最終話〜旭光、晴天白日となりて〜
私は、《儀式の間》の中にある祭壇に《白金の杯》をそっと安置する。
その場所は天窓から光が入ってくるよう設計されているようで、3つの神器はその輝きを、薄暗い《儀式の間》の空間いっぱいに放っている。
「…これで、終わったのね。」
「ああ。」
アンサスの贖罪の試練は終わった。
この短期間で様々な経験をした私は、安堵と共にどっと疲れが押し寄せてきた。
「ありがとう、フィーリア。君が居なかったら、全ての神器を揃えられなかった。」
アンサスは優しく微笑んで、私の髪を撫でた。
「…それにしても、テアがマギア帝国の皇太后様だったなんて…それに私の家系からマギア帝国に嫁いでいたなんて全然知らなかったわ。」
聞くところによると、テアは私の父方の祖父の従姉妹なのだそうだ。
だから、私とアンサスは遠い親戚になるという。
「そうだね…。そしてお祖母様は神器の秘密を護っていた。―――神器を隠した皇帝の妻、ミトス皇太后もエピスティニ家出身だったし、エピスティニ家と神器には不思議な縁があるようだね。」
「ええ、そうね。」
吸い込まれるような神々しさを放つ神器を見つめる私たちの間に、沈黙が流れる。
私は、この沈黙が心地良かった。
泉でレオと共有した沈黙と同じ心地良さ。
改めて、アンサスはレオなんだと認識する。
暫く経った時、アンサスが私の方を向いて口を開いた。
「それでフィーリア、話があるんだけ「あら、探しまたしたわよ。アンサス。」
バンと《儀式の間》の扉を開け、銀糸の髪を揺らしながらに入ってきたのは、カリスペラ・アステールだった。
私なんか視界に入っていないとばかりに、カツカツと足音を立ててアンサスと私の間に割って入る。
「無事に試練を終えたのですね。大魔道院の一員として、貴方の罪を赦しましょう。」
そして、カリスペラは更にアンサスにぐいっと近付き
「私もお父様からお許しを頂きましたわ。これで晴れて、私とアンサスは結ばれますのよ。」
アンサスの首に腕を絡めようとするカリスペラを静かに制したアンサスは、冷静に一言。
「僕は…そんなこと認めていないし、そうするつもりもないよ。」
ピシッ…と張り詰める空気。
カリスペラは、ワナワナと震えながらも
「ま、まあ…。まさか、この魔法も使えない異国の令嬢を妻にするとでも…?」
よろけるように2、3歩後ずさったカリスペラのその瞳は布で覆われているが、それでも動揺と怒りが滲み出ているのが分かる。
カリスペラは、初めて私の方をくるりと向いて
「貴女が私以上に相応しいと思えませんわ!」
と私に食ってかかってきた。
「落ち着いて、カリスペラ…。相応しい、相応しくないの問題じゃないんだ。僕はただ、フィーリアを愛している。それに…僕を助けてくれるのは、いつだってフィーリアなんだ。」
そして、アンサスはそっとカリスペラを押し除けて、私に歩み寄り肩を抱く。
「僕はフィーリアに選んでもらう立場なんだよ。僕は…彼女の意思で選ばれたい。」
カリスペラは、唇を噛み締めて見えない瞳でこちらを睨みつけている。
そんなカリスペラを他所に、アンサスは私に向き直って
「フィーリア、君の意見を聞きたい。…君が僕を選ばないなら、コーディカスに戻ったっていい。―――君は、どうする?」
いつも以上に真剣な金色の瞳。
「私は…」
目を伏せ、静かに考える。
そして、すぅっと大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
―――私はもう、自分の意思で生きるのよ。
「私は…マギア帝国のことを学ぶために、ここに残りたいわ。」
予想外の答えに、アンサスは目を丸くして私を見つめる。
「それに私、魔法を使えるようになってみたいの!」
そう笑顔で言い放った私を見て、アンサスもカリスペラもきょとんとした顔をしていたが、アンサスはすぐに笑って
「…ああ!マギアの地には魔力が溢れている。マギアに居れば徐々に体内に魔力が蓄積されて、魔法が使えるようになるよ。それに…フィーリアならすぐにできるようになるさ!」
あははと笑うアンサスに対し、カリスペラは
「わ、私はまだ貴女の事、認めてませんからね!!」
失礼しますわ!と踵を返して去っていった。
私は自分に正直になっただけなのに。
やっぱり言うべきじゃなかったかしら、と私が考えていると、アンサスは私の頭をポンポンと叩きながら
「フィーリア、それでいいんだ。君の人生は、君自身で選ぶべきなんだから。」
そしてアンサスは、私の両手を握りこう言った。
「マギア帝国を案内するよ!フィーリアに見せたいものがたくさんあるんだ!」
―――数年後
私は、カーテンの隙間から入ってくる陽の光で目を覚ました。
ぼんやりとした頭の中。
昔の夢を見ていた気がする。
私はふと、壁際に吊るされている衣装と目が合って、一気に現実へと引き戻された。
私の紫色の髪と瞳に合わせた紫水晶を織り込んだ美しいドレス。
そうだ、今日は―――
私は一度、ぐっ…と伸びをしてベッドから起き上がる。
そして美しいドレスに歩み寄り、そっと指を這わせる。
サラサラとした手触りが心地よい。
私の口角は自然と上がっていた。
これから先、どんな人生が待っているのだろう。
それがどんな人生であっても、私は私の人生を歩んで行きたい。
私がドレスを見つめていると、扉をノックする音が聞こえた。
「フィーリア様、失礼致します。」
と、3人のメイドが部屋に入ってきて、テキパキと私の身支度の準備を始めた。
「本日はおめでとうございます。とびっきり美しく仕上げますからね!」
とにっこり笑う、そばかすがかわいい若いメイド。
―――そういえば、前にもこんなこともあったわね。
でも、今はもうあの時とは違う。
私は彼女たちを見てにっこりと微笑んだ。
「ええ!―――とびっきりね!」
私の胸元には、小さな紫水晶のペンダントがキラリと輝いていた。
◆完◆
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ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
おかげさまで、本作は無事に完結を迎えることができました。
初めての投稿で不安も多かったのですが、ブックマークや感想をいただけたことが大きな励みとなり、最後まで書き続けることができました。
もし少しでも「面白かった」と感じていただけましたら、評価やブックマークをしていただけるととても嬉しいです。
今後の執筆の励みになります。
機会があれば、番外編なども書いてみたいと思っています。
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
またどこかの物語でお会いできたら嬉しいです。




