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俺は帰りたいんですが。  作者: 来島ぎれ
第二章 勇者召喚
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よくも悪くもヨロシク魔狼

「いいですかな。代表三人が試合をして勝ちの多い方が勝利ですぞ」

 ヒュッテは自分を落ち着かせるように腹まである髭をするすると撫でる。

 何せ、召喚陣に埋め込んでいた魔輝石をプーに全部食べられたのだ。心中穏やかなはずがない。

 魔狼はトメちゃんがニヤニヤしていた意味をやっと理解した。

 魔輝石のない召喚陣はただの転移陣に成り果てたらしいのだ。

 あれ程の高純度魔力のこもった魔輝石は、地岩竜の背や尾にこびり付いている物しかない。

 つまり、トメちゃんが討伐されるか石を譲ることがない限り、今後一切召喚陣としては機能しないのだ。

「聞いてますかな、勇者殿」

「……聞いてないな」

 自分が友の為に作った陣を悪用されて腹が立つのじゃと言うトメちゃんは、後で石畳ごと破壊する気らしい。何せ本来の用途が転移だったのだ。

 ということは、召喚された陣から逆送還できる望みもなくなったことに気付いた魔狼は悶々とし始める。そして、頭に浮かぶのはまだ見ぬ船着場だった。

「子供染みた態度はどうかと思いますぞ」

「……そのまま返そう」

「うぬ」

 陣が聖霊様に食われたと慌てふためき、半泣きだった老齢の魔法師にチクリと返す。

 黙ったヒュッテの変わりにウォークが話し始めた。

「とにかくだ。定例どおり引き分けの今、残す一戦にペアとして参加してもらうのは決定している」

「何だと」

「王は駒を動かす指揮官で参加する。ようは高みの見物だな。これは力の差が歴然でも魔族対人間の試合だ。許されるのは魔法二種のバフアップのみ。本当の最終戦は勇者が加わることで対等に戦えるといわれる」

 ウォークはこれが慣わしだと言う。

「対等ね、どうせ負け続きなんだろ」

「ほっほっほ、この部屋以外でそれは言わぬことじゃ。王の耳に入らぬよう願いますぞ」

「頼むぞ。勇者殿と組む者を紹介しよう」

 トメちゃんは旅の道案内と偽り、プーを連れて城内散策に出ている。

 ルクセルは本気で旅にでようかと離職挨拶に行くと言ったきりだ。

 淡々と進む試合参加の流れに助けは期待できそうもない。

 魔狼は逃げ出すにも連れて帰りたいプーもいないことで、延々と続く八百長試合の行程をうんざりして聞き流すのだった。



 ヒュッテは、魔狼が獣人だという情報を確認もせず、万が一の為だと怪我予防の物理耐性と速さ増強術を掛けた。

 魔力の隠蔽術が常に作動しているだけで、どこまで増強されたのか予測もできないのは流石にまずい気がしていた。

「勝ったらどうするんだか」

「逃げた勇者がよく言うぜ。ここはどーんとぶつかって負けりゃいいんだよ」

「ということは、試合の本当の理由も知ってると?」

「おうよ。俺も一端だけど上層職だからな。まあ、普通に考えてみろ。魔力の加護がある身体の造りが違う魔族に敵うわけねえ。例え魔法禁止の試合でも、あんたが勇者という特別でもな」

 魔狼はやる気のなさで茫然としていたが、気が付けば国の競技場だという場所に連行され動員数の半端ない観客に見守られる中心にいた。

 耳と尻尾は引っ込めた。

 魔族だろうと人間相手だろうが魔狼は負ける気がしなかった。古竜以外に負け無しだからだ。

 かといって本気で戦う気は全くない。戦意も無ければ勝つのはダメで負け試合をする為にここに立たされているのだ。

 逃げれないことに諦めがついてきた魔狼は周囲を観察した。

 遠目に貴賓席らしき区画に王女と魔王らしき者が隣り合って座っているのが変な図だった。

 王女シュリは魔狼の姿に驚いた表情をしたのが見えた。

 挨拶には行っていない。戻ったことをヒュッテ達が報告しなかった可能性が

「竜を従えれるって噂があるだろ。この試合には呼ぶなよ。勝っちまうからな」

「……呼べるわけないだろ」

「ははっ、さあ、対戦相手のお出ましだ」

 ルクセルとは別働隊だという騎士隊長セブは笑いながら尻顎で促した。

 ごつごつした骨格に見合う重装武具は軽い材質で出来ているが十分な衝撃に耐えうるという。

 セブはこの時代珍しいタンクメイジで、得意武器は斧らしい。しかし、この試合はすべて素手の近接戦だった。

 魔国の代表側から歩いてきた試合相手は、エルフに類似の顔の造りの短髪で細い美男子だ。肌はほんのり青みがかり顔色が悪く普段着の軽装のままで軟弱に見えた。

「魔国側はひとりなのか?」

「魔族なりのハンデさ。あの肌の魔族はフィフニール族だ。さあ、頑張って逃げろよ」

「意味がわからん」

「変身するんだ。種族特性で魔法じゃないといっても、近接戦なんかヤバすぎる相手だ」

「変身?」

 詳しく聞こうとしたときだった。

 高らかに響き渡るラッパの音に観衆の大歓声が会場を包む。

 これは試合開始の報せだった。

 魔狼の聴力では強烈な音波の攻撃になりかわり軽く目眩がした。

「うおっ、避けろ!」

 聴き終えるその言葉よりも先に、セブは魔狼の視界から消え去っていた。

 歓声の中小さく呻いた声が聞こえて振り返ると、その大きな体が背後の競技場内壁まで飛ばされていたとわかる。

「おっさん、大丈夫かー」

「人の心配をするとは余裕だな、勇者。聞くが怪我はどこまで耐えられる」

「痛いのは泣くかもな」

「ははっ、程々にしといてやるよ」

 細かったはずの美男子は現役ボディビルダーのごとく筋肉隆々になっているのが服のままでもわかった。顔と体のアンバランスさは笑える気がした。

 思えば魔狼として産まれて一度も大きな負傷をした事がない。

 そんなことが頭をぎり、痛覚耐性がすこぶる貧弱な気がして口の端があがる。

「その身体はどんな仕組みだ」

「三段階強化能力とだけ言っておく」

「えげつないな。加減してくれよ」

 よろよろと起き上がるセブを目の端で捉えて相手はあれだと視線で教えてやる。

 装備が多少凹んだ程度に見えるセブは大丈夫だろう。

 タンクの打たれ強さはどの時代も定評があるものだ。

「オマケも叩かないと判定に響くからな!」

 そう言って男は猛スピードといえる速さで魔狼に突進したのが見えた。

 思わず避けてしまうのは仕方がない事だ。痛いの嫌だしなあと思いつつ体が動くのはむしろ本能だった。

 拳をことごとく回避されるのは予想外の動きだったらしく男は驚いた表情を見せた。

「すまん、見えてるもんでつい」

「なんだと?!」

「ここで倒れたらいいか?」

「えっ、そ、そうだな、軽く腹殴るぞ」

「腹より顔で頼む」

「よ、よし!」

 だってイヌ科は腹を見せる触られるのが嫌いなんだ。そんなことを思いながら殴ろうとする男の拳をついつい避けてしまう。

「避けるな、当たらんだろうが」

「ははっ、悪いな」

 多分この場内でこのふたりの速さを目で追えるのは十数人いる程度だろう。

「っ!」

 倒れないと負けれないと思い直し、魔狼は拳を受けると頭から地に叩きつけられた。 

 気が付けば目の前で砂埃が舞うのが見え、倒されたと頭で理解する。

 受け身で軽く殴ると言われ呑気に構えていたのが拙かった。筋力増強した男の力は単純に強かったのだ。

「っんのやろ……いてて」

「大丈夫か、勇者。おい、お前の相手は俺だ! どーんと負けてやるぜ、来い!」

 セブは魔狼の前に立った。

 大歓声の中には勇者を罵倒する言葉も混じっている。

 魔狼は面倒クサイと思いつつ、転んだままセブの勇姿を眺めていた。

 公式戦で死者は出さない取り決めはあるが負傷は当たり前の事。

 この試合も八百長だとしても怪我をすれば後遺症は残るし、手足の切断だってありえる戦なのだ。そう思えばいいようにやられるのが魔狼は腹立たしくなった。

「なぁ、お前、ちょっと一発食らってくれ」

 魔狼は、そう言っておもむろに立ち上がると直ぐに地面を蹴った。

 見えたのは魔王とトメちゃんだけだろう。

 何が起こったかわからずどよめきが走る。

「っうぐ!?」

「軽いお返しだ。すまんな」

 男は前かがみになり、苦しげな息を声を発して口からぼたぼたと血を吐き漏らしていた。

 セブも魔族も魔狼の動きが見えなかったらしい。

「何をした、勇者」

「軽く腹殴った。よし、こっから俺はまた倒れるからな。おっさんも適当に受け身で倒れろ。騎士生命終わる大怪我は嫌だろ」

「え、いや、そりゃ、微妙かも知れねえな」

 くいくいと親指を指す方を見ると、魔族は青い肌をふるふると震わせ怒りの形相を見せていた。




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