17話 強者の歓喜
離れたところにいた二人の少女も、驚愕は同じだった。
「ひゃー……」
アイリスが言葉を失っている隣で、リザは苦々しい顔で赤い髪をかき上げる。
「あんな魔法も持ってたのか……。道理で素直に負けを認めないわけね」
先の戦いで【裂雷】を使われていたとしても、対処しきれる自信はある。
それでも、あの男が強いということは最早認めざるを得ない。
(撤回してあげるかー、クソ野郎なんて言ったこと。助けてもらった恩もあることだし……)
「――――」
茫然としたキヨメをハッと我に返らせたのは、上方から感じたチリチリとした熱。
それにより、たった今放たれた攻撃の正体を掴むことができた。
(い、今のが雷であることはわかる。だが、いくつもの雷を収束したような、恐ろしく強力で鋭い一撃……。言うなれば、雷の斬撃……!)
恐る恐る、キヨメが背後を確認するとギョッとするような光景が飛び込んできた。
「な、なんと……⁉」
遠くにそびえる山の中腹に、一文字の傷跡が深々と刻まれているのだ。
「これほどの距離で威力を損なわずに……。見事……!雷という速度ならではの素晴らしい一太刀!」
「そいつはどうも」
不敵に言葉を返すローグ。彼の右手に握られている刀には既に輝きはなく、活力を失ったかのように静まり返っている。
【裂雷】。生み出した刀に、膨大な電気エネルギーを蓄積することで、物体を焼き切ったり、先程のように絶大な威力を誇る雷を斬撃として放つことができる固有魔法。
ただし、雷を放出した場合、再び刀身に電気エネルギーを蓄積する必要がある。蓄電行為の隙は大きいため、斬撃を放つ際はここぞという状況を見極めなければならない。
「まだ向かってくるようなら、次は当てる。それが嫌なら剣を引け」
ローグは刀身を指でなぞりながらそう言った。その刀に、再び雷が迸り始める。
普通の冒険者なら、もう既に戦意を喪失しているところだろう。
しかし、その威力を間近で目の当たりにしたキヨメは、凄絶な笑みを浮かべた。
「くはははははは‼剣を引く⁉馬鹿な‼強大な力を前にした時、自分の力がどこまで通用するのか推し量ることこそ侍の本懐‼もうしばし、付き合って頂きます‼」
(おいおい……)
自分の命よりも、侍としての本能を優先するキヨメに、ローグは呆れかえった。彼女はただひたすらに強さに貪欲なのだ。そこには裏表などなく、本能のままに剣を振るうのみである。
「……ははッ!」
ローグも思わず笑みをこぼした。
これほど強さを探求する者に、実力を認めてもらえたことが素直に嬉しかった。
「アンタも相当な実力者だ!俺の方こそ、自分の実力をぶつけたくなるほどにな!」
「――!では⁉」
「ああ!今度は当てるつもりで撃つ!そっちも全力を見せてくれ!」
ローグの言葉に、キヨメは子供のような無邪気な笑みを浮かべた。
「感謝します!」
「こっちこそ!」
互いの強さを認め合い、讃え合う。常に蹴落とし合いの【豪傑達の砦】にいた頃には、決してなかったものだ。
殺伐とせず、純粋に力をぶつけ合えることがこうも嬉しいものだとは、ローグも思ってもみなかった。
彼は口元を歪めながら、刀に雷を充溢させていく。
「――“虚空を奔れ”、【景断】」
魔法を唱えたキヨメも同様に、自身の刀である『童子切』に魔力を込める。
「『整号』つきの魔法……。妖刀使いってことは、固有魔法だな?」
「如何にも。強力過ぎる故、人に向けて使うことを禁じられていました。しかし、貴公にならぶつけられる……!それに、合縁奇縁。拙者の魔法は、貴公の魔法に酷似している。ここで使わず、いつ使うのかと問いたくなるほどに!」
「へえ!それは楽しみだ。だが死んでも後悔するなよ」
「そちらこそ!」
ローグとキヨメの視線が交錯し、互いに剣を構え、必殺の一撃を放つ準備が整った。
だがしかし、どちらも剣が届く位置にいない。
つまり、両者の繰り出そうとする技が、遠距離攻撃であることを意味する。
鳴り響く雷の音が聞こえないと錯覚するほと、その場が静まり返った気がした。
アイリスとリザが固唾を飲んで見守る中、剣士たちは一歩を踏み込んだ。
「オオオオオオオオッ‼」
「ハアアアアアアアッ‼」
互いに、その場で刀を振り抜く。
ローグが放ったのは、先程と同じ閃光を伴った雷の斬撃。
対して、キヨメが放ったのは、目には見えぬが鋭く研ぎ澄まされた、切れ味抜群の斬撃。
両者の斬撃が引かれ合うように衝突し、とてつもない衝撃波を周囲に撒き散らす。
「アイリス!」
「わぶッ⁉」
咄嗟にアイリスと共に、ダイブするように地面に伏せるリザ。
眩い閃光が辺りを覆い尽くした。
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『第18話 ローグとキヨメ』
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