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 翌日。明け方前に桜麟は活動を開始していた。

 部屋の外に出ると箒の形をした付喪神が、せっせと廊下を掃いていた。「おはようございます」と声を掛けると、ぴょんぴょんと飛び上がって返事をしてくれる。

「あの、何かお手伝いすることはありませんか?」

 そう問いかけると、箒の付喪神はしばらくその場でくるくると回っていたが、やがて柄の部分が台所へと向けられた。

 ありがとうございます、と礼をしてから台所へと向かう。すると、昨日の台所の付喪神達が朝餉の支度をしているところだった。

「今日はわたしにも手伝わせてください」

 人間の言葉は喋らない付喪神達が、霊力だけで歓迎を告げてくる。懐から紐を出して着物をたすき掛けにすると、こっちをお願いしますとばかりに、竈から火が上がった。用意された食材から推察するに、味噌汁にめざし、煮豆あたりを作るらしい。さすが付喪神奉行所となると朝から豪勢だ。

 桜麟はどうやら味噌汁担当のようだ。火加減に注意して出汁を取りながら、すり鉢で納豆を荒くすりつぶす。その間に包丁の付喪神が葉野菜と豆腐の具を準備してくれていた。それらと一緒に、これまた準備されていた味噌を入れれば完成だ。

 徳次郎の屋敷では一人で全部をやっていた。ここでは付喪神の道具がせっせと作ってくれるが、それなりの人数の用意が必要なようだ。慣れない台所にあくせくしていると、すぐに太陽が昇って玄亀が起きてきた。

「ふあ~あ……おはよう。どこにいるかと思ったら、ここにいたんだね」

「はい。新参者なので、少しでもお手伝いを、と。何しろ輝久様を認めさせないといけないので!」

 鼻息も荒く拳を握った桜麟を見て玄亀が吹き出す。

「輝久は敵に回しちゃいけない付喪神を敵に回しちゃったみたいだね~。これはとっても楽しみだよ」

 そうこうしているうちに、朝を告げる鐘が聞こえてくる。桜麟と玄亀は食事を乗せた膳とお櫃を持つと、食事に使っていた昨日の部屋へと向かう。

 部屋では朝の支度を終えた輝久と左近が待っていた。

「玄亀、桜麟。おはよう」

「左近、おーはよう!」

 玄亀の大きな声が部屋に響く。その一方で、左近の隣では輝久が腕を組み、不機嫌そうに庭を眺めていた。桜麟は部屋に入る前に丁寧に頭を下げた。

「輝久様。おはようございます」

「……」

 仏頂面のまま返事がない。これはなかなかにやりがいがありそうだ。表情だけはにこやかに保ちつつ膳を並べた。

 いただきます、と四人の声が唱和して朝餉が始まる。輝久が最初に手を付けたのは味噌汁だった。

「ふむ……今日は味が違うな」

 味噌汁は自分が担当した。口に合わなかったのかと冷や汗を掻くも、その次の言葉でほっと胸を撫で下ろした。

「いつもより出汁がよく効いている。美味いな」

「それは桜麟が作った味噌汁だからねー」

 玄亀が内情をあっさり暴露すると、しまったとばかりに輝久の頬が歪んだ。桜麟は澄まし顔でこたえる。

「お口に合ったようで何よりです」

 そんな桜麟を見て、左近がくっくっくと肩を揺らした。左近、玄亀の主従は、どうやら桜麟の行動一つ一つが可笑しいらしい。

 それからは無言で朝餉が進む。四人が食べ終わり、左近と玄亀が退出する。桜麟も膳を下げようとしたところで呼び止められた。

「桜麟、待て。そこに座れ」

「はい」

「今日は市中の見廻りにお前を連れて行く」

 おお、と桜麟は心の中で歓声を上げる。ちゃんと約束は守ってくれるらしい。桜麟はその場に平伏した。

「ありがとうございます」

「いちいち頭は下げんでいい。応じる俺も面倒だ」

 話は終わったとばかりに輝久は立ち上がった。

「お前の部屋に小袖を用意させる。半刻後に門前で集合だ」

 相変わらずぶっきらぼうだが、第一関門は突破できたらしい。今日からは失敗は許されないと、桜麟は気合を入れた。


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