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異世界で街づくり!気合でがんばるぞ!  作者: 吉田松陰(本物)
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第1話 手違いの死

紅山舞《くれやままい》、二十八歳。


 工業大学を卒業して、大手企業の材料研究部門で働いている。


 ものづくりが好きだった。


 機械をいじるのも、材料の性質を調べるのも、何かを作るための工程を考えるのも。


 一つの分野を極めた専門家、というわけではない。


 ただ、広く浅く。


「これって、こうすれば作れるんじゃない?」


 そう考えて、実際に手を動かす。


 それが、紅山舞という人間だった。


 ……とはいえ。


 だからといって、自分がこんなに早く死ぬとは思っていなかった。


「――え?」


 最後に覚えているのは、研究室だった。


 いつも通りの実験。


 いつも通りの作業。


 いつも通りの一日になるはずだった。


 なのに。


 目の前が、いきなり真っ白になった。


 何かが弾けるような音。


 身体を貫く衝撃。


 そして――暗闇。


 それが、舞の人生の最後だった。


「……ここ、どこ」


 目を開けると、見知らぬ場所に立っていた。


 白い。


 とにかく白い。


 床も、壁も、天井も。


 なのに、不思議と眩しくはない。


 目の前には、一人の女性が座っていた。


 長い髪。


 白い衣。


 頭の上には、光の輪のようなものまで浮かんでいる。


 どう見ても、ただの人間ではない。


「あら、目が覚めたのね」


「……あなたは?」


「私は女神です」


「……」


 なるほど。


 死んだのか、自分。


 思ったより、すんなり受け入れられた。


「紅山舞さん。二十八歳。工業大学卒業。現在は大手企業の研究部門に勤務」


「はい」


「趣味はものづくり。機械や道具を、作ったり分解したりするのが好き」


「……はい」


「そして先ほど、研究中の事故により死亡しました」


「……ですよね」


 女神は、少しだけ申し訳なさそうに眉を下げた。


「はい」


「あ、周りの人は巻き込んでないですよね?」


「巻き込まれたのは、あなただけです」


 それを聞いて、舞は少しだけ安堵した。


 同僚を巻き込んでいない。


 それだけは、良かった。


 ――けれど。


「ただし」


「ただし?」


 女神が、なんとも言いにくそうな顔をする。


「少々、問題がありまして」


「問題?」


「はい」


 女神が、手元の何かを確認する。


 そして。


「舞さんは、本来ならまだ死ぬ予定ではありませんでした」


「……はい?」


「完全に、こちら側の手違いです」


「……」


 数秒、沈黙が流れた。


 そして。


「いやいやいやいや!」


 舞は思わず叫んだ。


「手違いって何ですか! 私、手違いで死んだんですか!? 実験ミスとかじゃなくて!?」


「はい」


「はい、じゃないでしょ!」


 女神が、すまなそうに頭を下げる。


「本当に、申し訳ございません」


「人生、終わってるんですけど!」


「……はい」


「そこは否定してくださいよ!」


「できません」


 なんだ、この女神。


 妙に正直だ。


 いや、そういう問題じゃない。


 自分は、死んだ。


 寿命でも、病気でも、自分のミスでもなく。


 神様側の手違いで。


「……それで」


「はい」


「手違いで殺してしまった私を、どうするつもりですか」


 女神が、少しだけ笑った。


「お詫びをさせていただきます」


「お詫び?」


「はい。舞さんには、異世界へ転生していただきます」


「異世界……」


 その響きに、心が少しだけ動いた。


 物語でよく見る、あれだ。


「そして、お詫びとして三つの能力をお授けします」


「三つも!?」


「はい」


 女神が、指を一本立てる。


「一つ目。魔力無限《まりょくむげん》」


「魔力無限……」


「この世界には、原子のほかに魔素《まそ》というものが存在します。魔法をはじめとした、説明のつきにくい現象の多くは、魔力《まりょく》を消費することで発生します」


「なるほど。魔法を使うためのエネルギー、みたいなものですか」


「概ね、その認識で構いません」


「そして、私の魔力は無限……」


「はい」


 舞は少し考えて、次の言葉を促した。


「二つ目は」


「錬金術《れんきんじゅつ》の上位互換――創造術《ガレリア》」


「創造術」


「対象の構造や性質を理解している場合、本来必要な工程を飛ばし、結果だけを得ることができます」


「……つまり?」


「何かを作る方法さえ分かっていれば、途中を丸ごと省略して完成品を生み出せる、ということです」


「それ、ものづくりと相性よすぎません?」


「そうですね」


 女神が微笑む。


「本来なら、その分だけ莫大なエネルギーが必要です。ですが創造術では、そのエネルギーを魔力で代替できます」


「私の魔力は」


「無限です」


「……なるほど」


 舞は、少しだけ口の端を上げた。


「めちゃくちゃ便利じゃないですか」


「かなり便利です」


「戦闘にも使えます?」


「使えます。例えば――対象を原子単位まで分解したり、剣を振り下ろされる前に刃を分解したり」


「物騒すぎません!?」


「創造術ですので」


「いや、そういう問題じゃなくて」


 女神は、困ったように笑うだけだった。


 そして、三本目の指を立てる。


「三つ目。魔法障壁《まほうしょうへき》」


「魔法障壁」


「魔力を用いて防御膜を展開する能力です。物理攻撃、魔法攻撃、いずれにも対応できます」


「……壁ってことは、防御専用ですか?」


「基本的には。ただし、強度や範囲は魔力量に比例します」


「私の魔力は」


「無限です」


 舞は、少し考えてから頷いた。


「つまり、理論上はどんな攻撃でも防げる?」


「理論上は。ただし――」


「ただし?」


「展開の精度や反応速度は、魔力量とは別の問題です。咄嗟に、正確に、必要な強度で張れるかどうかは、経験と訓練によります」


「……なるほど。魔力があっても、上手く使えるとは限らないってことですね」


「そういうことです」


 便利ではあるけれど、万能ではない。


 舞は、そのことに少しだけ安心した。


 なんでもかんでも思い通りになる力というのは、逆に薄気味悪い。


 舞は、三つの能力を頭の中で並べてみた。


 魔力無限。


 創造術《ガレリア》。


 魔法障壁《まほうしょうへき》。


「つまり、間違えて殺した代わりに、異世界で好きに生きていいよ、と」


「概ね、そのような認識で構いません」


「……」


 舞は、少しだけ笑った。


 死んだこと自体は、まだ納得できていない。


 けれど、もう終わったことは仕方がない。


 それなら。


「分かりました。行きます、異世界」


「ありがとうございます」


 女神は、嬉しそうに微笑んだ。


 ◇


 それから舞は、女神から一通りの説明を受けた。


 魔法があること。


 魔素という力が存在すること。


 人間以外にも、様々な種族が暮らしていること。


 いわゆる、物語でよく見るタイプの異世界らしい。


 舞は、一つ気になっていたことを尋ねた。


「ちなみに、私以外に転生してきた人っています?」


 これは、かなり重要な確認だった。


 もし自分と同じようなチート持ちが他にもいるなら、鉢合わせしないよう気をつけたほうがいい。


「今その世界に、異世界人はいませんね」


「それは良かった」


 誰にも邪魔されず、安心して暮らせそうだ。


「では、準備はよろしいですか」


「はい」


「それでは――」


 女神が、笑顔になる。


 そして。


「あ、そうだ」


「……ん?」


「舞さんは、この世界で次に生まれる生き物へ転生していただきますね」


「……」


 舞は数秒、女神を見つめた。


「……はい?」


「ですので、次に生まれる生き物です」


「いやいやいやいや!」


 思わず身を乗り出す。


「ちょっと待ってください! 人間とは限らないですよね!?」


「はい」


「動物かもしれないですよね!?」


「はい」


「虫とかの可能性も!?」


「可能性としては」


「そこはちゃんと選ばせてくださいよ!」


「手違いのお詫びですので、細かい部分は神の裁量ということで」


「雑!」


 女神は、にこにこと笑うばかりだった。


「それでは、いってらっしゃい」


「待って、まだ言いたいことが――」


 足元に、光が広がる。


「えっ」


「良い異世界生活を」


「ちょっと、待――」


 身体が、光に包まれていく。


 最後に見えたのは、笑顔で手を振る女神の姿だった。


「絶対これ、反省してないでしょぉぉぉぉ――!」


 舞の意識は、光の中へと落ちていった。

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