22
「――明日から任務に戻ろうと思う」
「はい……?」
輝久との夕餉の席。魚をむしっていた桜麟は箸を止めて前を見る。
何を言っているのだ、この主は。医者からはまだ許可は出ていないだろう。そう思った次の瞬間には、心の声が外に出ていた。
「輝久様は馬鹿ですか? 軽い怪我ではなかったのですよ。まだ早いです。大人しく寝ていてください。何だったら眠らせてさしあげましょうか。わたしの目の黒いうちは、一歩も奉行所から出しませんよ?」
「ほぉ……主に向かってそんな口をきくとはな。お前はお払い箱になりたいのか?」
すっ、と輝久の目が細くなる。
桜麟は、しまった、とばかりに口を押えた。さすがに今のは言い過ぎた。けれど、一度口から出た言葉を元に戻すことはできない。開き直ってしまえとばかりに胸を張る。
「どうせお払い箱になるのは決まったようなものです。だから、言いたいことは言わせていただきますよ。傷が全快するまで、ゆっくりと休んでください」
「俺にも休んでいるわけにはいかない理由ができたのだが……」
「だから何だって言うんですか!」
輝久の反論に被せるようにして桜麟は続けた。
「外では影元様や凛花さん達が頑張っています。輝久様が無理をする必要はありません。それに、わたしのせいで傷を負ってしまわれたのですから、せめてわたしが出て行く日までお世話をさせてください!」
最後は頼み込むようにして懇願する。自分には無茶をするなと注意しながら、実はこの主も結構な無茶をするではないか。
輝久のはやる気持ちが理解できないわけではない。九兵衛の件では、あの屏風を手に入れた手段は判明していない。もしも、昔から追いかけている手がかりが掴めそうとあれば、一刻も早く復帰したいのだろう。
しばしの睨み合い。先に目を逸らしたのは輝久のほうだった。
「意外とお前は口うるさいな」
「そうですよ! 護り手よりも姑とかのほうが向いているかもしれませんね!」
失うものなんてないと思っている桜麟に恐いものはない。輝久の健康のためならば、押し倒してでも止める。
「はぁ……仕方がない、左近に任せるか。任務に戻るのはもう少し先にしよう」
「わかっていただき、ありがとうございます」
「だが、明日は出かけようと思っていた、その予定は変えんぞ」
そこだけは譲らんと輝久はきっぱりと宣言する。
「お前に見せたい場所があるんだ」
「わたしに?」
怪我を押してまで自分に見せたいとは、一体どのような場所なのだろうか。
「きっとお前も気に入ると思うから、楽しみにしておくのだな」




