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魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-  作者: ひろすけほー
独立編
22/336

第十七話「真琴と勿体ない主人」後編(改訂版)

挿絵(By みてみん)

 第十七話「真琴(まこと)と勿体ない主人」 後編


 「……まぁいい、何ともならない場合は(りん)(かい)の残兵を連れて日乃(ひの)に撤退しろと言われてるしな、その位ならなんとかなるだろう」


 「熊谷(くまがや)様!訂正してください……最嘉(さいか)さまが」


 「あーーはいはい、アイツは勿体ない主人だよ……”もったいないオバケ”だよ」


 「そうでは無くて!熊谷(くまがや)様に泣いて(すが)ったってところです!最嘉(さいか)さまはそのようなみっともない事は決してなさりません!」


 「!って、そこかぁ?」


 「……」


 私は更に真剣な瞳で目の前の偉丈夫を睨んだ。


 「確かにアレは出任せ、軽口だが……でもな嬢ちゃん、俺は、お嬢ちゃんの為で、それしか選択肢が無かったら、最嘉(ヤツ)はそうすると思うがな」


 「……そ、それは」


 熊谷(くまがや)様からの予想だにしない言葉に、私の顔はボッと熱を帯びた。


 「……それは……最嘉(さいか)さまが……おやさしい……から」


 蚊の鳴くような声でそう呟く私……


 ――ガタッ!


 「!」


 「なに?」


 ――ガタガタッ……


 先ほど熊谷(くまがや)様が作った瓦礫の山……それが音を立てて崩れる!


 ――ガラララッ!


 「……貴様……誰だ?日限(ひぎり)……のだと?」


 そしてその下から現れた男は……

 そう言葉を発しながら剣を片手にこちらを見据えていた。


 「なんだ?まさか生きてるのか?……てっきりバラバラの木っ端みじんになったとばかり思っていたがな……」


 熊谷(くまがや)様が崩れた瓦礫の方を睨み、自身の身長ほどもあろうかという雑な作りの大剣(もど)きを構えていた。


 「……完全なる不意打ちとはいえ、この俺を退けるとは……多少は驚いたぞ、日限(ひぎり)熊谷(くまがや) 住吉(すみよし)……でいいのか?」


 「……おまえ……まさか”十剣”か?」


 瓦礫の下から姿を現した男は砂埃で汚れてはいるが、傷という傷は負っていない。


 「十剣が一振り、阿薙(あなぎ) (ただ)(たか)……」


 そして、熊谷(くまがや)さまの問いかけに薄く微笑(わら)って名乗りを上げる。


 「……俺は熊谷(くまがや) (すみ)(よし)で間違い無いぜ、”鬼”阿薙(あなぎ)さんよ!」


 相手が何者か察しがついた偉丈夫もニヤリと武骨な口元を吊り上げる。


 「ふふ……今日は僥倖だ、中々に楽しめる戦場に巡り会えた」


 阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)は剣を構えて僅かに腰を落とす。


 「……」


 正面に立つ熊谷(くまがや)様は……その表情から既に笑みは消えていた。


 「では(あっ)(さつ)(おう)とやら…………参る!!」


 ――ダッ!


 鋭い踏み込み!


 数メートルの間合いを一呼吸で詰める鬼神の足裁き……


 でも……関係無い。


 ブオォォォォォーーーーーン


 (くま)(がや)様が振るう大剣(もど)きには小賢しい速度も技術も関係無い!


 だって……それは……あまりにも雑で、あまりにも常識外れな膂力の前では……


 ガシィィィィーーーーー!


 その場の空気を根こそぎ鷲づかみにして振り回したような傍若無人な剣風!

 当たったのか、当たってないのか?……どちらにしても吹き飛ぶ相手。


 「オラよぉぉぉっーー!」


 追い打ちで振り回される巨大であまりにも雑な鉄の塊!


 ズバァァァーーー!


 「ぐぉっ!」


 「!?」


 一瞬だった……


 吹き飛ばされた様に見えた相手が反撃し、熊谷様の脇腹を斬りつけていた。


 「良いぞ……圧殺王、なかなかの豪勇ぶりだ……呼び名に見劣りしない」


 血のついた剣を払って笑う鬼……


 「……てめぇ」


 脇腹付近から血を溢れさせる熊谷(くまがや)様は、大剣を担いだまま傷口を押さえることも無く、鋭い眼光で相手を睨んでいた。


 一瞬……

 吹き飛ばされた様に見えた阿薙(あなぎ)の下半身は、実はしっかりと大地に根を張っていて、思い切り仰向けにのけぞった上半身は剛剣が過ぎ去ると同時に跳ね上がった。


 そう……まるで地面に固定して立てられたバネが弾かれて元の位置に……

 いいえ!反動をつけた分、敵の懐まで一気に浸食する勢いで。


 ――そして無防備な脇腹を一閃した


 「熊谷(くまがや)……さま」


 斬られた場所が悪い……横腹(そこ)は……血が止まらない。


 「えっ!」


 熊谷(くまがや)様の斬られた腹部から溢れていた血はいつの間にか止まっている?


 いいえ、そもそもこの偉丈夫は一度も傷口を気にすることさえ無く目の前の敵を睨んでいる。


 強靱な筋肉を収縮させ……出血を防いでいるとでもいうの……


 だとしたら、なんてデタラメな……剛体(からだ)……


 「常識が無いな圧殺王……日限(ひぎり)の片田舎ではそれが普通なのか」


 阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)(わら)いながら言う。


 「てめえ、日限(ひぎり)をどんな異境だと思ってやがる……この羅刹が」


 熊谷(くまがや) 住吉(すみよし)の頑強な口元にも笑みが浮かんでいた。


 ――鬼阿薙(あなぎ)……

 ――圧殺王……


 名は体を現す……

 私の身の回りは化け物ばかりだ。


 「興味がわいた、それならばありとあらゆる箇所を切り刻んで、それがどんな身体(からだ)なのか確認してみよう」


 そうして阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)は剣を構え一歩踏み出した。


 「やってみろよ、鬼ッコロが!」


 熊谷(くまがや) 住吉(すみよし)が威圧感が尋常で無い大物を頭上に大きく掲げて迎え撃つ。


 ーー


 ー!


 「将軍!阿薙(あなぎ)将軍!!」


 張り詰めた空気を破ったのは一人の天都原(あまつはら)兵士の叫び声!


 「……」


 「……」


 当の二人は睨み合ったままだ。


 「将軍!大変です!本営から!閣下からの緊急指令が……」


 ――!!


 途端に駆け寄る兵士を無言で睨み付ける阿薙(あなぎ)


 「あ……」


 兵士は立ち止まり、ビクリと身体(からだ)を硬直させて青くなる。


 「も、申し訳ありません!!お許しを……」


 阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)の形相も無理も無いだろう。


 ここは戦場只中……あまつさえ敵将の目の前だ。

 そんなところで自軍の報告など……見たところあまり朗報では無いようだし。


 「……ぅぅ……」


 とはいえ、恐縮して震え上がる兵士は、まるで戦場で敵と対峙している方が何倍もマシだというくらい萎縮している。


 「……完結に用件だけ述べよ」


 阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)熊谷(くまがや)様に向き合ったまま、目線も向けずにそう言った。


 いらぬ事には触れずにということだろう。


 「は、はい……撤退を……!いえ、今すぐに撤収をとの命令であります!」


 「!」


 阿薙(あなぎ)の鋭い眼が僅かに開いた様に見え、彼は……静かに剣を下ろした。


 「……なんだ?()めるのか?」


 「……是非も無い……圧殺王、貴様との決着はとりあえず次回以降だ」


 「ほう、だが、俺がすんなり行かせるとでも?」


 ――ザッ!


 熊谷(くまがや)様が言い終わる前に、阿薙(あなぎ) 忠隆(ただたか)は背を向けて去って行く。

 何人かいた天都原(あまつはら)兵士達も同様だ。


 ーー

 ー


 「……ちっ、面白みの無い野郎だ……が……」


 「熊谷(くまがや)さまっ!」


 目前の天都原(あまつはら)軍が去って行くと、熊谷(くまがや) 住吉(すみよし)はその巨体のバランスを崩して地面に片膝を着いていた。


 「……こっちの……事情もお見通しってか……くそ、今度あったらこうは行かんぞ……鬼ッコロめ……」


 額に脂汗を流しながら顔をしかめる大男。


 「傷が……深いのですね……直ぐに、九郎江(くろうえ)で……」


 「……世話になる……しかし……鈴原の野郎……今度はどんなイカサマ魔法を使いやがったんだ……まったく、鬼よりも天都原(あまつはら)よりも……一番得体の知れないのは嬢ちゃんのご主人様かもしれんな」


 「同感です、最嘉(さいか)さまは尤も優れたお方です……イカサマはいただけませんが、最嘉(さいか)さまの神算鬼謀は本当に魔法ですから」


 脂汗にまみれながら笑う大男に、私は苦笑いを返しながら、彼と一緒に……いえ、少し遅れて到着した兵士……たぶん熊谷(くまがや)様を()()に案内して来てくれた私の部下に伝えた。


 「木崎(きさき)、直ちに敵の退却の真偽を確認!それから熊谷(くまがや)様を九郎江(くろうえ)で手当、その麾下の日限(ひぎり)軍の方々にもお礼と休息の手配を……」


 「了解いたしております!ですから、真琴(まこと)様もどうか本城にお戻りになって手当を……」


 私を気遣う部下に私は首を横に振り、熊谷(くまがや)様の横から立ち上がった。


 「今はまだ十分安心できない、私はわが君から大事なこの九郎江(くろうえ)城をお預かりしているのだから……一通りの確認を済ませてしかるべき処置と対応を済ませた後で休むことにするわ」


「……は、はい……了解いたしました」


 不承不承といった感じで敬礼する木崎(きさき)


 そして片膝をついたまま私の横顔を眺める熊谷(くまがや)様。


 「……なにか?」


 「いや……嬢ちゃん、本当に別嬪だなと思ってな」


 「そうですか、ありがとうございます」


 特に何の感情も無い顔で、私は熊谷(くまがや)様のお世辞に返答した。


 「……ほんとに出来た家臣だ、別嬪だし……あの野郎にはもったいないな」


 呆れた様な、感心した様な……そんな声が耳に入ったけど……


 私は少しも気にせずに部下に指示を続けるのだった。


 第十七話「真琴(まこと)と勿体ない主人」 後編 END

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