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第三十一話 仲間を信じて

爺やが僕とアリスの間に入り、ギロッと睨んでくる。

その目は明らかに敵意があった。


「アリス様、どこの馬の骨とも分からぬ者と手を組むなど正気でございますか?」

「爺や、さっきも言った通り彼は古い友人です」

「知っております。あの路地裏で出会った少年でしょう。ですが此奴は帝国解放軍のリーダーです。解放軍の事は腐敗した国を変えるべきと立ち上がったまでは称賛できますが、数多の犠牲の上に成り立つものです。我々白き翼の騎士団とは相容れぬかと」

「目指すところは一緒です。ただ道のりが違っただけで彼も望んで人を殺したわけではないかと思います。そうでしょう?カイ」

爺やはやはり僕のことが気に入らないようだ。

アリスが僕へ話を振ると爺やの厳しい目つきが向けられる。


「もちろんだ。僕だって貴族連中以外は殺すつもりはなかった。だが殺さなければ僕が殺されていたんだ。弱肉強食、それがこの世界の常識だろ?」

「帝国解放軍は我が国にとって多大なる被害をもたらしている。城塞都市ガブランが良い例だ」

「それは違う。ガブランは無血開城とはいかなかったが、一般人に被害は出していない」

「貴様、あの城を任されていた貴族を知らんだと?ロイド伯爵はエミルトン帝国にとって大きな戦力だったのだぞ。あの方の功績を知らんのか」

知ったこっちゃないな。

あの貴族だって悪い噂は絶えなかった。

少なくとも解放軍の諜報員からはそう聞いている。


まあ実際対峙してみてあの尊大な態度はあながち嘘ではないと思うけど。


「お止めなさい。ロイド伯爵は民を虐げる事こそありませんでしたが、選民思想の強い方でした。いずれ我々の敵となったかもしれません」

「……そこまで仰られるのでしたら私は何も言いますまい。ですが、この協力関係がのちに尾を引かない、とは言い切れぬのですぞ」

「爺や、彼が裏切るかもしれないと言っているのですか?」

「左様です。こ奴らは解放軍とは名ばかりの反逆者。平民の為といいながら自分たちの懐を肥やす事を目的としているやもしれません」

「では私が保証しましょう。もしも彼が裏切ったのであれば私諸共斬り捨てなさい」

アリスの言葉に爺やは目を剥いて驚きを露わにする。

かくいう僕もびっくりした。


そこまで僕を信頼する理由が分からないな……。


「……アリス様、私が貴女を斬り捨てる事などあるわけないでしょう。そこまで彼を信頼する根拠はなんですか?皇女様と平民、たかが一度言葉を交わした程度の仲でしょう?」

「カイの目を見れば信頼できます。私の言葉が信用できませんか?」

「そこまで言うのであれば私は何も言うますまい。……カイ、分かっているな?もしも裏切るような真似をすれば儂自ら斬り捨ててくれるぞ」

爺やの目は本気だ。

僕が裏切る素振りを少しでも見せたら背中からばっさりいかれそうだ。


「アンタたちを失望させはしない。そうだな……一つ信頼できる証として僕の能力を教えてもいい」

これが僕のできる最大限の譲歩だ。


能力者が自身の能力を明かす事はリスクが高い。

対策を取られる可能性もあるし、自手の内を晒すバカはいない。


「ほう?ならば言うがいい」

「ただし、教えるのはアンタとアリスだけだ。他の騎士に教えて漏れてしまっては目も当てられないからな」

「よかろう」

爺やが騎士達に目配せすると彼らは数歩後ろに下がった。

僕が小声で話せば聞こえる事はないだろう。


60秒の支配者(リトルドミネーター)。これが僕の能力だ」

「ふむ。続けよ」

「この能力は一日の使用回数制限こそあるが破格の力を持っている。ちなみに言っておくがこの能力を超える能力者は今のところエルくらいだな」

「ほう。それでその能力とやらは一体どんな力を持っている」

「一分間、時間を止める事ができる。当然時間が止まっている間動けるのは僕だけだ」

そう説明してやると爺やとアリスは目を合わせた。


まあそう簡単に信じられないだろう。

時間を止める能力なんて聞いた事もないだろうし、人間では踏み入れることのできない神の領域だ。


「時間を止める……もしそれが本当ならば脅威でしかない。そんな力があっても皇帝陛下の首は獲れなかったのか?」

まあそういう反応になるだろうことは予想していた。

だから僕は皇帝も能力者だと伝える。

それも能力を無効化する能力者だと。



すると二人は難しそうな表情を浮かべた。


「まさかお父様が能力者だなんて……今まで一度も聞いたことはありませんでした」

「なぜ隠していたのか……何となく想像がつく。もしや、この日のことを予言していたのではないか?」

「予言?帝国にはそんな能力者がいるのか?」

「分からぬ。しかし我々が知らないだけで皇帝陛下の息がかかった部隊があってもおかしくはない」

予言者なんて能力者がいた場合、この後アリス達と手を組んで乗り込んでくる事も想定しているかもしれない。


「ヤバいな……今日の事を予言していたとすればどうやっても勝ち目がないぞ」

「いえ、そうとも限りません。たとえ予言できていたとしても未然に防ぐ事のできる戦力を用意できるかといえばなかなか難しいのではないでしょうか」

アリスが言うようにどれだけ戦力を用意していたとしても、白き翼の騎士団のような数百人規模の襲撃であれば予言したところで防げるものでもない。


「恐らく何か奥の手は用意しているかもしれませんが、ここで足踏みしていても国は変わりません。皆さん、覚悟はよろしいですか?」

騎士達は決意に満ちた表情だ。

アリスは相当慕われているみたいだな。


いよいよ上階へと向かう前に赤い信号弾を一発空に向けて放った。

これで仲間には撤退の意思が伝わったと思う。


「貴様の力はどこで使うつもりだ」

「エルがいた場合だな。もしくはエルのような圧倒的な能力者がいれば使う。ああ、後は皇帝の首を獲れると判断したら使うぞ」

「……エル殿を超える能力者はおらん。彼はこの国どころか世界でも五本の指に入るだろう」

世界を見渡せばエルのような化物が他にもいるのか。

恐ろしい話だな。


「アリス様は貴様を信頼している。この戦い負けられんのだ。アリス様のような民を心から思う皇族など他におらん」

「まあ負ければ全員処刑だろうしな。僕も手を抜くつもりはない。万が一の時はアリスを守るためにこの力を使う」

「……その言葉、信じてよいのだな?」

「ああ、アリスはもはや同志だ。彼女がこの場に現れなかったら僕はここで死んでいたかもしれない」

アリスがもしもこの場に現れなかったら、それこそ撤退することも叶わず殺されていただろう。


ドライだって情報を抜くためだけに生かされているようなものだ。

用済みになれば即座に処分される。



「……私の名はロベルト。貴様は知らんだろうがこれでも帝国の剣聖として名が通っていた。貴様は皇帝陛下の首を獲ることだけに集中せよ。雑多は私が処理する」

なんて頼もしい言葉だ。

周りは任せろってか、僕もそんな台詞を口にしたいものだ。


「そうかい。なら安心だな」

「……しくじるなよ。皇帝陛下の首を取れなければこの国が変わることはない。帝国の未来をこんな男に賭けなければならないとは……」

「おいおい、僕のことを侮りすぎだろ。これでも三千人もの解放軍を率いるリーダーだぞ」

「私語は慎め」

クッ……腹立つなこのジジイ。

まあぺちゃくちゃ喋っている場面ではないことは理解しているが、話を振ってきたのはアンタだろうが。



上階に登ると廊下は水を打ったようにシンと静まっていた。

一番奥に謁見の間がある。


他の部屋の扉とは違う豪勢な造り。

近衛兵が待ち構えているかと思ったが、廊下には誰一人としていなかった。


「流石にこれは怪しすぎるだろ……」

「アリス様、恐らく我々の動きは察しているかと」

ロベルトさんも明らかに怪しげな雰囲気を感じ取ったのかすぐさまアリスへ警戒するよう呼び掛ける。


「覚悟は決まっています。爺や、扉を開けて下さい」

罠だ。

これは明らかな罠でしかない。


しかしアリスの言葉に神妙な顔つきで頷いたロベルトは扉を開け放った。

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