ねずの町で案の定
ズルはしないと言ったが多少ずれた様だ。
「満腹になったら眠いからの!」
間違えた言い訳はきちんとする欠伸をした涙目のトメちゃん。クッソ見た目が良いのが腹立つ。
食事はトメちゃんと俺には兎肉、ルクセルにはそれとミネストローネっぽい野菜沢山スープだった。プーは俺のコートの泥を手で拭って舐めていたのを止めたらブリブリ怒ってめっちゃ頭をしばかれた。なんでだ。
ルクセルはバリボリと骨まで噛み砕く俺たちにドン引きしていたが。服になら生活魔法が使えたと思い出し綺麗にしてもらった。
そろそろ追い払う理由も尽きる。結局ルクセルに簡単に、魔国が粛清を目的とした歴史ある戦になっている事を話した。
「始まりは知らないが城勤務の重職者は知っている。今や国と王の尊厳を賭けたゲーム。死人となるのは不正を行う者だ。負傷者はでるが損害が少ないから問題ない。魔国に屈せず戦う事に意味があるらしい。勝てば魔国と対等以上に収穫がある。負ければ領主再編成にもなる。伝統行事に近いな」
「……なんだと」
ふざけてる。
あの女王やっぱり曲者じゃないか。
「召喚した勇者は何故か疑わず魔王は悪だと思い込む。ヒュッテ達の誘導も上手いんだろうな。自分がこの地位に居るのは運だけだ。仕事はする。それだけだ」
詐欺じゃないか。十分腐っとる。そりゃ魔国が粛清したくなるのもわかる気がした。
戦況を見て気が変われば城に連れて行くのはやめるとルクセルは言い切った。魔国に入るのは初めてらしい。
「変な人間じゃのう」
「イシュー様が人の味方でないのも驚きだ」
「竜は誰の味方もせぬわ。我は大陸を見守る者よ。精霊も魔獣も同様じゃ。偉ぶるのは人が目立つのじゃ」
「人が?魔族だってそうじゃないか?」
眉間にシワを寄せたルクセルの疑問には、現世で獣の俺には直ぐ声に出た。
「放っているのに手を出すのは人間だ。獣は縄張りに入った者を排除するだけ。食べる為の捕食をする。弱いのに向かってくるから戦う。そして痛い目に遭うわけだ。魔族や獣人はその辺は控えめだからな」
「そうなのじゃ。この大陸で孤立しているのは人間の国。他国へ渡った人間は目が覚めるようじゃな」
「……孤立」
ルクセルは考え込んだ。
「……目が覚めるまで勝手にしろ」
「ほらの、ルーは気に入ってるのじゃ!」
「なんでだ!」
となったわけだ。
いや確かに。追い払うでもない自分に首を傾げる。女王にそう伝えろと追い払えばいいのに、クロウの犬好き変態やクルフェルとは何か違う。
ツンだから?
俺そんな好みだっけか?
とか、思いつつ。現在地は山を降りた麓の集落近くだった。方角はあっている。川を二つ渡れば港だ。
トメちゃんは少し進み過ぎたと口を尖らせた。
「しかし、この辺りは泥臭いな」
「そうかの」
俺の嗅覚は確かだ。風に乗るニオイは土と独特の埃と生臭さ。
魔国側でも採石で栄えた町だという集落に到着したのは夜だ。一見普通の町。魔族とはいえ他種多様な種族が共存するのが魔国。
見目は人だが、顔色は青白くいかんせん泥臭い。他に見慣れた耳が尖り肌の薄暗い種も獣人もいた。
「なんじゃ、不機嫌じゃの、ルー」
「クサイからな」
二人は首を傾げた。頭上も顎らしいのがグリッとなったからプーもだ。
「町に来る必要があるか。このままのペースなら夜通し歩きたい」
いっそ連れは無し一人で。そう思う。
「人間は宿に泊まるのであろう?」
「自分は軍人の端くれ。野営で十分だ。それに魔国の金もない」
「え、通貨違うのか?」
俺、残金が使えると思っていた。
「仲良くも無い隣国と同じでどうする。属国にしてるが経済は別じゃ」
「それじゃ冒険者のギルドも無いと聞いたがどうやって稼ぐ」
「物々交換じゃ。または買い取り。ギルドは商業組合がある。魔力や技術持ちでの生産に長けておる。何かしらの力で自活できるのが魔族よの。変わってなければ三割は貿易収入で国からの支給じゃ」
「なんだと」
「本当か。聞いてはいたが……」
「他国人には優しく無いな。森も無い」
俺もルクセルも驚きだ。
コートの空間には多少食物も残っている。先が見えないのに油断していた。もっと補充がいる。しかも狩りも無理で稼げない。
やっぱりここは魔狼に戻り疾走するべきか。
「我がいるのじゃ!」
「どういう意味だ」
「友がくれたのじゃ!我は魔国民証を持っておる。証書発行はの、特技、出生、生産能力とか審査して時間もかかる。これがあれば支給金品がもらえるのじゃ!しかも受給してなければ貯蓄して引き出せるという便利極まりないのじゃ!」
「なんと」
「おぉ、トメちゃん凄いじゃないか」
腰に手を当て、銀のカードらしきものを何処からか出した手を掲げ、ポーズを決めた。
ちょっとだけ見直したぞトメちゃん。魔国スゲえ。
そして早速物は試し。トメちゃんはキョロキョロしてこっちじゃ!と走り、見るからに高級感溢れる宿屋についた。
字は読めん。乳白色にグレイの模様がはいるハウライト石造りの三階建は、余計な装飾の無い角の多いモダン風だ。
「ほほう、ちと見ぬうちに整然としとるの」
「え?泊まるのか?」
「野営でいいのに」
「久々なのじゃ!我と行くのじゃ!」
ずかずかと進むトメちゃん。一泊か。明日は魔力走行にしよう。戸惑うルクセルと後に続いた。
それにしても臭う。町の土からか、鼻が曲がりそうだったが多少慣れてきた気もした。
「いらっしゃいませ。どちらを利用されますか?」
受付はまさにホテルのフロント。カウンターに感じのいい男女一人ずつ。どうやら宿兼複合施設らしい。
「風呂じゃ!」
「畏まりました。支払い者の身分証をお預かりします。お連れ様は二名ですね。ご利用は二時間までとなります。階段を地下に右手にどうぞ。出られる際に清算返却しますのでこちらにお寄りください」
「行くのじゃ二人とも」
「風呂?」
颯爽と地下に向かうトメちゃん。ルクセルは嬉しそうについて行く。
ちょ待て。この世界そんな文化あった?初耳なんだけど。でもこの臭く感じるニオイは温泉ガスや硫黄でもない。
「トメちゃん風呂って何だ」
「何じゃと?犬っころ仕方ないのう。湯浴みじゃ。温かい水の中で体の汚れを落として温もるのじゃ。人間は王族や金持ちがするらしいがの」
「魔法が使える者が限られるからな。中々できるものじゃない。騎士は魔法師がいるから好むのが多い。服と肌の清潔魔法よりいい。実に有難い」
完全に銭湯じゃないか。魔狼の姿は撥水で必要ない。人肌は何故か汚れる。ここは有難くいただこう。
そして、まさかの大浴場。混浴でも無く開放感たっぷりな風呂を満喫することになる。いやこれはこれで満足だ。
プーは俺と一緒だった。湯船の底に沈んだままだったからひと騒動あったが。
「なんじゃ、行水並みじゃの」
「そっちこそ早かったな」
「……さっぱりした」
おおおぉ。トメちゃんとルクセルが湯上り美人じゃないか!
重装備は魔国では目立つから袋にまとめ、ズボンだが軽装でサラサラの髪を全部おろした姿は気の強そうなお姉様と呼ぶに相応しい。
トメちゃんはそのまま黒づくしだが、二人して何だこの良い香り。異世界にして初めて茶葉より良い香りを嗅いだ。茶葉比較は怒りそうだから言わないが。
そして案の定、事件は起こるのだ。
「何じゃと?」
「身分証としては確かなのですが、清算できません。残金や偽造など確認致します。ご了承ください。ではお客様、警備室へどうぞ」
「バルテルに貰ったのじゃぞ!出来ないとはなんじゃ!」
「お客様、こちらへ」
カウンター越しに食ってかかるトメちゃんを宥め警備室に向かった。




