最終話 宣戦布告
アリスのいる天幕から出ると瓦礫の山が視界を埋め尽くす。
巻き込まれた人はいないと聞いているがあまりの凄惨さに疑問を持たざるを得ない。
瓦礫の撤去には相当時間がかかるだろう。
数日……いや、一月はかかるかもしれない。
「なにをボーッとしてんのよ」
瓦礫の化した城を眺めていると背後からラピスの声がした。
「ああ、いや、これからが大変だろうなと思って」
「本当ならアッシュが国の頂点に立つつもりだったものね。でも貴方なら十分彼の代わりになるわよ」
「混乱している国内の情勢を整えて、他国からの進攻を抑え、新たな秩序を作り出す。言葉にするだけなら簡単なんだけどな」
「でもその結果こそ私達が求めてきたものじゃない。その未来にアッシュがいないのは残念だけどね」
今までの戦いはまだ序章にすぎないだろう。
まだまだ世界は平等とは言い難い。
帝国が変われば今度は世界を変えなければ、真の平等は訪れない。
「目的は達成した。やる事は多いけど少なくともこの国を変える事はできると思う。でも世界に目を向ければ平等なんて口先ばかりだろ?」
「まさかとは思うけど……今度は世界に喧嘩売るつもり?」
喧嘩を売るってもっと言葉を選んでくれたらいいのに。
僕が微妙な表情でいるとラピスは話を続けた。
「相手からしてみれば侵略でしょうね。いっそのこと世界統一を目指してみたら?」
「規模の大きな話だよな」
「ま、私はついて行ってあげるわ。ここまで来たら一蓮托生、でしょ?」
「ありがとう。さてと、僕らも手伝おうか。新しい城を建てるにしてもまずは片付けないとな」
「ええそうね。能力者を総動員するから案外早く終わるかもしれないけれど」
確かに。
僕らは能力者の集まりだってのを忘れてたよ。
――――――
月日は流れ、城が完成しいよいよ本格的に僕とアリスが主導で国を立て直していく。
裏切りの予兆がある貴族は殆ど他国へと亡命したかアリスの私設騎士団によって消されていった。
帝国解放軍と名乗っていた僕らはみんな帝国軍として編入された。
といってもなかなか元の帝国軍の人達とうまくやっていくのは難しく、部署が違うような感じで住み分けしている。
虐げられていた平民の暮らしは劇的に改善された。
詳しくは省くが、アリスの手腕には舌を巻いたね。
まず国庫にあった宝物等は他国に売り払い国が扱える富を増やした。
それを元手に衣食住を提供、今では家なき子はほぼいないといっても過言ではない。
ここまで国の生活や体制を変えるのにかかった時間はおよそ半年だ。
他国からの侵攻もなかったわけではない。
ちょっとした小競り合いは全て新生帝国軍の手で追い払った。
能力者を多数有する僕らにとって、敵国の軍隊など相手にならなかった。
もちろん敵国も能力者を戦場に出してきたが、戦闘経験豊富な元解放軍にとっては強敵といえるほどでもなかったようだ。
「カイ、アリス殿下が呼んでるぞ」
窓辺で考え事をしていると背後から声がかけられた。
ドライだ。
帝城に潜り込んだ際に負った傷は既に完治している。
「分かった、すぐにいく」
ドライに一言伝えると僕は礼服へと着替えた。
そう、今日はいよいよ帝国全土に向けて声明を出す。
流石にいつもの格好では様にならないと、アリスに用意してもらった服だ。
帝城の前には沢山の人が集まっている。
今日この日の為に集まってもらった。
といっても帝都に住まう人が全員集まれる訳では無い。
そこで役立つのが拡声能力を持つ仲間だ。
僕とアリスの声を帝国全土に聞こえるようにできるという一風変わった能力。
これにより帝都より離れた場所にいる帝国民にも僕らの言葉を伝える事ができるという寸法だ。
帝都が一望できるテラスの前には既にアリスが待機していた。
「凄いな……帝都ってこんなに人がいたんだって今更ながら思うよ」
「今はもう貴方はここに集まっている方々の頂点ですよ。これから新たな道を歩む……いえ、新たな指標を示す時です。覚悟はいいですか?」
アリスの言葉に僕は声を詰まらせる。
覚悟はしているつもりだ。
それでもまた少なくない犠牲が生まれることだろう。
しかし、大きな目標を叶えるためには犠牲が付き物だ。
「こんな時に言う事ではありませんが、私は貴方だからこそ共に道を歩みたい、そう思ったのです。自信を持ってください。平等な世界を作るなら貴方こそ適任です」
「まあ……不平等を味わってきたからな」
僕だからこそ言える。
平等こそが正義だと。
不平等が悪、というわけではないがそれでも平等であることこそ万人が幸せになれるんだ。
「今更後には引けないわよカイ。誰もが幸せになれる世界を作る。そう言ったのは貴方なんだから。尻込みなんてしないでよね」
「ああ、大丈夫だ。ちょっとばかし緊張してるだけだからさ」
ラピスに苦言を零され僕は苦笑いを浮かべる。
何千人といる前で声を出すのは緊張しないはずがないだろ。
「まさかまさか、カイさんがそれほど大きな野望を持っていたとは。私は最後まで見届けましょう」
「ラースには色々と助けてもらったな。これからも助けてくれよ?僕らにはない頭脳こそアンタの武器だ」
白いロングコートに眼鏡をかけ、誰が見ても研究者と言うだろう風貌のラースと握手を交わす。
彼がいなければ僕らはとっくに全滅していた。
城塞都市ガブランで僕らの命は散っていただろう。
「アタクシもかなり助けたと思うけれど?」
「もちろん理解しているよネウロ。今の帝国でアンタに敵う奴はいない。その力が僕らに向けられなくて本当に良かった」
ネウロこそ最大の功労者といえるかもしれない。
魔法は全て我が手中という能力は唯一無二だ。
どんな魔法でも使いこなし、大魔法使いといえば名があがるほど。
彼女の能力がなかったら僕は今生きていなかったかもしれない。
「さてと、じゃあテラスに出ますか」
彼らを伴って僕らはテラスへと一歩踏み出した。
歓声が空気を揺らす。
眼下に広がるのは数千人の帝国民だ。
圧政により不利益を被っていた者が大半で、彼らにとって僕らは救世主のような存在らしい。
「準備完了です。いつでもどうぞ」
今から発せられる僕の声は、拡声魔法により帝国全土へと響き渡る。
遠方に関してはネウロの魔法により、今頃上空に僕らの様子が確認できるよう映し出されている。
帝国民の目の前に姿を見せるのはこれが初。
当然声明を出すのも初だ。
ここ半年間は国民の前に姿を見せるのはアリスだけだった。
僕ら元帝国解放軍の存在は国民に明かされていたが、少し緊張する。
アリスが言うには既に帝国民の八割が僕に賛同しているらしい。
とはいえ残りの二割が僕に明確な敵意を抱いているのは確かだ。
反対しているのは全て貴族だが。
帝国全体でみれば貴族の数はたかがしれている。
それでも二割もの人々が賛同してくれていないのは、その貴族に与する者達だろう。
封建制度の廃止は本来何十年もかけて行うものだ。
それをたった半年で終わらせたのだから国内はもっと混乱するかと思いきや、すんなりと事を進めた。
まあそれも全てアリスの手腕だそうだが。
帝国が変われたのだ。
世界にはまだまだ不平等が蔓延っている。
流石に僕が死ぬまでに、というのは不可能だろう。
せめて子供の世代には誰もが平等で平和な世界が訪れていることを祈る。
一度深呼吸をして、僕は口を開いた。
「カイ・エミルトンだ。帝国はこれから平和への第一歩を踏み出した。封建制度の廃止には戸惑う者も多かっただろう。しかし、一部の者だけが富を得て大半の者が搾取される……そんな世界は間違っている。そうは思わないだろうか?」
国民に問いかけると概ね同意する旨の返答が沢山あった。
目に敵意が宿っている者は恐らく貴族連中。
平民にとっては封建制度などなくなってしまったほうがいいのだから。
「そう、この世界は間違っている。より正しい世界にするべく僕は……いや、私は目標を掲げる。これは私一人では成し遂げることはできない。みなの協力があってこそだ」
平等とは名ばかりの貧富の差はどの国でも聞く話だ。
帝国だけではない、真に正しい世界を創るなら世界を変えなければならない。
「私はここに宣言する!誰もが平等であり幸せを享受できる世界を創る!」
歓声が聞こえてくる。
言葉にするのは簡単だが、世界を変えるなど規模が大きすぎてまだまだ実感の沸かない話だ。
それでも僕は誰もが苦痛を味わうことの無い世界が見たい。
「一年後だ!今から一年後、エミルトン帝国は全世界に宣戦布告する!この世から腐りきった貴族は根絶やしにする!」
どよめきが大きくなり、しばらくすると片手をあげる者がチラホラと見えてくる。
平民を味方につければどんな強国が相手でも勝ち目はある。
何しろ国民の大半が平民なんだからな。
「私は!世界を変える王となる!!見せてやる、平等な世界を!」
――――――
世界統一を果たしたのはそれからおよそ三十年後であった。
カイ・エミルトン、アリス・セラ・エミルトンは歴史に名を残した。
そこにはアッシュの名も刻まれていた……。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
カイの物語はここで終わりとなります。
また機会があれば他国編を書こうかなと思いますが今のところ予定はありません。
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