くるしみはイラつきと共に横道に
「道案内はどうです?このまま陸路で海を目指すんですよね。隣の大陸に渡る案内です」
魔術師は提案した。
術が無理ならと考え出した答えなんだろう。
現在位置は正直不明だ。
確かに時折確認する川の流れで河口には向かってはいる。それが住処に続く大陸側かどうかは不明。違うならまた移動するしか無い。
だが、この大陸にいる自体この男の責任だ。
「そうだな。それ位は当たり前の補償としてやって貰おうか」
「は、はい。やります!」
何が嬉しいのか笑顔で答えた。
・・・何か間違っただろうか。
早速男は近くの町に寄り地図を買ってきた。
「これは今居る場所や方角や地形がわかるものです」
「便利な物が出来てるな」
なんだ。発達したな。この世界もとうとう近世突入か。
前に人里来たときは育成ゲーム開始ばり開拓時代で貧相だったのに。
地面に広げた地図に前脚を乗せ犬の頭を上下させ、うむうむと聞き入る。
「ここが召還した森で、城はここです」
「そうか」
「今いる所がここですね」
「そうか」
「で、こちらが魔狼様の住む大陸です」
「なんだと?」
地図で見たこの大陸は俺の住む大陸よりも数倍大きかった。
方向は間違って無い。現在位置は中間位だ。それよりもだ。
事実を知ると耳と尻尾がしな垂れた。
「こ、これは海か!」
あ、ありえないぞ。太平洋並みじゃにいないか・・・!!
驚いて噛んだ。海は広かった。まじで。
俺、正直ドーバーかベーリング海峡くらいだとなめてた。海くらい走って渡れるってなめてた。なんだこの大陸の離れ具合。距離全然わっかんねぇ。何だよチクショウ!
犬の姿の俺は息荒く、開いた口からは舌が横に出た。
「そうですね。大海ですね」
「お、お前エラいとこから俺を召喚しやがったな。そ、そうだ。この、この海のだな、こことかこれだ。点在する島に術で飛ばして貰おうか。短距離ならいけるだろ」
前脚でココだココと地図をパンパンという音を出して叩いて見せた。
「行ったこと無い土地は無理です」
「何だと。お前術位最高なんだろ。できないのか」
「え、はい」
「使えない奴だな!」
「ええぇ…」
そういうと男はしゅんと沈んだ顔になった。
かなり困ったぞ。
困ったどころか窮地じゃないか。呑気に観光してる場合じゃない。何日、いや車も飛行機も無い世界だ。下手したら数ヶ月かかる。
魔術も利用できないとなると・・・
ああああああ!!
久々に振り回されてるよ、転生して初めて超絶イライラして来た!
グルルルルヴゥッ
尻尾はゆらゆら、鼻皺は深く牙が見え、眼孔は険しく魔術師をみやる。前脚は地図に爪を立てて穴を開けた。
「ひっ」
なんだ。人間を咬み付きたい気分は初めてだぞ。魔術師の怯えた顔は、あれだ。狩猟の血が騒ぐな。
まあ落ち着け俺。
咬んでも何も変わらない。むしろ悪化する。
考えろ。というか、俺は住処で昼寝を貪りたかっただけなのに。
どうしてこうなった・・・
こいつの所為だ。だからどうする。
どうして貰おうか。
はっ、として耳と尻尾が天に向きしっかりとたった。
「おい。お前、名前は」
「え、あ、すみません。俺はクロウ・シャズナルです」
「そうか。クロウ、お前は今日から俺を住処に返すまで下僕な。ありとあらゆる手段をもって責任を取って貰おうか。俺をちゃんと住処に帰せ」
魔術師ことクロウはまた放心し、開口して固まった。
「げ、下僕…?」
「そうだ。俺の平穏を乱した罰だ。償ってもらおうか」
「ま、魔狼様、の、下僕?…俺が、」
ん、んん?なんだ。余程ショックなのかクロウは俯いて拳を握り肩を緊張させて震え出した。
まあこれが責任という結果だ。金銭出費も含めて色々頑張ってもらおうじゃないか。
「ま、魔狼様の下僕なんですね!有り難うございます!これで気兼ねなく御一緒できますね!俺、絶対ちゃんと住処までお送りしますから。頑張ります!俺、嬉しいです!」
顔を紅潮させ、興奮して一気に喋った。
しまった・・・
俺、完全に間違った。




