ようやく待望の時が来た
体重を感じさせない着地で魔術師達の前に現れた魔狼は、咥えたプーをまたポテッと落とす。
「おや?」
「ループス!あ、ぁ会いたかったですっ!」
「あら、魔狼」
クロウは相変わらず愛犬か恋人にでも向かう様に直進ダッシュをした。勿論、二、三歩で避けれるわけで、直前で魔狼は横にずれる。
スカッと抱きしめたかった両腕が空を切る。
立ち止まったクロウはギギギと横を恨めしげに見た。
「ループス、そ、そのくりくりな子犬は一体どーしたんですか!?拾ったんですか?」
「あらら、むちむっち。可愛いわぁ」
「何ですかその魔物、はて?赤目なのに微力で弱い。やはり魔狼殿の魔力が一切感じられないのは何故ですか?」
皆の視線が一斉に子犬に集中した。
「光球虫が擬態した。あとは知らん。おい早く魔王に報酬を貰いちい。帰れるんだろ?」
確かに何かが変わった。
ラズもクロウもクルフェルも魔力なの靄がかったオーラとでもいうのか、体面を覆ってるのが見える。
だからと言って何ができるわけでも無い。
いう必要もない。
俺の魔力が消えたのは何故か。
知るわけもない。
「これ虫ですか?な、すばしこいな」
「擬態できるの?ほえー、ちょ、こら」
プーを囲んで捕まえて撫でようと躍起になっているクルフェルとクロウ。プーは触られまいとぴょんぴょん跳ねて避けていた。
「知らんとは、また面妖な。まあいいでしょう。魔王様の所に行きましょう。中門」
「えっ!私は帰るって、
ラズは羽織っているクロークをばさっとはためかせる。魔狼は詠唱と同時に魔力が拡散したのが見え、空気中に薄らいでいくオーロラの様な美しさに目を細めた。
「ループスが言う住処のあるグルガナの森はこの大陸なんです」
クロウが地図を広げて指し示す。
「ほう。全く反対の大陸じゃないか」
「だから転移が無理で、海を走って渡れそうな距離がこっちの港なんだ」
ラズは納得して頷いた。
「へえぇ。大変だねー」
「はぁ、そうだったのねぇ」
転移して魔王一行が止まる宿に来たが、凄いぞココ。壁も柱布張りで金糸刺繍と石造りの白と絶妙なバランス。家具もロコ調で品良く無駄なく宮殿の一室に見える。破壊神に高待遇なのか?
ロズゴは地上のユーリウス再構築完了報告を地下滞在となった領主にしに向かった。
「ここって確か炎竜の国ですよね」
ラズは魔狼に確認した。
「そうだ。それが住む麓の森に住んでいる」
ココだココ!と魔狼は地図を前脚でぱんぱん叩いた。
「ほう。それは興味深いですね。この大陸は緑竜と碧竜がいます。それぞれ竜の恩恵で土地が育ちます。魔物最上位の竜が、
「いいから早く俺を帰らせろラズ、魔王直々報酬は貰えると言質を取ってるぞ」
うんちくを垂れ流すと長いから遮り、早々に帰郷したいと催促した。
「ルーは言質なんて知ってるのか。やっぱり変わってる魔獣だな、ラズ、勿体ぶらず転移してあげて」
「……そうですか魔王様」
ラズに物凄い冷淡な視線を投げられる。話の腰を折って不機嫌だろうが俺にそんな事はどーでもいい。
魔王も援護に入ったぞ。
ほら、早く早く。
は、や、く!
口を開きはっはっと舌を少し垂らして、尻尾をぶんぶん絨毯に叩きつけていた。もう完全に待てをされた犬状態の魔狼。
「ループス、いえ、魔狼様、その色々ご迷惑を掛けました。それでも思想も説教も為になりましたし楽しかったんです。森でまた元気で過ごして下さい」
クロウは眉はハの字でしんなりなって俺を見た。まあ元凶でイライラしたし毎日ストレスだったがクロウはいい奴だと思う。短期間でこれはこれで面白い体験だった。
だから言ってやろう。
「クロウ、お前は友達だ」
「ま、魔狼様!」
クロウはぽかん、とした後に初めて会った時みたいにボロボロ涙を流し始めた。
・・・しまった。
こいつ涙脆かった。
「げー、泣くんだ。魔狼、私は?」
「ルー、私もだな!」
「お前らは微妙だな」
「「えぇえー」」
「人に迷惑掛ける奴が贅沢言うな」
「あははは、ループス殿は人間臭いですね。本当興味深い魔獣ですよ」
「そうか、人間臭いか」
「そーだよ、ルーは変な魔獣!」
「ま、魔狼様は素晴らしいんです!」
前世が人間だからな。
獣として数百年生きてもまだ人間臭いのか。中身はやっぱり死んだ十代のままなのか?
コレだけ振り回されて何か変わったか?
丸くなったか?
森では必要無いが、まあ少しは成長したとしておこう。
「では、ループス殿宜しいですか」
「頼む、プーも一緒だ。こっち来いプー」
ずっと大人しく俺たちを眺めてたプーは嬉しそうに駆け寄って前脚の間にちょこんと座った。
クロウ、クルフェル、魔王、ラズに見守られて俺は住処に帰る。
送別。
まあこれはこれで無事だし、好意的な人達に囲まれてるわけで。
最高じゃないか。
ラズが省力詠唱を言えば旅も終わりだ。
「転移」
「面白かったぞ」




