからん。


わからん連呼だな。さっきから。


「だが、わからーーーーーん!」


考えたところで、わからんことはわからん。

なので歩きだす。

2畳ほど進むと、視界がまた、2畳分広くなった。

合計6畳。RPGのマッピングみたいだな。


また歩く、またまたまた、視界は広くなった。

けど、違うことがおこった。新しい事例だ。


空間が8畳になると思ったいたのに、一番奥のが消えてしまったのだ。

合計は変わらず。縦長の6畳一間。謎の2畳消失事件だ。

ぼくの前に道はできるが、ぼくの後ろで道は消える?


8畳で契約した1LDKマンションが、じつは6畳でしたっつたら、怒るぞ。


「まぁすまぁす、わぁからあぁああああぁん!!」


腹たってきた。からかってんのか、この道は。怒りぷんぷんだ。

生まれてから、いろいろ迷って生きてきたけど、道にバカにされたのは初めてだ!

大股で歩き出すと、数歩いったところで、またまた視界が開ける。


はいはいわかってますよ。

一個増えて一個減るんですね……ん?


「道の真ん中に、板付き棒が立ってる」


新しい展開だ。1メートルほどの木杭に40センチ×30センチほどの木板が、打ち付けられてる。地質調査後のボーリング地点に残される標識板に似てるが。


「読めない。知らない文字だ」


日本語でない。どうにか読めそうな英語とも違った。

どこの国の言葉かも不明。すくなくとも漢字圏じゃない。


「曲がれとか戻れとかそんな指示だろうが、読めん。真っすぐだ真っすぐ」


継続する。つまり直進だ。何か罠っぽい感じだし。

こんなとき、あたふたするのが一番マズイ。

わからんときは、流れのまま。

それが正しい選択だと赤い人も言ってる。人は流れに乗ればいい。


直進&直進で、4度目の視界が開けた。新しいことはなにもない。

ここでも、モンスターが現れた!なんて展開は無し。

背後の下生えスペースも、そのまま変化なし。

確認した背後もあいかわらずだ。


ほぉらな。


左にはワナがあったかもしれない。右には魔物がいたかもしれない。

従わないのが正解なんだよ。べろべろバー、だ。

続行していこう。



直進で視界が開ける。直進で視界が開ける。看板の登場。

無視。

直進で視界が開ける。直進で視界が開ける。直進で視界が開ける。看板の登場。

無視。

直進で視界が開ける。直進で視界が開ける。直進で視界が開ける。看板の登場。

無視。

直進で視界が開ける。直進で視界が開ける。直進で視界が開ける。看板の登場。

無視。

直進で視界が開ける。直進で視界が開ける。直進で視界が開ける。看板の登場。

無視。

直進で視界が開ける。直進で視界が開ける。直進で視界が開ける。以下同文…。


「ループかっ!」


誰に言ってんだが自分でもわからん。わからんが、折れないと許されない一択っぽい。

看板文字はいつも同じ。文字というより暗号またはなぞなぞ文か。そう考えると、読めそうな気がするから不思議だ。見れば、数字とわかるような字もある。


看板は現れるタイミングは、エリアが3回進むごと。この字が数字の3だとすれば、こいつは左か右を表す文字。後退ってことは、ないだろう。


なにかに負けた気がするが。

俺は、左を選んで足を踏み入れた。

景色が変わった。


四方の景色が新調される。植物の生え方や並び順や種類が、変わったのだ。更新といってもいいかもしれない。これまでの直進は、進んだ分を同じ景色が繰り返していた。古いゲームなんかの、使いまわし背景Aが、Bパターンに切替わったって感じだ。


また、2畳を1面とするなら、さっきまでは自分を軸に合計3面。それが1面に減った。足元は変化なしの、刈り揃えたサッカーグラウンドのような芝生で。


迷わせてくれる。

謎をとかなきゃ脱出できないってか。なるほどこれはダンジョンだ。

面白くなってきやがった。





「しくしくしく……」


変化は植生だけじゃなかった。そこには、泣き崩れる少女がいたのだ。

こちらに背を向けて、まだ俺に気づいてない。


「ブランチェスは、この場にて息絶えるようです。迷いの森に捨て置かれたこと、自らに課せられた苦難とは存じても決して恨むものではございません。この身が果てた暁には星となり天よりスプラード家の繁栄を見守りましょう。どうかみなさまご健創で」


物騒な鋏を抱きしめながら涙している、見知った人物。

さっきの、颯爽とした威勢は、どこいった。

ほっといたほうがいいのか。一声でもかけたほうがいいのか。


ほっておこう。謎解きを優先すべきだ。

あれはあれで、自力で脱出するだろう。


そろり、そろり、ペキッ。

小枝だった。なんでこのタイミングで踏むんだ俺!


「あああああ! ひどがいるぅ!魔物じゃない、ひどだぁぁ!」


気づかれたっ。ふり向いたその形相に、おもわずビビった。

退がる暇も与えず、案内人(仮)がしがみついてくる。

あらゆる液体を、目鼻口から、だらだら垂れ流しながら。


「ゾンビか! よだれ、きたない。くっ付くな」

「話す!動く!人だ! もっとしゃべって! ぶって! 蹴って! この、ぷにぷにした感触!生きてるって最高!」


この女の子に、いったいなにが起こった?




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