第47話〜賢姫、相即不離を辿りて〜 後編
「…良い方法、って?」
私がアンサスに尋ねると、アンサスはポケットから懐中時計を取り出した。
その金色の懐中時計は小ぶりで、アンサスの手の中で輝いている。
「この懐中時計はね、使うと過去に遡れるんだ。」
そう言うと、懐中時計をカチャリ…と開いた。
すると
「わあ…!」
周りの景色が物凄い勢いで動いている。
暫くすると、段々動きがゆっくりになり、止まった。
私はそっと辺りを見渡すが…過去に遡ったような変化は見られない。
「私たち、過去に来られたのかしら…?」
私がそうアンサスに尋ねると
「…!フィーリア、隠れて!」
アンサスは私の手を引いて草むらに身を隠した。
すると
「テア!ここは…?」
現れたのは濡羽色の髪をした少年…レオだった。
レオはキョロキョロと辺りを見渡している。
「ここは、レオと私が創った空間ですよ…。何か辛いことがあったらここにいらっしゃい。…私とレオ、2人の秘密よ。」
レオの背後から現れたテアは、優雅な動きでレオの両肩に手を添える。
「貴方は強い力を持っているわ…。強い力は孤独よ。でも、貴方は1人じゃない。」
「…うん。」
そうして、2人は去っていった。
私たちはそっと草むらから顔を出す。
「…行ってしまったわね。」
「うん。―――まだここには無さそうだ。」
アンサスは再び懐中時計を取り出し、ツマミを少しだけ回した。すると、また風景が高速で動き始めて…先程よりもすぐに止まった。
「―――フィーリア、僕はもうここには来られない。だから君ももうここに来てはいけない。」
突然のレオの言葉に、動揺する私。この場面は…
「―――私が、レオと離れ離れになった日だわ。」
ちらりとアンサスの方を見ると、アンサスはやや複雑そうな表情で過去の私たちを黙って見守っていた。
「えっ…でもどうして?」
困惑したように投げかけた私の言葉にレオは答えず、私の両手を取ってこう言った。
「ごめん。…フィーリア、必ず僕が迎えに行くからね!」
レオは、目に涙をいっぱい溜め、ギュッと私の手を握った。
「どうして!?レオ―――!」
次の瞬間
レオと幼い私は眩い光に包まれ―――光が収まると、幼い私はその場に居なくなっていた。
「私…どこへ行ったのかしら。」
あの瞬間の記憶がない私はアンサスに尋ねる。
「…フィーリアはあの時、僕が記憶を消して家まで飛ばしたんだ。」
静かに答えたアンサスの視線の先には、1人佇むレオが立っていた。
すると
「泉が…光っているわ。」
脈を打つように光る泉。でも、レオは気付いてないようだ。
泉を背にしてトボトボと歩くレオ。
「行こう!」
アンサスは草むらから飛び出して、泉に走っていく。
私も慌ててアンサスを追いかけて飛び出すと―――
ゴゴゴゴゴゴ…
大きな地鳴りと共に地面が揺れる。
「地震…!?」
私は思わず立ち止まる…とアンサスは私に駆け寄り
「大丈夫だよ、フィーリア。」
と優しく抱きしめた。
すると、泉の水面が大きく波打ち始め
ザッバァァァァァ…
と大きな音を立てて―――泉から白金色に輝くドラゴンが現れた。
「こ、これは…?」
私は初めて見るドラゴンに思わず震える。
アンサスは私をギュッと強く抱きしめながらドラゴンに話しかけた。
「《白金の神竜》…貴方が杯を持っているのですか?」
すると、そのドラゴンは金色の瞳でこちらをぐるっと見て
「…いかにも。私は己を過去に封印し、あの謎を解きここまで来られる者をずっと待っていた…。」
そして、ゆっくりとその大きな翼を動かし始め
「…さあ、奪ってみよ!《白金の杯》を…!」
そう言ってドラゴンは、強烈な風を起こしながら空へ舞い上がった。
私はよろけそうになりながらも、アンサスにしがみつく。
「…まさか、神獣が神器を護っているなんて思ってもみなかった。」
冷静に話すアンサスは、風が収まると私に向き合って
「…フィーリア、君には防御魔法を掛けた。それでも万が一のことがあるかもしれない。だから、すぐに逃げてくれ…未来へ。」
そう言ってアンサスは、懐中時計を私に手渡した。
「い、嫌よ!私も戦うわ!」
自分でもそう言ったことに驚きつつ、私は懐中時計を突き返した。
「なっ…!フィーリア!」
動揺するアンサスを尻目に、私はドラゴンを正面から睨みつける。
「ほぉ…随分と度胸のある…。」
ドラゴンは何か呟いた後、口の中に光が集まり始めた。
「…!!危ない!!フィーリアっ!!逃げろっ!!!」
叫ぶアンサス。
でも、私の意識は泉に集中していた。
私たちの目的は、ドラゴンを倒すのではない…《白金の杯》を手に入れる、それだけよ。
そして、《白金の杯》があるのは…泉の中。
さっき泉の鼓動のような光に呼応するように、同じく光っていた紫水晶のペンダント。
間違いない、そこにある。
ドラゴンの攻撃に紛れて泉に飛び込むのよ。
ドラゴンの口の中の光はどんどん大きくなっていき、バチッ…バチッ…と音を立てている。
…来る!
ドラゴンが光を放つと同時に、私は泉の中へ飛び込んだ。
遠くで、アンサスが私の名前を呼んだ気がしたが、今はそれどころではない。
私はゆっくりと泉の中へ…深く、深く潜っていった。
私は気付くと、森の中に立っていた。
私は確か、泉に潜ったはず…。
辺りを見渡すと、ガサガサと草むらが揺れる音が。
私は慌てて身を隠すと、美しい白金色の髪を持つ少年と、紫色の髪を持つ少女が手を取り合ってやって来た。
「…ここに泉を作ろう。僕と、ミトスだけの秘密だよ。」
「素敵ね。早く見たいわ。」
すると、少年は見てて、と言って両手を広げて何かを呟いた。
僅かに地面が光ったかと思ったら、みるみるうちに泉が湧き出てきた。
「まあ…!素敵!」
はしゃぐ少女と、それを嬉しそうに眺める少年。
「もし、何か隠したければ、この泉に入れてしまおう。…僕たち以外知らない泉だから、誰にも見つからないよ。」
「ふふ…そうね。」
2人が笑い合った瞬間、風に吹かれて彼らの姿は消えてしまった。
「あ…。」
私は、ゆっくりと草むらから這い出る。
そして、そろりと泉の中を覗き込むと…そこには白金色に輝く杯が沈んでいた。
「あったわ…。」
私は泉の中に手を入れてみるが、思ったよりも深いようで届かない。
「どうしましょう…。」
私は周りに使えそうなものがないかと辺りを見渡すが、何もない。
「また潜るしかないのかしら…。」
アンサスが私に掛けた防御魔法を信じて泉に飛び込んでみたものの、どこまで効果があるかは分からない。
うーんと考えていると、風がザァァァアと吹いてきて、その風の中に
【虚像は実像】、よ…
誰かの声が聞こえた。
「そうだったわ、虚像は実像なのよね。」
私は、ポケットから手鏡を出すと、《白金の杯》が映るように向け、鏡の中に慎重に手を伸ばした。
私の手は、鏡の中にするっと入っていき、指先に固くひんやりとしたものに触れたのが分かった。
私はそれを慎重に引き出すと…私の手には白金色の美しい杯…《白金の杯》があった。
「よし!取れたわ!」
私が杯を手にした瞬間。
ゴゴゴゴゴゴ…
森の中だった景色が回転し始め、水中の景色へと変わって行き、私は上へ上へと引っ張り上げられていった。
「きゃぁぁぁあ!!!」
私はその水流に耐えきれず、悲鳴を上げ―――意識が遠のいていった。
◇
先日は更新できず申し訳ありませんでした。
あと数話で完結する予定です。
もう少しだけお付き合い頂ければ幸いです。
引き続き応援宜しくお願い致します。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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