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    ◆


 それから何日か、桜麟は町の見廻りに連れて行かれた。

 幸いにも大きな事件は起きず、町は平和そのもの。影元は毎日娘を追いかけ回しており、それを輝久が見つける度に説教をする。そんな日常が繰り返されるうちに、桜麟は凛花とすっかり仲が良くなっていた。

「いつも凛花さんは大変ですねぇ」

「もう慣れましたから」

 茶店の軒先で、二人の主が言い合う光景を見ながら凛花が苦笑する。彼女の瞳は少しばかり縦に長い。元は猫の妖なのかもしれない。

 ちなみに二人の間には、長くなりそうだからと凛花が注文してくれた団子とお茶が並んでいる。ありがたく団子を一本頂きながら桜麟は呆れた。

「慣れた……って、慣れるほどいつもこうなのですか……」

「そ、それはー……」

 凛花の視線が泳ぐも、すぐに反撃してきた。

「桜麟様こそどうなのですか? 昨日、左近様と玄亀様に町でお会いしたときに聞きましたよ。ひと月して手柄がなければ暇を出されてしまうと」

「うっ……」

 今度は桜麟が視線を逸らす番だった。

 町が平和なのはよいことだが、活躍の機会がないのはよろしくなかった。食事、掃除、洗濯と、屋敷のことは他の付喪神の邪魔にならないよう、手伝わせてもらっている。けれど、それは護り手の本分ではないはずだ。

「せっかくこうしてお近づきになれたのですから、桜麟様には頑張ってほしいです」

 輝久と影元のドタバタが終わり、凛花が呼ばれる。「いま行きます」と凛花は言ってから、桜麟の手を握った。

「輝久様は、護り手以外の付喪神からも慕われておりますので、長く付喪神奉行をやって頂きたいのです」

「もちろん頑張るつもりですけど、長くってどういう意味ですか?」

 桜麟が問いかけるも、もう一度呼ばれた凛花はあたふたとそちらへ行ってしまった。首を捻ってその意味を考えていると、桜麟を呼ぶ声が聞こえた。

 ごちそうさま、と店の主人に礼をしてから、お団子を片手に茶店を出ると、深いため息を吐いている輝久の姿があった。

「ご苦労様です。お団子を凛花さんから頂いたのでおすそ分けです」

「すまんな。影元め……護り手に気を使わせおって」

 一本の串に団子が三つ。それを一口で全部食べながら「もう少し真面目ならなあ……」と悪態をつく。

 そのまま二人は、いつものように町を歩いた。今日も平和で何もなさそうだ。凛花の最後の台詞がずっと気になり、桜麟はおずおずと問いかけた。

「あの……輝久様。わたしは上手くやれていますか?」

「上手く? まあ、普通だな。必要かどうかと問われれば、普通ならいらんな」

 割とあっさり不要宣告をされてしまった。酷い。

(どうすればいいのだろう?)

 町で続く付喪神の失踪や盗難事件。やはりこれを解決するしかないのだろうか。それも自分の力で。側を離れるなと厳命されているが、お払い箱がかかっているのだから大人しく従うだけというわけにはいかない。

 町にもだいぶ慣れてきた。こっそり夜抜け出すか……と思っていると、まるで心の内を読んだかのように輝久が言ってきた。

「単独行動は、その時点でひと月待たずに徳次郎の元へ帰すぞ」

「うっ……でも、このままでは不要なのですよね? 希望だけ持たせて機会は与えないなんて、それはあんまりです」

「そうだな。そろそろお前が駄々を捏ねる頃だろうと思ったから、今日は古物商へ向かっている」

 それを聞いて桜麟はピンとくるものがあった。

 古物商は年季の入ったモノを扱うことが多いだけに、付喪神屋とも関係が深い。付喪神へと『成る』あてのなくなったモノと、『成り』そうなモノを交換することもある。桜麟もその現場に立ち会ったことがあるだけに、輝久の意図を理解できた。

「今回の事件に関係しているかはわからんが、あまりよい噂は聞かない店だ。物騒な気配がすると連絡があってな。視察も兼ねて訪問しようというわけだ」

「わかりました。隠れて虐待されている付喪神を見つけ出して、屋敷の主を成敗して、解放してあげればいいんですね?」

「……お前は時々、突拍子もないことを考えるな」

 若干、引いたように輝久。どうやら盛大に自分の役目を間違えたらしい。桜麟は焦って言い募った。

「だって、手柄を上げようと思ったら、そのくらい派手なことをしないと認めてもらえなさそうではないですか! こう見えてもわたしだって必死なんですよ!」

「わかったわかった、落ち着け」

 どうどう、とばかりに頭をポンポンと撫でられる。付喪神の扱いに慣れているのか、何だか心地よい。それが悔しくて、むぅぅ、と桜麟は唇をへの字に曲げた。

「荒事になったらお前の力は当てにしている。頼むからそれまでは大人しくしてくれよ」

「……そのくらい、わたしにだって分別はあります」

「さて、どうだろうな」

 あまり信用していない調子で輝久。

「意外と短気なお前には難しいと思うがな」


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