第二十四話 挨拶はした方がいい
ティアン帝国に戻ってきた一同は、ミラへの一部始終の報告のためティアン城を目指している。
「それにしても......雨ね」
「そういやそれ、出る前も言ってたよな?」
本日のティアン帝国の天気は雨。
エルザの言葉で、オルも酒場で会った大工の言葉を思い出していた。
「あら、ティアン帝国で雨は珍しいことですの?」
「そうね、元々この辺りは雨季とは縁が無いはずなの。ただここ最近、それもティアン帝国の周りでだけ雨が降ってるらしいのよね......」
吸血鬼退治の前に一人気になっていたエルザはこの辺りの気象について調べていたが、この雨の原因は一切分からなかった。
「それは......偶然ではなくて?」
「あんたねぇ......気象ってそんな単純なものじゃないのよ。......までも、私も詳しい訳じゃないし、調べても何も分かんなかったから偶然としか言いようがないけど」
それ以上は会話が広がることも無く、三人はティアン城にたどり着いた。
エルザがラシャークから貰っていた通行証を衛兵に見せ、城門をくぐろうとしたところで───キーラが立ち止まる。
「おん?どしたキーラ」
「......いえ。中々、面白いことになっているなと思いまして」
「......?」
「ちょっとあんたたち、ぼーっとしてると置いてくわよ」
キーラはそれ以上何も言わず、先に進むエルザについていく。
そして、ミラがいるであろう執務室の前に待機している騎士に事情を話すと、騎士が扉を三回ノックする。
「ミラ皇女様!傭兵様方がお帰りになられました!」
それから少しして、扉が内側から開いた。
「皆さん......お帰りなさい......!」
─────
「言って下されば応接の間までお通ししたのに......」
「そんな気回さなくていいわよ。ここ、座るわね」
エルザとオルが適当な椅子に腰かける。
「じゃ、早速いいかしら?」
椅子に座るなり報告を始めようとするエルザを、ミラが手を上げて制止する。
「すみません、その前に......あの、どちら様でしょうか......?」
「ま、さすがに気になるよな」
ミラの指し示した先に立っていたキーラは、深くお辞儀をした。
座っていた二人のドキドキをよそに、キーラは胸に手を当てて挨拶をする。
「お初にお目にかかります、ティアン女皇陛下。私、流浪のメイドのキーラと申します。以後、お見知りおきを」
流浪なのにメイドってお前は誰のメイドなんだよという感想が三人の頭をよぎったが、あまりにも流麗な動作にミラは口を出せず、真相を知る二人はここでボロを出すわけにも行かないとぐっと堪えた。
変態が変なことを口走ったので一瞬謎の間が生まれるが、キーラはまだ言葉を続ける。
「こちらのお二人が訪れた村にて村長様のメイドをさせていただいておりましたが、紆余曲折ありましてお二人とともに旅をすることにしたのです」
「......あっ。そ、そうですか」
至って簡潔に、それでいて割り込ませる隙も無く話したキーラにミラは相槌を打つことしかできなかった。
「......ミラ、報告をしてもいい?」
「は、はい。お願いします」
──────
「───とまあ、こんなところね」
「なるほど......不死性を持つ化け物、ですか......」
ひとしきり報告を終えると、ミラは顎に手を当てて考え込み始める。
「つっても、どうして不死になったんだろうな?」
「......さあ。隔世遺伝による突然変異か、それとも吸血鬼が眷属を作ったか......ただ、後者はほぼ無いと考えていいと思いますわ」
「......?え、と。キーラさん?ずいぶんと吸血鬼にお詳しいんですね」
何気ないオルの言葉に、キーラはつい反応してしまった。
それを聞いたミラは不思議そうな顔をキーラに向けるが、当の本人は汗をダラダラと垂らしている。
「お、おほほ。流浪の身というのは色々とありますの」
もはや慌てすぎて口調すら崩れているが、ミラはそんなことより化け物のことばかり考えていたため、この場ではこれ以上疑われることは無かった。
エルザは報告も終えたのでこの後のことを考えていると、執務室の扉がノックされる。
「ミラ様ー。ユイナですー」
「どうぞ」
「失礼しま───って、オルるんにエルっち!」
「おいっす。ちょい久しぶりだな」
「......と、新顔さん?」
「キーラと申します」
「キーらんね。私ユイナ、よろしく!」
おそらく何かしらの任務に出ていたのだろう。
オルたち三人に挨拶をした後、ユイナはミラの元へ向かった。
「これ、今回の報告書でーっす。特筆して気になることは無かったかなぁ」
「ありがとうございます。後で目を通しておきますね」
「よろしくです!じゃ、次の準備があるのでこの辺で!みんなもまたね」
「ユイナ様」
さっと用事を済ませて退室しようとするユイナを、なぜかキーラが呼び止めた。
「ん?どうかした?」
「......すみませんが、ご出身は?」
「出身......?ティアン帝国だけど......どっかの人に似てた?」
「いえ。呼び止めてしまい申し訳ありません」
「んーん全然!じゃ、行ってきまーす!」
ユイナを見送ってすぐに、エルザも腰を上げる。
「ちょうどいいし、私たちも失礼するわ」
「わかりました。依頼報酬は後日お渡ししますね」
「ん。───あ、それと」
「どうかされました?」
「最近のティアン帝国内に雨が続いてるの、何か知ってる?」
エルザの問いにもミラは首を横に振るだけで、何も有益な情報は得られそうになかった。
「いえ......。ここ最近の異常気象については調査を依頼しているのですが、これといって進展は無いですね」
「ふーん......ま、こっちでも何か情報あったら共有するわ」
「すみません......ありがとうございます」
──────
そうして、三人は執務室を後にしたその足で騎士たちの修練場へと向かっていた。
「そういえば、ユイナの出身聞いてたけどなんか気になることでもあったのか?」
「......珍しい匂いがしたので、気になった次第ですわ」
「匂いねぇ......俺はなーんもわかんなかったけど」
「おほほ。人間の嗅覚で嗅ぎ取れるものではありませんわ」
キーラはふんすと鼻を鳴らす。
「へー......吸血鬼ってスゲーんだな!」
「まあ、それほどでもありますわ!」
「(それに、ユイナ様以外にもあと......4人。ここは中々珍しい匂いが充満していますわね)」




