やっぱりこうなるのかと思う件
「何でもかんでも我のせいではないのじゃ」
トメちゃんは心なし頬をふくらませた幼い顔で魔狼を見る。
「岩だか地中のことは管轄だろう」
「そんな事は知らぬ。なんで我が地面や石っころに責任もつのじゃ。地響きくらいは起こるかもしれんが他は知らぬぞ」
地震と地割れについて聞くと明らかに不満の声が返ってきた。
言われてみれば確かに古竜は神でもないただの魔獣だ。
大陸の守護者と呼ぶのも人間たちが付けたもので、強大な力を畏れ敬う存在というだけ。
つまりトメちゃんの行動で起こる事象がそうだとしても二次災害的なもので、魔狼も炎赤竜を知っているだけに責めるのは御門違いだということだ。
つまらぬ質問をしたなと後悔して話題を変える。
「それで、数日二人で何してたんだ?」
他人のことは実際どうでもいいのだが。
社交性云々より、そのまま離れて暮らせるのにわざわざ他人の旅の共に逆戻りすることを聞かずにはいられなかった。
「それはの、観察して、お、むぅ」
「失礼。そこまで」
突然ルクセルはトメちゃんの口を背後から両手でお覆い隠して遮る。
「な、なんじゃ、ルクセル」
「言うんですか?」
「どうしようと我の自由じゃろ、っと」
時折、ガタと軋む音がすると不規則な振動が伝わり話をすれば舌を噛みそうになる。
魔狼たちは現金を手に入れてきたトメちゃんの支払いで、荷馬車に荷物と相乗りさせてもらっていた。
「揺れるなあ」
「んっむ、乗り心地が悪いのう!」
「荷車はこんなものだよ」
散々な座り心地に苦笑する大人たちをよそにプーだけは笑顔で揺れと共に隙間を転げまわっている。
「で? 観察ってなんだ」
ぶり返す魔狼の質問に、トメちゃんもルクセルも真顔になった。
「聞いたのじゃ。ルーは勇者だと」
「……あー、そうですか。まあ、実際困った話だったろ」
いらぬ事をとルクセルを視線で咎めると肩を竦めて見せた。
「どこまで話した」
「召喚から追われる身になったことまでだ」
悪びれもなく真っ直ぐな視線を返され、答えた内容にいくばかりか耳を疑う。
「全部じゃないか」
「そう怒るでないぞ。我はそれで理解したことがある。とんだとばっちりという事じゃ」
「まったくだ」
「その一言で片付けられると、王族や国に忠誠を誓って職に就いた自分が阿呆みたいに思えるな」
武骨な出で立ちだったはずのルクセルは、すみれ色の髪をおろし少しばかり淡色のシャツに変えただけで女性らしさを醸し出していた。
手甲は鞄に入れ大剣は布で包み、床に転がしている。
「阿呆じゃな」
「そうかもな」
「ははっ、身も蓋もない」
ルクセルは魔狼とトメちゃんの言葉に笑いながらまた肩を竦めて見せた。
「それでじゃ。謎の多いルーのことじゃが、面白がっていた我もちと悪かったと思い直しての」
「ふーん?」
「実はこの数日、他人の目の無い所ではどんな行動をするのかと地下から観察していた。私も興味があったから相席したが色々驚きの連続だったな。しかしそのコートの収納魔法は実に羨ましい」
「は?」
まさかストーカーのような事をされていたとは驚くしかない。それにまったく気配も感じない完璧さでだ。
「ルーはそのまんまじゃな」
満面の笑みを浮かべたトメちゃんは、魔狼に裏表がないことのように言った。
まんまも何も魔物で獣なのだ。
人であってもいちいち策略立てて行動するのは余程のことじゃないのか、そんな事を思って眉間にシワができる。
「色々隠し事はあるようじゃが、港まで連れてってやろうぞ」
「……今、向かってるだろ」
「荷馬車でなく地下で移動の事じゃ!」
「最初からこうしてくれたら良かったのに」
魔狼は海風を感じて独特の潮の香りに鼻を鳴らす。
程なくして荷馬車を降りた魔狼たちは、トメちゃんの宣言通り地下移動で数日かかる距離を数分で跨いだのだ。
ここは航路として栄え、防衛と貿易の要と言える港町は魔国最大の町であり魔王が座する場所でもある。
今はフィネリア王国にいて不在らしい。
やっとここまで来たのだ。
「これは対価なのじゃ。短い間だったが面白かったしの」
「惜しい。実に惜しいな。勇者でなくとも騎士団に欲しいくらいだよ」
「好きに言ってろ」
それぞれ思うままの発言を聞き流し、魔狼は町の奥にある船着場を思いトメちゃんに手のひらを差し出した。
「なんじゃ」
「門出には船賃がいる」
「図々しいの」
魔国は相変わらずフィネリアとの対戦なんて微塵も感じさせないのが日常的だ。
町の入り口には門があり兵もいる。
商人には課税を旅人には通行料金が発生するようだ。
長い列に我慢して入った町の港はまだ遥か先にあるらしい。
「ま、昔の思い出も程々にな」
魔狼は引きこもりのトメちゃんに向けて言い放つ。
「この一秒が既に過去だしの、過ぎたことにしがみつくのも時間の無駄じゃ」
「わかってるじゃないか」
「ほんと生意気よの。我はルーより生きておる古竜じゃ。読書は趣味じゃし地下にいるのは我の特性でしかないぞ。この大陸の国々の行く末にも最早興味は無いしの。懐古主義でもないし好きにしてるだけじゃ」
見た目が見た目だけに、胸を張って踏ん反り威張るようなトメちゃんは可愛く見えた。
「私は国から出たことがなかった。これを機に色々旅をしてみたくなったな」
ルクセルは身分を捨て行方不明でいいのかもなと笑う。
別れのはなむけの会話とはならず、大都市とも言える町の発展ぶりに感嘆した魔狼たちは観光ついでに買い物巡りとなっていた。
「すぐ船に飛び乗ると思ったのじゃ」
「地下移動で短縮された日数を考えれば、これくらいはな」
トメちゃんは物珍しさに次々購入しては地面に落としている。地に吸収させて住処に送っているのだろう。
「女性の買い物は長い事がよくわかるな」
「楽しむものじゃからな」
「収集癖だろ、いたっ!」
本ばかり購入することに竜共通の習性を口にすると魔狼はトメちゃんに足を踏まれる。
「私はこの店に暫くいたいのだが。ダメだろうか」
ルクセルは相変わらず目新しいものが陳列する武具屋に目を輝かせて食いつき、今は必要ないだろうと諭されるのだった。
「これがマーカーか」
「なんと手入れのなってない。元魔王に文句でも言いに行くかの」
町の中心部には公園と言っていい緑地広場が整備されていた。人も殆どおらず、広大な芝生広場といったところだった。
トメちゃんは見送るのは嫌いで自分が先に帰ると言い、自分に会いたくなればここに来いと魔狼たちを連れてきたのだ。
「転移陣じゃ。大昔ここは王の庭でな。これを使うと地下を泳ぐより早く帰れる」
草地の中に石畳があるのが見え、それには確かに文字が刻まれていた。
「これは、大きいな」
ルクセルは円の片鱗から規模を予測し周囲を見渡す。
「似たようなの見た気がする」
魔狼はクロウ達の描く魔法陣にある文字がある気がして覗きこむと、コートから小さな腕と頭が生え出た。
そして、プーの手は何を思ったのかぺんぺんと石畳を叩き始める。
「まあ、我は先に行く。また会えることを楽しみにしてるのじゃ。陣から出とれよ」
「ああ、またな」
「地岩竜様、元気で」
鳥肌が立つ程の魔力を感じた魔狼の視線は淡く光る陣に立ち、地に帰るトメちゃんに向かう。
すっかり足元のプーのことを失念していたのだ。その手は陣の端をペシペシ叩き続けているのだった。
「え、?!」
魔狼は淡い光に包まれ始めた事に混乱し、咄嗟に隣にいたルクセルの腕を掴む。
ふたりは慌てるが時既に遅しだった。
「な、なに?!」
「まじで?! 勘弁しろよ!!」




