たとえ正体が魔獣でもいいませんよ
日が暮れた町を幼犬に連れられた黒犬がとぼとぼ歩いていた。クルルと魔狼だ。
変に距離を取ろうとすると容赦無く毛を引っ張られる。噛み付くにも威嚇しても泣くのがみえてる。大人しくついて行くしかない。
「おっ、クルルじゃねぇか。家帰れよー。夜だぞー」
「うんっ」
「夜道は危ないぞクルル〜」
「うんっ」
「何だぁ?犬の客かぁ?」
「うんっ」
クルルは顔が広いようで次々と声が掛かる。ふと周りを見ると見覚えの無い道だ。暗いからか、どうなんだ。
次第にクロウのにおいが遠ざかる事に気付いた。
これ宿と反対方向じゃないか?親いなくて大丈夫かコレ。俺が宿まで誘導したほうがいいのか?と考え始めた所で足が止まった。
周りは木立に囲まれた広場だった。止まった先には小さな祠があるのが見えた。
「わんこ」
クルルは祠を指し示し言った。
ん?なんだ?
首を傾げて祠を見ると黒い獣の像があった。それは木彫りで明らかに黒毛の狼、黒鉄魔狼の形をしていた。
え?なんで祀られてる?
また反対に首を傾げた。
クルルは次は魔狼を指さした。
「わんこ。においちがう。お前、なんだ」
え?
目の前には二本足で立つ幼犬。幼犬に間違いないのに、急に眼つきが冷やかになり雰囲気が変わった。
「何だろねー?」
ニッコリして小首を傾げると幼く見えた。
どういう意味だ。いやそのままの意味か。
何だこの幼犬は。
俺はお座りをしたままで固まりクルルを見た。
「お前、犬ちがう。魔力たくさん。魔獣?」
ニヤリと子犬らしからぬ笑みを浮かべたのと同時に詠唱が聴こえた。
ゴッ!
押し出され空気が嘶いた音は低く広がり、次第に赤黒く、次に青白く変化した球体は火の玉だった。
なあああっ!?
クルルの背丈も超える火球が魔狼の上に現れ、それらは次々と落下した。
驚いてはみたものの犬の形だがそこは魔狼。動体視力が良く、落下する火球が一直線に来るのがわかってしまい、すいすいと避けて回った。
驚いて損した気分だな。
チラリとクルルを見ると当たらない事にイライラし始めたのか、頬は膨らみ口は尖り、しかめっ面になっていた。
周りを明るく照らし落ちるのを避けてまわる。地面は土と草の焦げた香りと熱気と土埃。そして火の粉が舞う。
火の粉に当たっても、火球がかすっても魔狼の毛は焦げも焼けもしなかった。
「もうっ!あーたーれー!」
てゆか、全く熱くないんじゃないか?
周りの草は焼け、鼻を通る空気は熱気だから幻影でも無いわけで。
えーと。そういえばクロウの雷には耐性あったな。まさか俺って火も耐性あったりする?
試しに避けずに真っ直ぐクルルに向かった。
俺、間違ってたら死ぬぞコレ。
真上の火球が魔狼めがけて落下した。
直撃だった。
引火して強火になった一瞬で黒犬は炎に包まれる。
「あははっ!あたったー!あたったー!」
次の瞬間、喜ぶクルルは目を見も口もあんぐり固まってしまった。
火球を出す事も動く事もない。
炎が消えたそこに黒犬がいた。
無傷のようだ。
何事も無かったように一歩、ゆっくりと一歩、進んで向かってくるのだ。
金色の目が闇の中で煌めき、黒い毛をまとう犬はクルルの目を見ては鼻先に皺を寄せた。まるで嘲笑うかのように牙を見せた。
「ひ」
黒犬の表情にゾクリとしたクルルは近づく魔狼に後ずさり尻餅をつく。
「お、お、おまえ、ちがう!魔獣!」
「…わん」
俺は、火球と音で人が集まりだしたのがわかった。
犬は犬らしくするもんだろ。お座りして尻尾を振っといた。
「おおー、なんだなんだ」
「焼けてんなあ!クルルまたおまえか!」
「おかみさんが探してたぞ〜。ちびっ子は帰れ帰れ」
「ま、まもの!犬、違う!」
クルルが指差すと集まった村人獣人は俺をみた。
「…わん」
「あはは!黒鉄魔狼会いたいのわかるけどよ」
「そうだよ、森の神様だろ。こんなとこいないって!」
「ま、まもの!」
「まった変なのに攻撃して呪詛くらってさ、次は小さいのじゃなくて石ころになるぞ?」
「ちがいねぇ!」
「魔術師さんよ、獣人呪詛かけられたのに懲りないねぇ」
あはははは!とクルルを笑い降ろして解散となった。
クルルと目が合うと俺は牙を剝いて見せた。
「……魔獣め」
クルルは項垂れて宿に向かって帰り始めた。
なんだ。どういうことだ。呪詛?
こいつもクロウみたいな阿呆の魔術師か?
それに俺、森の神様だったのか。変な信仰だな。耐性もわかったし、一段落かな。
まあ、これで宿でも静かに休める。
俺は宿に帰る為後ろから付いていく事にした。




