桶狭間の戦い
第1章桶狭間の戦い1
清洲城下 広場
気がつくと夜が明けていた。
先日『今川義元上洛』の報を受け策をたてろと命じられた俺は領民達と夜通し策を練った。
「何とか決まりましたね」
一人の領民が言った。
俺は
「あぁそうだなでもこんな突飛な策成功するかな?」
「あとは信長様の運次第です」
「だな」
決まった策はとても突飛な物だった。
まず領民何人かを今川軍に潜り込ませ田楽狭間へ誘導するこれは案外簡単に行きそうだそしてそして俺たちは田楽狭間の近くにあると言う崖に隠れる田楽狭間周辺はよく知らないから領民を信じるしかない。そして今日雨が降るらしいその雨に隠れながら敵に突っ込みひたすら義元の首を狙う。義元の居場所を知る方法には少し考えがある。
「うしっ俺は殿に報告してくるじゃみんな作戦どうりに、武運を祈る」
そう言い残し俺は広場を去った。
清洲城 信長の間
「実に珍妙な策だな」
信長は俺から策を聞くと言った。
「はい、でも成功する確率は高いです」
「あぁその通りだいや絶対に成功させる…」
ばさっ
信長は立ち上がると
「猿、少し付き合え」
そう言って部屋を出た。
俺も信長の後を追い部屋を出た。
清洲城下 大通り
日は既に天頂に登り気温がぐんぐん上がっていた。
俺は信長と二人大通りを歩いていた。
大通りの人通りは相変わらず良い。
信長は行き交う人を見ながら言った。
「やはり城下は賑わっているな」
俺は
「それも信長様のおかげです」
「ふっ、そうだな、ここまで長かった…」
「まだまだですよ、まだまだ信長様の行く先は」
「あぁそうだまだまだ先だ」
「その為にも勝たないと義元に」
信長はすっと足を止めた。
俺は信長より少し前で止まり振り返った。
信長は
「俺はこの戦、民の為に戦う」
「民のため?」
「そうだここにいる領民達の為に…領民達は俺のどんな突飛な政策にも何も文句を言わず従ってくれた俺がうつけと罵られても領民達だけは俺の事を一言もうつけとは言わなかったそれどころか慕ってくれた…俺はそんな民達を守りたい」
それは信長が初めて見せた顔だった。
俺は信長に
「そう思ってるのは信長様だけじゃ無いですよ、民達もです」
「民達も?」
「はい、民達も信長様を守る一心で夜が明けるまで策を練り続けてましたから。民達も信長様以外を主君とする気はないんです」
「そうか、ならばなおさら守らねばな」
「はい、守りましょう」
信長はまた歩きだした。
信長はその背中で沢山の人の命を背負っている。
「俺も背負ってやれないかな…」
俺は小さく呟いた。
そして信長の後を追った。
俺は助けよう信長の背中が軽くように…
そして信長に道を示すために…
俺は信長に
「さぁ、行きましょうっ!」
そう言って信長の一歩前を歩いた。
「どうした?突然?」
そう言って信長は笑った。
翌朝
清洲城信長の間
俺は信長に呼び出された。
「なんですか?」
信長の隣には何やら大きな箱がある。
信長はその箱を前にだした。
「猿にこれをやろう」
そう言うと信長は箱を開けた。
箱の中には甲冑と武具が入っていた。
「これは?」
「俺が昔使っていた物だ。これを着けて今回より戦線に
参加しろ」
「え?俺がですか?」
「あぁそうだ。そろそろ良いだろぅ」
「いやまぁ良いですけど」
「よしじゃあ決まりだっ」
信長は勢い良く立ち上がると
「そろそろだな…」
と呟いた。
そして舞い始めた。
『人間五十年っ!下天の内をくらぶればぁっ!いと幻の如くなり
一度生をえて滅せぬ者もあるべきかっ!』
「出陣だぁっ!目指すは義元の首一つだぁっ!」
出陣を告げた。
桶狭間の戦いが始まるつか俺出るのか何ができるんだろ?俺に人を切れるのかな?
「猿っ!さっさと準備しろっ!」
信長はそう言い残すと部屋を出た。
俺も具足を身につけて後を追った。
部屋を出ると恒興ら数人の家臣に捕まった
恒興は
「藤吉郎殿っ!出陣というのは本当か?」
俺は
「本当ですよ!さぁ行きましょう!」
そう言って小走りで信長を追った。
熱田神宮
熱田神宮、この神聖な場で昼前から恒興の怒鳴り声が飛ぶ。
「殿っ!いくら出陣と言えどこの人数で何をするのですかっ!?だからいつもいつも少し待てと言ってるじゃ無いですか!」
「あー、分かった分かった、悪かった」
信長は勢い良く城を飛び出したは良いがついてきたのは30程度だった。
その為一度熱田神宮に寄り後続の部隊を待つことになった。
そのやり取りをぼーっと見ていると後ろから話しかけられた。
佐々成政、馬廻り衆から武功をつみ信長の有力な家臣に成長する利家とは犬猿の仲。この頃はまだ馬廻り衆。
「しかし何故こんな沢山の領民が?」
俺は
「あぁ、信長様の力になりたいって集まって来たんですよ」
神宮内には沢山の領民がご飯を作ったり掃除したりしている。
「なるほどなぁ」
そう言うと成政は兵士の所へ行ってしまった。
その時信長は恒興から逃げ俺の所にやって来た。
「兵も大分集まったな」
「はい、そろそろ進軍を始めますか」
「あぁ、そうだなとりあえず善照寺砦に向かおう」
「はい、皆に伝えて来ます」
その後俺たちは熱田神宮をたつことになった。
信長軍は全員馬にまたがりいざ出陣というとき。
「信長様っ!」
振り替えると領民達が並んでいた。
一人のの領民が
「ぜっ、絶対に帰って来て下さりますよねっ?」
信長はその領民を見つめた。
しばらく領民と目を会わせた後信長は向き直り馬を走らせようとした。
信長は走り出す瞬間叫んだ。
「必ず帰ってくるっ!義元の首を持ってな!」
『おぉーっ』
織田軍はし走り出した。
領民達は希望を信じて信長の背中を見送った。
善照寺砦広間
ここに来てようやく軍備が整った。
兵士は総勢3000、指揮官は森可成、河尻秀隆、佐久間信盛、千秋季忠。
今もし今川軍とまともにやりあっても勝ち目は無い。
信長をはじめとする家臣達は広間に集まっていた。
広間には伝令が声高に損害状況を報告していた。
「丸根砦は松平元康率いる先鋒隊に約500の兵で打って出ましたが壊滅丸根砦は陥落また鷲津砦は籠城を試みましたがこちらも先鋒隊の猛攻を受け陥落しましたっ。これにより佐久間盛重殿ら多数の武将が討ち死に致しましたっ」
「兄上…」
伝令の報告を聞き盛重の弟信盛は嘆いた。
信長はそんな信盛に
「信盛っ!そなたは死んだ兄上の代わりに死ぬ気で戦え!そして兄上の仇をとれっ!」
信盛は
「はっ、それがし兄上の代わりに死ぬ気で殿に
ついていきまするっ!」
信長は信盛に微笑んだ。
そして信長はまた険悪な顔に戻り一人
「だが、我が領内で好き勝手するなど許せんな義元」
と呟いた。
その言葉に恒興が反応した。
「そうでございまするな。ですが殿どうやって今川軍2万5000に打ち勝つのですか?」
「それは猿から聞け。猿話してやれ」
「はっ」
そして俺は今回の策を話した。
家臣達は聞くや直ぐに
『また突飛な』
『雨などふるのか?』
『そもそも領民に任せておいて大丈夫なのか?』
と口々に喚き始めた。
その時
「うるさいっ!」
そう叫んだのは信長だった。
信長は
「我等が民を信じなくてどうするんだっ!民を信じ無い国など直ぐに滅ぶっ!それに今はどんな事だろうとやらないといけない今はこの策が今川にかつ唯一の手なのだっ!」
辺りはしんとした。
だがその時
「そうじゃやらねば、やらねばならん…」
そう呟いたのは可成だった。
可成は
「今は勝つことだけを考える必要は無い。我々には今川に勝つか死ぬかのどちらかしか無いのだっ!」
可成の言葉に呼応するように他の家臣達も
『そうじゃやってやる!』
『あぁ、勝とう!』
と口々に叫び始めた。
家臣の士気が上がったその時
「伝令っ!今川義元田楽狭間にて休息をとる模様っ!」
信長は
「遂に来たか、全軍出陣!行く先は田楽狭間!」
と叫んだ。
いつの間にか小雨が降り始めていた。
田楽狭間 崖
小雨は豪雨に変わっていた。
信長軍は豪雨の中を疾風の如く駆け作戦どうり死角の崖に
隠れた。
恒興は崖の下にある今川軍の陣を見ながら言った。
「ここに来たのは良いが何処に義元がいるのかさっぱり分からんな」
俺は恒興に
「信じましょう民達を…」
そう言った。
今川軍本陣 義元の陣
今川軍は豪雨の中宴を開いていた。
義元も上機嫌で家臣達と酒を飲んでいた。
義元は家臣達に
「全く信長軍も手応えが無いのう丸根も鷲津もあんなにもあっさり落ちるなど」
「そうでごさいますな殿っ」
そこに一人の兵士がやって来た。
「義元様、この辺りの住民が義元様に贈り物を届けに
参りました」
「何っ?贈り物?まぁよい通せ」
義元の陣に数人の男の農民が入ってきた。
一人が口を開いた。
「お目通りを許して頂きありがとうございます。本日は我が村に伝わる神器を謙譲させて頂く為に参りました」
「神器?」
農民は後ろから布の被された盆を差し出した。
「これにございます」
そう言うと農民は布を取った。
布の中には黒色の細長い円筒形の物が入っていた。
大体20cm程の長さで太さは直径3cm位だった。
片方の先端には透明な板がはってあった。
義元は眉をひそめて
「なんじゃこれは?」
と尋ねた。
農民が
「我が村に伝わる言い伝えでその神器からは聖なる光が発せられその光を空にかざすと突如辺りから轟音が鳴り響き天より神の軍が訪れるというものにございます。よろしければお試しを」
「何やら嘘臭い話じゃがまぁよい付き合ってやろう」
そう言うと神器を手に取った。
農民は
「そこの突起を押すと光を発しまする」
義元は突起を押した。
神器からは目映い程の光が発せられた。
辺りから
『おぉーっ』
という感嘆の声が上がった。
義元は立ち上がり
「天下はわしのものよっ!」
と叫ぶと天へ神器を掲げた。
光は直進して光の柱を作った。
田楽狭間崖
「くっ、義元はどこだっ!」
信長軍は田楽狭間についたは良いものの義元の居場所が分からず途方に暮れていた。
だがそんな中信長と俺だけが落ち着き陣を見張っていた。
そんな俺に恒興が
「藤吉郎殿何故そんなに落ち着いているのだ?」
俺は恒興に振り返り
「そろそろです。そろそろ…」
皆、頑張ってくれ君達がこの作戦の要なんだ。
その時、天へ昇る一本の光の柱が現れた。
辺りは騒然とした。
『何だ!?』
『光の柱だ!』
だが信長は
「ふふっふふふっふははははっ!」
と笑っていた。
「殿?」
恒興が信長に近づこうとしたとき
ばさっ
信長は羽織をはためかせ
「義元はあそこにいるっ!全軍突撃だっ!狙うは義元の首一つ余計な手柄は望むなぁっ!」
信長は崖を駆け降り始めた。
『ウオォーッ」
兵士達も信長の後を追って崖をかけ降りる。
彼等の向かう先には光の柱がそびえ立っている。
実はあの神器、神器などではなくただの懐中電灯だでも災害現場用なので防水、防塵、さらに光も普通の懐中電灯と比べ物にもならない。
「あれ持ってて良かったな…」
俺はそう呟いて信長の後を追った。
今川軍本陣 義元の陣
「何だ?なにも起こらないではないか」
義元は懐中電灯を下げた。
はぁとため息をつき義元は座った。
「まぁ初めから期待などしておらんかったが」
義元はまた一杯酒を飲んだ。
だがその時遠くから
『おぉーっ』
雄叫びが聞こえてくる。
その声は段々近づいてくる。
義元の顔はみるみるうちに笑顔になっていった。
「まさか神の軍勢かっ!わしは選ばれたのじゃ!」
だがその希望は直ぐに打ち砕かれた。
「信長軍が突撃して参りました!」
その言葉に陣中の武将が全員立ち上がった。
義元は
「何だと!」
「義元様っ!直ちにお逃げをっ!」
「こちらにございますっ!」
義元は数人の家臣と共に陣を出た。
残った家臣らの目は農民に向かった。
「己よくもっ!」
「叩ききってくれるわっ!」
家臣の一人が一人の農民に刀を振り上げた。
農民は死を覚悟しているのか動かない。
「いやぁーっ!」
カキンっ
俺はすんでの所で刀を弾き返した。
「良くやってくれたなっ!良くやった!」
俺はそう農民に声をかけた。
「藤吉郎様っ!」
「さっさと逃げろ護衛の兵もいるっ!」
「は、はい!」
農民は陣から出ていった。
家臣達は既に俺に刀を向けている。
五人か敵は俺を取り囲むように立っている。
俺から仕掛けるのは愚作か
やぁーっ
敵は斬りかかってきた。
俺は一人目の刀を受け押し返し軽く斬った致命傷にはならない動きを止める程度だ。
次に後ろに向き帰り後ろの二人に斬りかかる。
二人の刀を身を屈めつ避けそのまま足を斬りつけた相手がうずくまった所を蹴り飛ばした。
後二人!
横から一人が斬りかかってきた俺は体を捻り避けると相手の肩と足を斬り蹴り飛ばした。
そして後ろの一人を蹴り飛ばし首もとに刀を突きつけた。
「ここまでだっ!」
俺は武将にそう言った。
だが武将は
「斬れっ斬るなら斬れっ!」
と叫んだ。
俺は思いっきり刀を振り上げた。
だが腕が止まった。
俺には斬れない…俺に人は斬れない…
その時武将は刀に手を伸ばし体をお越しながら斬りかかってきた。
死んだ。
そう確信したその時
ズバァッ
武将は倒れた。
「何をやっておる藤吉郎っ!」
それは利家だった。
「師匠!」
利家は前殺傷沙汰に関与し出仕停止を命じられていた。
もちろん今もそれはとかれていない。
利家は慣れた手つきで武将の首を胴から
引き離した。
俺は利家に
「師匠出来ませんでした…敵斬れませんでした…」
利家は俺に歩み寄った。
「藤吉郎…」
「俺には出来ませんっ!俺に人は斬れないっ!」
利家は俺の肩を掴んだ。
「わしはな人を斬った等とは思っておらん開放していると思っている」
「開放…?」
「そうじゃ乱世から開放しているともう二度と人を殺めんように…だからお主もそうしろこの乱世に生きる哀れな魂を開放してやるのだだがだからといって人を殺める事を正当化する事だけはするなよ斬るときに必ず心の中でこう言え『次は平和な世に生まれろよ』とな…」
「はい、開放してあげますこの馬鹿げた世の中からそしてこの馬鹿げた世の中を俺が終わらせます…」
利家は笑った。
「それは信長様じゃっ」
「ははっ、そうですね」
その時
『今川義元撃ち取ったりーっ!』
辺りにその声が響き渡った。
これにより桶狭間の戦いは幕を閉じた。
俺は利家と笑いあった。
だが気がついた。
「何で師匠いるですか?」
利家は固まった
「うるさいわっ!」
利家は怒鳴ったそしてまた二人は笑いあった。
今川義元
1560年5月桶狭間にて討ち死に
享年42
清洲城 足軽兵舎
桶狭間の戦いから3日後俺は自室で空を見上げていた。
初夏の空は雲1つ無い晴天だった。
そこにねねが
「どうしたの?浮かない顔して」
俺はねねがを見た
「俺決めたよあの日ねねが現れた日俺は自分が豊臣秀吉だと知ってそして誓ったんだ歴史を無理になぞろうとしないようにしようってそれは今も変わらないでも心のどこかにあったんだ本当は俺は別人なんじゃないかってでも分かった…」
俺は一呼吸おいた。
「俺は豊臣秀吉だ…」
ねねはその言葉に微笑んで
「じゃあさ私もさ分かった…私は貴方の奥さんになる人だって」
俺もその言葉に微笑んだ
「一緒に生き抜こう…」