野に咲く花はひれ伏すが良い
「これは偽造ですね」
神妙な顔をした宿のスタッフは言い切る。
「何じゃと……バルテルに貰ったのじゃぞ!偽造など王を愚弄するも同然!」
「確かにバルテル王は存在しましたが、半世紀以上前ですよ?はい残念。ありえません」
「たかが半世紀じゃ!」
「そりゃ貯蓄はできますけどね、これの残額国家予算並み。はい無理。支給金でこの額。絶対ありえません」
淡々と語る理由は筋が通っていた。
そりゃ恐ろしい額だわ。
「……おのれ、我を、侮辱するのかの」
俺は並んで座るソファで呑気に成り行きを見守っていた。ジワジワと魔力の波が急激に増大したのに悪寒が走る。これはヤバイ。
メキメキッ、パキッ!
「ひっ!」
「おいっ!」
「っわ!」
石床が膨張したと認識した瞬間ルクセルは後ろに飛び、俺は前に出てスタッフの男を突き飛ばしていた。
「犬っころ、ナゼ邪魔をするのじゃ!」
「殺す気か!」
男が座っていたソファは、床から伸びた幾つもの石槍とも言えるブッとい棘に貫かれていた。確実に死ぬやつだ。
「我は悪くないのじゃ。侮辱には厳罰。膺懲じゃ。それこそ平伏せものども!が最短の勝利であろう?」
「は?」
「え?」
・・・なに言ってんだ?
静まり帰る室内。複数の足音が聞こえた。
ああぁ!どうしてこう変なのばっか!
「出るぞ!」
「これからなのじゃ!」
「ぅわっ?!」
咄嗟に魔力をのせた足でルクセルを抱き上げ、トメちゃんの首根っこを掴み、プーを肩車にしたまま速度をつけて壁を蹴った。
開いたドアから警備兵らしき人影を避け飛び出て壁を走る。魔力持ち魔族でも追いつけない速さだ。
あっという間に宿の外。 離れた路地裏でプー以外をペッと投げ捨てた。
「トメちゃんは見護る者じゃないのか。人が嫌いでも無益な殺生はやめろ」
「そ、それとこれとは別じゃ」
「何がだ。驕り虐げるって?」
「うぬ。犬っころが我に説法かの」
あああ、腹の立つ。
イライラするわ本当。
ギリッと奥歯に力が入り歯軋りが鳴る。
「グルルルゥッ!」
「ヴルッ」
お互いの喉が鳴り視線が外せない。反抗期の小娘を睨んでいる気になるのが難点だ。
獣の諍いと知らないルクセルは、気不味い雰囲気だけは汲み取り止めに入った。
「それくらいにしろ!」
まあ竜には勝てん。嫌味でもいわなきゃ気が済まないだろ。
「物欲が無いとはこーいうことか。金も使ったことがない?長生きでも人の世の仕組みを知らぬと?竜に必要ないから仕方ないよな」
「うぬぅ!」
「面倒はごめんだ。文句があるなら一人旅にしろ。その方が気も楽だ」
「っ、と、友じゃ無いのか!」
「友も色々だからなあ」
「ぅ、乙女心を弄んでつめたくするのか!?ルーは、ルーは酷い男なのじゃー!」
「は?」
「乙女?」
トメちゃんはそう叫んで路地裏を飛び出した。まさしく脱兎の如く。
夜の町なのにそこかしこが雑踏だった。昼と同じく働き店も開き活動し続けている。顔色が悪いのが特にそうだ。獣人や明らかな魔人は少なく感じた。
「ここは夜遅くまで賑やかだな」
「探しに行かないのか」
ルクセルはトメちゃんを探さない事に不満なようだ。探すふりして町を徘徊しているのもバレバレか。
「魔力が強大だと居場所は直ぐわかる。何人か向こうを気にしているだろ」
「感知系はないから羨ましい。便利そうだ」
「そうでもないぞ」
関知したくない事まで知れるからな。
てゆか誰が乙女だ。
ぺんぺんっ
プーが俺の額を叩いて何かを報せる。向こうは川だ。早く進めと催促か。泥臭さは川の方角からもする。
「おい、こっちだ」
ルクセルは路地裏の奥を指差した。そこにいたのは地下で見た執事風中年紳士。膝から上だけ地に出て近づいて来る。地中を歩くってやつか?気持ち悪すぎるわ。
「主から頼まれていた物です。どうぞ」
ルクセルにすみれ色の手甲を、俺に青白く見える二センチ程の円石を差し出した。
「友に贈り物だそうです。ルクセル様には傷んだ手甲と交換と。魔狼様には魔力次第でいい装備になりましょう。どちらもコランザムで出来ております。では」
「装備?」
「わ、私にまで?コランザムとは!」
用事は以上だと地に沈んで紳士は消えた。
贈り物だ?友に?
トメちゃんがくしゃっとしたなんとも言えない顔をしたのを思い出す。あれはやっぱり嬉しかったのか。可愛いとこあるじゃないか。
「……迎えに行くか」
「……ぅ、美しい」
何か知らんが興奮のルクセル。俺が魔狼と呼ばれたのも気にならないようだ。早速手甲を装着し、頬を赤らめてウットリしていた。
えーと。武具マニアですか?それに、
「コランザム?」
「カーボナードの次に硬く高級なものだ。初めて手にしたが、実に素晴らしいな!」
カーボナーラ?カルボ・・・何だっけ。
あ、ダイヤモンドだ。その次トランザム?なんかのMSシステムか。えーっと確かルビーかサファイア?とにかく硬いのはわかる。
婚約指輪でも頂戴したかのように見つめ続けてるし、ちょっと気持ち悪い。それに俺には円石。装備?この石が?魔力でトランスフォームでもするのかコレ。
掌に転がした円石をひょいと小さな手がそれを掴んだ。目で追うと、それは乗り出した顔の小さな口にもっもっと吸い込まれた。
「おいおいマジか」
「……飲んだのか?!」
プーはにこっと笑ってまた肩車に居直りペンッと俺の頭をひと叩きした。
ああぁ、よっくわかんないわホント。
石だけに多分消化しないよな。ウンコもしないし。スライムだから出し入れ可能?それとも消化しちまうか?俺には多分必要ない物だ。装備はコートの下に鎖メイルと胸当て。コレで何とかなる。
「……まあ、いいか」
「いいのか?!」
「精霊だしな」
「……ああ」
「じゃ、あっちな」
なんとも微妙な顔をしたルクセルを背に、大きな魔力を感じる方へ足を進めたその時だった。
ズズンッ
音と足から伝わるのは地響き。地震にも思えた。元からある泥臭いニオイと埃っぽさが更に増し、風に乗り鼻につく。
「町の入り口の方だな」
「何の音か」
「先行くぞ。自分のペースで来い」
「え、」
ルクセルを置いて魔力を使い駆け出した。プーが髪をグッと掴んだのがわかる。
人の騒めく声もゴロゴロとまた何か転がる地鳴りと悲鳴、怒号もする。
そこは辺り一面の土と大岩。建物を薙ぎ倒し押しやり原型を崩して土が覆う。暗がりに見えるのは土から出た腕や足。境になり助かった人々は目の前に倒れた人を助け始めていた。
「土砂崩れか?」
視線を崩れた場所にやると地岩竜の山の手前にある小山が崩れたようだ。
その山の剥き出しになった石壁に座っている人影があった。助けるでもなく人々が泣き喚き騒々しく救助をするのを見降ろしていた。
「……トメちゃん?」




