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16話 サクイカヅチ

 草原の真ん中に雷が落ちた。

 雲一つない晴天だというのに発生した不自然な雷。


「「――!」」


 リザとキヨメは激しい戦闘の最中、チラリとそちらを一瞥した。

 落雷の地点には、黒髪赤目の男。その右手は何かを掴んでいる。


(――む、刀か⁉)


 彼は今、逆手で刀を握っていた。まるで、上空から飛来した刀をキャッチしたかのように。否、実際それは事実である。


 アイリスだけが、ローグに起こった一部始終を目撃していた。


(刀が、降ってきた⁉あれがローグさんの第二の魔法……!昨日、殺傷力は【鳴雷(ナルイカヅチ)】より高いって言ってたけど、一体どんな魔法なんだろう……⁉)


 その疑問に応えるかのように、ローグは刀を順手に持ち替えて地を蹴った。戦い続ける二人の元へ一直線に向かっていく。


「こっちだ!イカレ侍!」


 繰り出した袈裟切りの一撃を、キヨメは妖刀を盾にして受け止めた。


「貴公も剣を振るうのか!徒手であるようだったから、てっきり【魔術師】メインかと!」


「優秀な冒険者はいろんな芸を持ってんだよ」


「くふははッ!面白いッ!」


 鍔競り合いながら嬉しそうに言うキヨメ。そこでふと、彼女はあることに気づく。


(――む!この刀、刃がない……⁉なんと珍妙な……!)

「――しかし!そんな刀では、拙者を倒すことはできませぬよッ!」


 刀身にかかる圧力がぐっと重くなり、ローグはいとも容易く押し返された。


「うぐッ!」

(こいつ、なんて膂力⁉)


 さらに追撃がかかる。


「う、おおおおおお⁉」


 様々な角度から襲い掛かる超スピードの猛攻にローグは対処しきれない。攻撃を掠めながら、押し込まれるように段々と後退していく。


 どちらも【剣士】の《才能(ギフト)》を有しているにも関わらず、その力の差は歴然だった。

 それも当然のはずである。

 同じ土台でありながら、そこから積み重ねた鍛錬の時間の差が圧倒的に違う。

【剣士】として、ローグがキヨメに敵うわけがないのだ。


 リザは、どっと押し寄せる疲労感を堪え、自身から標的を変えた侍に銃口を向ける。

 しかし、目まぐるしくローグとキヨメの位置が入れ替わるため、照準を絞ることができない。


「クソ!近づくしかないか……!」


 体に鞭を打ち、駆け出そうとしたところで、


「リザァ!手ぇ出すな‼」


 ローグが声を荒げてそう言った。

 彼の表情に余裕はない。どう見ても助勢が必要なはずであるというのに。


「はあ⁉何言って――」


 言いかけて、リザは続きを言葉にしなかった。


(……いや、何か狙ってるのか。多分、私が巻き込まれるのを避けたかった……)


 そう推測した彼女は、アイリスの元へと退いていった。


(察しが良くて助かる……!)


 それを確認したローグは、ニヤリと笑みを浮かべる。


 一流の冒険者さながらの即座の状況判断。つい【豪傑達の砦(ヘラクレス・フルリオ)】の『八豪傑』とパーティを組んだ時を思い出してしまう。


 一方、攻め立てるキヨメも心底楽しそうな笑みを浮かべていた。


「くははははは!如何なされた雷の御仁⁉この程度ではなかろう!もっと拙者を楽しませてくれ!」


「……準備はできた。望み通りにしてやるよ!」


 バチッ!とローグの左手の人差し指と中指に雷が迸った。


「!」


 至近距離での雷撃を嫌ったキヨメは、わずかに距離をとる。

 だが、それこそがローグの理想のシナリオ。


「――それは悪手だ、侍!」


「む……!」


 ローグは、雷を纏った二本の指をキヨメには向けず、自身の刀身の根元に添えた。さらに切っ先に向かってなぞるようにスライドさせていく。


「もうリザを巻き込んじまう心配もねえ!この隙を待ってたんだよ!」


「……ッ」

(一体何を……⁉)


 目の前の男が何かをしようとしていることは明らかだ。だが、その行為の意図がまったく理解できないため、キヨメは迂闊に近づけないでいた。


「斬れない刀だと思ったか?残念だが、切れ味ならどんな名剣をも凌駕する!」


 その指でなぞった部分に、雷が迸る。刀身をすべてなぞり切ったとき、ローグの刀は激しい雷を撒き散らしながら、光り輝いた。


 ゾクりとキヨメの背中を悪寒が奔り抜ける。


(何だ、この心臓を鷲掴みにでもされているような感覚は⁉【異界迷宮(ダンジョン)】に潜った時も、こんな経験はしなかった!一体、どれほどの――)


「頭、少し伏せといた方がいい」


 ローグがそう呟くや否や、彼は何もないその場で、水平に刀を振るった。

 直後、キヨメの視界が眩い閃光に包まれる。


「――え」


 彼女の頭上を轟音と共に“何か”が通り過ぎた。

 ソレは尚も勢いを損なわず、大気を切り裂きながら一直線に突き進んでいく。

 キヨメはその圧倒的な圧力に身動き一つすることができず、ただ立ち尽くすことしかできなかった。




**********

『17話 強者の歓喜』に続く

**********



本作をお読みいただき、ありがとうございました。



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