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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
奈落の麗姫編
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第二十九話「天地合乃敢與君絶」前編

挿絵(By みてみん)

 第二十九話「天地合乃敢與君絶テンチガッシナバアエテキミトタタン」前編


 十一月、某日――


 「十三院(じゅそういん) 十三子(とみこ)以下二名、勅命に従いこれより日向(ひゆうが)へと向かいます」


 玉座に座した俺に向け、銀縁眼鏡(めがね)の美女が凜々しい鎧姿で敬礼する。


 彼女の後ろには――


 三つ編みの”女剣士”三堂(さんどう) 三奈(みな)と”女槍使い”六王(りくおう) 六実(むつみ)の姿が在る。


 「あはっ」


 「……」


 俺と目が合った三つ編み剣士は愛想良く笑って小さくひらひらと手を振り、正反対に終始において生真面目(きまじめ)な槍使いは背筋をキリリと正したまま。


 そのどちらもが、十三子(とみこ)と同じく鎧姿で万全の様相であった。



 「ああ、合流(そっち)の方は頼んだ。現地での全てを任せると、有能過ぎる司令官殿に伝えておいてくれ」


 これは臨海(りんかい)軍内でも最上位階級に就く者にしか知らされていない作戦だ。


 目前の十三子(とみこ)には二千程の兵を任せ”(あかつき)”西方にある日向(ひゅうが)の地へと密かに出兵させるよう手筈を整えていた。


 それで全ての準備が整った本日、彼女はこうして俺に挨拶しに来た次第である。


 「(たまわ)りました。必ず陛下の御期待に添えるよう、粉骨砕身して事に当たります」


 真面目(まじめ)な彼女らしい言葉を残し、深く頭を下げた三人は去って行った。


 ――


 そして俺は三人を見送った後に、ふと隣に視線をやる。


 「…………で?お前はさっきから”そこ”でなにをしているんだ?」


 玉座に腰掛けた俺の横には……


 クロスワード本とにらめっこしている美少女がひとり。


 「う……ううん……むむ……」


 声をかけてみるも――


 本来なら妃が座する場所にて美少女は難しい表情(かお)(それ)に向き合い、時折”ううん”、”ええと”などと呻き声を漏らすだけである。


 「無視かよ。てか、さっきからずっと考え込んでる割には筆の方はずっと御休憩だな?」


 「んん……」


 俺の嫌みに一瞬だけ白金(プラチナ)の銀河を向ける、悩める美少女だが、


 「ええと……お腹すいた?」


 ――おいおい、一問たりとも解けずにもう燃料切れか?


 ――燃費悪いな、このポンコツ娘は……


 とはいえ、


 そのクロスワード雑誌は俺用の超上級者向けであるから”雪白(ゆきしろ)”にはちとレベルが高いだろう。


 「七子(ななこ)におにぎりを……」


 「七子(ななこ)さんは忙しい。てか、俺が色々と用事を任せている」


 「ずる……」


 「くない!!俺のは仕事だ!お前みたいにゴロゴロと遊んでいるわけじゃ……」


 ――いや、そうでなくて


 「(そもそ)も、お前は”そこ”で”なに”をしているんだ?」


 そう、俺が追求したいのはそっちだ。


 「ううんと……」


 思い出したように状況を問う俺に彼女は……


 「皆がクソ忙しいこの時期に、この白金(プラチナ)の見目麗しきお嬢様は飯食ってゴロゴロかよ、何様だ?」


 嫌みいっぱいにそう言う俺の言葉に美少女の白金(プラチナ)の瞳が輝いたのだった。


 「”お嫁様”だから?」


 クロスワード本越しにチラリと、煌めく白金(プラチナ)双瞳(ひとみ)を向けて答える美少女。


 「…………」


 ――いやいや


 「だから……」


 過日の”納采の儀”での婚約者の”代役”。


 雪白(かのじょ)はその事を言っているのだろうが……


 あの時は武術素人である京極(きょうごく) 陽子(はるこ)に代わって、我が(りん)(かい)でも最強の剣士であるこの久井瀬(くいぜ) 雪白(ゆきしろ)に襲撃者の対応を任せた。


 だが雪白(ゆきしろ)は未だにこうして俺の傍に居続けている。


 「その設定はもう終わっ……」


 「これ」


 俺が言い終わる前にスッと白い刀が、美しい白漆の鞘尻が俺の眼前へと差し向けられる。


 ――なんだ?


 意味がわからずそれを見る俺に、


 「これ、だよ」


 ――これ?


 ――なにが??


 益々意味不明だ。


 だが、精巧な飾り細工の施された白漆の鞘尻を俺の顎先へと向けて突きつけた美少女はそう言ったままジッと俺を見据えていた。


 「ああ、あの時、切羽詰まってたから鞘を投げて傷を付けてしまったな、悪かった」


 「…………」


 ――いや、多分……


 話の流れから雪白(ゆきしろ)の言いたいことはそれでは無いだろう。


 「そうじゃなくて、ううんと」


 ――いや、なんとなく(さっ)してはいる


 「…………」


 あの”納采の儀”での、伝統(ふる)い儀式の事を彼女は指しているのだろう。



 ――王たる者が正妃を迎えるにあたり、その権力の象徴である刀で生涯守護する


 ――そして王妃たる者はその刀を受け取り、王の権力に生涯服従する



 それらを世間に表明するのが”納采の儀”だ。


 ――ふぅ……仕方ない


 「実際に刀を受け取ったのは雪白(わたし)だと言いたいのか?」


 アレは飽くまで代役だろうと俺は諭そうとする。


 「でも……交換した」


 納刀した刀尻を向けたままの恰好で、そう付け足す雪白(ゆきしろ)


 「交換した?……お?おお?って!”そっち”かっ!!」


 俺は彼女の手前勝手な想像力に虚を突かれる。


 ――た、確かに、指輪の交換っぽいけどな……


 「それにしても刀だろ?それも状況的に刺客と戦うためにお互いの刀をテレコにしたままだっただけで……」


 あの時はお互い強敵と対峙していたため、俺も雪白(ゆきしろ)も、自身が愛用する刀を交換する暇が無かった。


 だから、儀式に使った俺の小烏丸(こがらすまる)は受け取った雪白(ゆきしろ)が、


 手ぶらだった俺は、会場に隠していた雪白(ゆきしろ)白鷺(しらさぎ)(なな)()さんから受け取って使ったのだが……


 「お嫁様になる儀式(やつ)はわたしがして、交換もしたよ?陽子(はるこ)じゃない」


 「いや、だから指輪の交換みたく言うなよ、それも……」


 「わたしはさいかの小烏丸(こがらすまる)で、さいかはわたしの白鷺(しらさぎ)で……だから……」


 「……」


 多分、その理屈は無理矢理だと、さすがの雪白(ゆきしろ)も理解しているのだろう。


 「さいかは……王様で偉いから、お嫁様が何人いてもだいじょうぶだって、弥代(やしろ)が言ってた」


 ――くっ!あの”常時(エブリバディ)気怠げ女”


 ”宮郷(みやざと) 弥代(やしろ)”は本当に場を引っかき回す女だ。


 「だとしても、なんで……」


 雪白(ゆきしろ)が俺に気があるのは気付いていた。


 「…………」


 だが、それでもなんでそこまで……


 「”さいか”だから」


 沈黙した俺の意図が解るとばかりに雪白(ゆきしろ)はそう応える。


 「俺はそんなことが出来る立場じゃない」


 ”そんなこと”


 そうだ、俺の本願を考えると鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)という人間は本来なら結婚など……


 「陽子(はるこ)は?良いのに?」


 ――それは……


 「…………」


 京極(きょうごく) 陽子(はるこ)との戦いに決着が着いた尾宇美(おうみ)であの時――


 俺は陽子(はるこ)に全てを話し、そして助けを求めた。


 「……」


 自分でも矛盾しているのは理解している。


 だが俺は陽子(はるこ)にだけは”それ”を願おうと……


 尾宇美(おうみ)決戦のもっと(まえ)から、それこそ出会った瞬間(とき)から……


 ”京極 陽子(かのじょ)”にそれを望んでいたのだろう。



 ――”非道(ひど)い男ね”


 陽子(はるこ)の言葉は確かにその通りだ。


 それも惚れた女に……


 いや、それだからこそ。



 「……」


 本当に始末に負えない情けない男だ。


 「……」


 ”鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)”は見苦しく彼女に(すが)るわりに幸せな結末(ハッピーエンド)を用意してやれない。


 ”鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)”は愛する女に幸福を与えられない。


 「……」


 それは――


 俺が(かつ)て自らの呼称を”最嘉(もりよし)"から“最嘉(さいか)”に変えた理由通り……


 「……」


 "なかなかハンサムだし俺の若い頃によく似ているよ”


 何時(いつ)ぞや幾万(いくま) 目貫(めぬき)が俺に言った通り……


 「……」


 つまりそれは全てが計画通り、俺の思うとおりに進んた後で、


 俺が……俺を……


 その後を陽子(はるこ)に任せるための……


 「……」


 矛盾していようと、理不尽だろうと、


 この瞬間も”本願”を求める限り鈴原(すずはら) 最嘉(さいか)は――



 ――ちっ!



 「陽子(はるこ)は特別だ」


 「……」


 一瞬、それと解るように白金(プラチナ)の銀河が揺らめく。


 ――嘘は言っていない


 ――が


 俺はわざと雪白(ゆきしろ)を傷つける言い方をした。


 ――


 「うん、そうだね。けど、わたしの特別は”さいか”だけだよ、ずっと」


 「…………」


 俺は応えなかった。


 雪白(ゆきしろ)に似合わない、雪白(ゆきしろ)らしい健気な言葉だ。


 ――


 スッと刀を退き、彼女は立ち上がる。


 「ゆきし……」


 「おなかすいたぁぁ」


 ――は??


 「先にね、お願いしといたから、七子(ななこ)がおにぎり握ってくれてる」


 ――おいおい……


 「さいか、大きな戦争を始めるんだよね?だったら、腹が減っては……」


 さっきまでの真摯な瞳はどこへやら、


 白金(プラチナ)の美少女はいつもの腹ぺこ天然娘に戻って――


 「へっては……ええと、へっては……ううん?」


 「おい……」


 何が言いたかったのか、なんのつもりか、


 それらの謎を残し、頭から湯気を出す天然娘。


 ――だいたい、そんなに悩むほど難しい(ことわざ)じゃ……


 「ああ!腹が減ってはご飯が食べられない!って!!」


 「(いくさ)はできないだっ!!」


 ――どんだけ食う気満々なんだ、この娘は……


 「う……そうともいう」


 ――そうとしか言わない!


 「…………う……ん」


 不本意ながらツッコミを入れる座ったままの俺に、スッと白い指先が伸ばされる。


 「難しいことを頼めるのは陽子(はるこ)かもだけど、陽子(はるこ)はね、むりだよ」



 差し伸べられた白魚の如き指先の向こうで、輝く銀河の双瞳(ひとみ)が俺を見詰めていた。


 ――なんだ??


 「最後まで一緒なのはね、さいかの傍に居るのはね……」


 白金(プラチナ)の騎士姫は――


 「わたしだって、わかってくれたらそれでいいの」


 そう言って淡く微笑んだ久井瀬(くいぜ) 雪白(ゆきしろ)の姿は、いつもより儚く白く……


 まるで白朱頂蘭(アマリリス)のようで――



 「雪白(おまえ)、一体なんの話を……」


 「…………」


 ――


 「失礼致します。仰せつかっておりました軽食をお持ちしました」


 そこへ(なな)(やま) (なな)()が皿に並べられた数個のおにぎりを持って現れた。


 「わぁぁぁ!」


 全てを断ち切って即座にそっちへと走り寄る栄養不足な白朱頂蘭(アマリリス)


 「お、おいっ!」


 「もぐもぐ……」


 思わず叫ぶ俺を無視して皿の上からおにぎりを両手に、既に白い両頬いっぱいに頬張る美少女。


 「くっ……」


 「あ、あの、お取り込み中でしたでしょうか?」


 俺の仏頂面を確認し、申し訳なさそうにする(なな)()


 「いや……」


 流石のスーパー給仕女(メイド)である(なな)(やま) (なな)()でも今回の状況は(さっ)しようがないだろうと、俺は軽く右手を挙げて……


 「なふでほないほ、もぐもぐ……ん……ごっくん!……ええとね、”キズモノ”にされた”せきにん”をね、とってもらう話をしてただけだよ」


 そう言って鞘入りの(しら)(さぎ)を掲げる、空いた手には三つ目のおにぎりを掴んだ雪白(ゆきしろ)


 「…………」


 途端に視線温度が急激に下がった給仕女(メイド)が俺を見る。


 「いや!ちがっ……って!おおぉぉぃ!!勘違いっ!その言い方!勘違いされるからっ!!」


 第二十九話「天地合乃敢與君絶テンチガッシナバアエテキミトタタン」前編END

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